Act0-19 はじめての戦闘=生ゴミ大量生産
あれは、「竜の王国」を出て、二日目のときだった。
ラースさんが用意してくれた馬車に乗り、快適とは言えない旅を過ごしていたとき、不意に魔物の群れが現れた。虫系の魔物で、キャタピラーという芋虫に似た魔物だった。全身真っ黒だが、時折開く口のような部分は、炎のように赤く、ちょっと不気味だった。その魔物が突如、馬車の前に群れで現れた。言葉は通じそうになかったので、この世界に来て初めての戦闘に俺も参加することになった。が、その戦闘後に俺は、ひとり正座をすることになってしまったのだった。
「異世界人だから仕方がないとは思うんだが、さすがに「それ」はどうかと思うな、カレンさん」
苦言を漏らしたのは、アルゴさんだった。ちなみに俺を正座させた張本人でもある。理由は俺の戦闘スタイルを見て、言わずにはいられなくなってしまったとのことだ。見れば、後衛であるクリスティナさんとクラウディウスさんは苦笑い、アスラさんは思うところがるようで、物想いに更け、勇ちゃんに至っては爆笑だった。
でも無理もないとは思う。なにせ俺の戦闘スタイルは諸事情で素手だった。もっと言えば、殴り蹴るの、徒手空拳をメインに戦っていた。ただ「天」の力は使わずに、「火」と「風」の力をそれぞれ拳と足に纏わせて戦っていた。いわゆる魔法剣士。いや、この場合は魔法拳士ってところかな。まぁ、魔法は使えないから、あくまでもその属性の力を纏わせることしかできないのが、いかにも残念だった。
「接近しすぎでしょうか?」
「いや、魔法使いや弓士でもないのだから、接近して戦うのが悪いわけじゃないんだよ。むしろ遠距離攻撃ができないクラスはみんな接近して一撃を叩き込むのがあたり前だ。ただ、なんというかだな」
アルゴさんは、言葉に困っていた。語彙がないというわけではなく、単純にどう言えばいいのかがわからなくなっていた。そんなアルゴさんをしり目に勇ちゃんは、爆笑し続けていた。曰く、ありえねえということだった。どうありえないのかは、そのときの俺にはさっぱりと理解できなかった。
「一応この世界にも武道家というクラスはあるんだ。が、カレンさんのように属性を纏わせて戦うなんていうのは聞いたことがない。属性を付与させるという魔法はあるんだが、武道家になる連中は、たいてい魔法の才能がないから、パーティー内の魔法使いに頼まなきゃできないだろう。が、普通はやってもらえない。武道家に付与させるよりかは、ほかのメンバーに付与させることが多い。基本的に武道家は速度重視だからね。どんなに鍛えたところで、武器の一撃には遠く及ばない。中にはそう言われるのが嫌で、徹底的に鍛え抜き、どんな武器よりも強い拳や蹴りを放てる武道家もいるという話だが、俺は会ったことがない。とはいえ、それはあくまでも特殊な例だ。その特殊例であれば、属性付与の魔法を使ってもらえるだろうが、一般的な武道家ではありえんだろうな。それを自前でやってしまえるのだから、ある意味武道家というクラスにおける期待の星とも言えるんだが」
アルゴさんは、こめかみを人差指で抑えつつも、はっきりと言ってくれた。
「それでも、「これ」はないと思うんだ」
そう言って、アルゴさんが指さすのは、お腹に風穴があいた魔物の死骸だった。風穴の周囲は、焼け焦げていたり、断面がとても鋭かったりしていた。そしてどの魔物も一撃で絶命していた。犯人は俺だ。こうなるとは思っていなかった。というか、相手があまりにも脆すぎだった。まさか一撃で風穴があくなんて、誰も思わないだろう。
「いや、これは、相手が脆すぎて」
「……キャタピラー種は、虫系の魔物の中でも、甲殻がない魔物ではあるが、その分肉が弾力に秀でているから、甲殻のある魔物とそう変わらない防御力があるんだが」
「え?」
思わぬ返答だった。これで甲殻がある虫系の魔物と同じ防御力ということは、甲殻のある虫系の魔物もこんなに脆い魔物ばかりなのだろうか。
「そのうえ、これはキャタピラー種の中でも、特に高位なデスクローラー。下手な鎧よりもはるかに堅固な防御力を誇る魔物だよ。加えて頭部にある牙の一撃は、生半可な鎧など容易く砕いてしまうほどの攻撃力を持った恐ろしい存在なんだ」
「あー、どうりで凶悪なお姿で」
「その凶悪な魔物を一撃で絶命させる君の方が、はるかに凶悪だと思うがね」
アルゴさんの言葉に、俺はなにも返せなくなってしまった。ちなみに、アルゴさんが苦言を呈したのも、キャタピラー系の魔物は、素材が高価で、きれいに倒せれば、一匹で銀貨五十枚にもなるらしい。しかもデスクローラーであれば、場合によっては金貨一枚にもなるって話だった。
「じゃあ、こいつらを売り飛ばせば、その時点で」
ぱっと見たところで、十匹以上はいる。これだけで金貨十枚以上にはなるはずだった。……きれいに倒せていればの話だけど。
「……キャタピラー種の場合、特に高価なのは腹部でね。そこにとてもきれいな糸があるのさ。冒険者であれば、腹部を傷付けないよう、注意して倒すのが一般的なんだが」
ちらり、とアルゴさんは、デスクローラーという名の残骸を見やる。どれもこれもお腹に風穴があいていた。そう、お腹にだ。特に高価なお腹に風穴が空いていた。ただ風穴が空いているというわけではなく、焼け焦げていたり、断面が鋭く断たれていたりしていた。そんな状態で、肝心の糸がどうなっているのかは言うまでもない。
「……やっちまったってところですかね?」
「理解してくれて、ありがとう」
アルゴさんは笑っていた。あれほどまでに感謝のない、ありがとうは初めてだった。




