Act1-96 霊草エリキサ その三十二
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「では、またのぅ、孫娘よ」
じじいが、人化したまま、お社の前に立っていた。
エリキサも無事に手に入り、「ラース」に帰る俺たちを見送ってくれるようだ。
もっとも本音はゴンさんと少しでも長くいたいからだろうけれど。その証拠に、じじいは、だらしない表情で、ゴンさんを見つめている。
少し前までの、古竜としての威厳溢れる姿が台無しだった。そんなじじいを見て、ドラゴン形態になったゴンさんは、呆れ顔だ。
「もう散々聞きましたよ、爺さま~」
やれやれ、と肩を竦めつつも、ゴンさんの口調は、楽しげだ。
出会い頭に殴り飛ばすような物騒な孫娘ではあるけれど、それでもじじいのことを、祖父として敬愛していることがよくわかる。
本当に嫌っているのであれば、決してそんな表情はできない。まぁ取り繕うために笑っているという可能性は否定できないことではあるのだけど、たぶん本当に楽しんでいると俺は思っている。
羨ましいことだよ。離れていても、同じ世界に家族がいるっていうのは、すごく羨ましい。
「何度でも言いたくなるのじゃよ。大切であればこそのぅ」
じじいは、笑っている。とても穏やかな笑みだ。ゴンさんには、どうしてこうも弱いのやら、やはり爺さんという生き物は、孫には弱くなってしまうものなのかね。
「それとカレン」
「……なんだよ?」
「またなにかあれば来るといい」
「もう、来たくねぇ」
ここのお社には、いい記憶はない。じじいにずたぼろにされたうえに、アルトリアへの想いを真っ向から否定されてしまったんだ。
どれひとつとってもトラウマレベルだ。そんなトラウマが眠る土地になんて、誰がもう一度来たがるっていうんだよ。少なくとも俺はそんなマゾ気質ではない。だから、このじじいに会うことはもう二度とない。
「だが、また合間見えることになると思うぞ?」
「なんで?」
「そういう宿命じゃよ。達者でのぅ」
じじいは、笑っていた。ゴンさんに対してのものほどではないけれど、笑っている。少し気味が悪い。
というか、このじじいとまた会う宿命とか、ごめんこうむりたいよ。
誰が好きこのんで、こんな生物兵器ともう一度会う宿命なんて受け入れるものかよ。少なくとも俺はごめんだね。それにしてもだ。いくらなんでも対応が変わりすぎじゃないか。
「いきなり、なんなんだよ?」
来たときと対応の差がありすぎている。俺を憐れんでのことなのだろうか。そうでもないと、あまりにも対応が違いすぎて、同一人物とは思えないのだけど。なにせ初対面だというのに、いきなり憎たらし気に俺を睨み付けてきたからな、このじじいは。
だが、憐れんでいるにしては、じじいの表情はあまりにも穏やかだった。まるで本当に俺の身を案じているかのように思えてならない。
「まぁ、一応は戦った相手じゃからのぅ」
「戦いになっていなかっただろうに」
「そりゃそうじゃよ。わしと戦いをしたければ、紛い物ではなく、本物の天の力を手に入れるのじゃな」
「本物、ね」
天の力は、俺の切り札であるのだけど、じじいにとっては、まがい物にしかならない。そもそも天の力は、貰い物だ。ラースさんの顔を殴ったときに、聞こえてきた声がくれたものだ。俺が修行の末に身につけた力ではなかった。
それでも、その力の世話にはなってきた。その力も本物の強者には通じない。じじいと戦って、それを痛感させられた。けれど、本物の天の力なんてどうすれば手にはいるんだろうか。
「六神獣の方々に会え、カレン」
「六神獣に?」
悩んでいた俺に、じじいはアドバイスをくれた。思ってもいなかったことではあるけれど、アドバイスしてくれるのであれば、ありがたくちょうだいしよう。
しかし六神獣に会ったところで、本当に天の力が、じじいの言う紛い物ではない、本物の天の力が手に入るのかな。ちょっと想像がつかないんだが。
そもそもなんで天の力が六神獣と会うだけで手に入るのだろうか。いまいちわからないが、亀の甲より年の劫と言うし、せっかくのアドバイスを無碍にすることもない。面倒ではあるけれど、試しに会ってみるのも悪くはない。
「さすれば道は開かれる。同時にそなたの母の手がかりも、な」
「母さんの手がかり!?」
天の力を手に入れられるということよりも、母さんの手がかりのひと言に食いついてしまった。
この世界は地球に比べて、はるかに危険ではあるが、少なくともいまの俺でも曲りなりには、魔物を相手に立ちまわることはできる。本物の強者には勝てないけれど、格下相手であれば、負けることはないほどの力は持てている。これ以上の力を持とうとする理由は、俺にはない。だから六神獣に会えば、本物の天の力が手に入ると言われても、そこまで魅力はなかった。
しかし六神獣に会えば、母さんの手がかりが手に入るというのであれば、話は別だ。
母さんに会う手がかりになるというのであれば、すべての六神獣と会っても構わない。
むしろ会いに行こうと思えてくる。我ながら現金だとは思うけれど、それだけ母さんの手がかりを得られるという言葉は、俺にとってなによりも魅力的な単語だった。
しかし、なんでじじいが、そんなことを知っているんだろうか。
もしかしたら、じじいは母さんのことを知っているのだろうか。いま思えば、じじいの態度は少しおかしかった気がする。特に俺が母さんのことをなにも知らないと言ったときのじじいの反応を踏まえると、じじいはどこかで母さんと会ったことがあるんだろう。
いやもしかしたら、母さんがどこにいるのかも知っているのかもしれない。でもならなんで六神獣に会えと言うのだろうか。まぁ、単なる嫌がらせってこともありえるだろうけれど。
「母さんがどこにいるのか、知っているのか?」
どうにか気を落ち着かせて、じじいに尋ねた。じじいは俺を見つめながら、静かに頷いた。
「居場所がどこかはわからんが、いるであろう場所はわかっている」
「どこだ!? 母さんはどこにいるんだ!?」
どんな些細なことであっても、母さんのことであれば、知りたかった。自分でも食いつきすぎるとは思ったけれど、自分で自分を抑えきれなくなるくらいに、俺は母さんのことを知りたかった。じじいに掴みかかる勢いで、実際にゴンさんの背中から飛び降りて、俺はじじいに掴みかかっていた。
「落ち着かんか、そんな剣幕で来られたら、話せるものも話せんじゃろうが」
「ご、ごめんなさい」
「まぁ、それだけ母を求めているということかのぅ。無理もないが」
じじいが辟易としながら、おかしそうに笑らわれてしまった。なんとなく、気恥ずかしい。だって、マザコンだって言われたようなものなのだから。ファザコンであり、マザコンでもあるとか、どんだけ両親が好きなんだろうな、俺。
「まぁ、よい。次に会うときにでも、話してやろう。ただそれまでには、六神獣のどなたでもよいので、お会いすることじゃな」
「どなたでもいい、って。やることを、やったらすぐに会いに来るけど」
次に会うときと言うのであれば、トンボ返りになったとしても、すぐに会いに来たい。それだけじじいの持っているであろう母さんの情報は、俺にとって魅力的だった。けれどじじいは首を振った。
「残念じゃが、わしはこのあとすぐに、「翼の王国」に向かうから、そのころにはおらん」
「じゃあ、いま」
「アホか、貴様は。やることもやらん奴に、話すことなどないわ。わしの話を聞いたとはいえ、大切な相手なのじゃろう?」
「それは」
じじいの話を聞いたとはいえ、アルトリアとの思い出まで、色褪せたわけじゃなかったし、アルトリアは、いまだに俺にとって、いなくてはならない人であることには変わりない。そんな彼女を放りだして、自分の望みを通そうとする。たしかにじじいでなくても、話をしてくれないかもしれない。母さんの手がかりを得られると思ったら、あまりにも自分らしくないことをしていた。少し反省しないと。
「とはいえ、十五年も会えておらん母の話を知りたいという気持ちはわかる。ゆえにひとつだけ教えてやろう」
「ひとつだけ、か。いや、ひとつだけでもいい。教えてくれ。いや、教えてください、風さま!」
教えてくれるのであれば、なんだっていい。いや教えてくれるのであれば、どんなことでもする。あまり呼びたくない言い方ではあるけれど、風さまと呼んでもいい。いやこれからは呼ぶ。絶対に呼ぶ。だから教えてほしい。そんな思いを込めながら頭を下げた。
「やめんか、気色悪い。そなたは、これからも「じじい」でよいわ」
「そう? じゃあ、教えてくれ、じじい」
「……こうも見事に掌返しするとは。似ていると言えば似ているのかのぅ?」
やれやれとため息を吐いてから、じじいは、母さんのことをひとつだけ教えてくれた。
「そなたの母は、六神獣の方々に非常に近しい間柄じゃ。六神獣の方々全員にお会いすれば、自然とそなたの母に会えることになろうて」
「本当か?」
「竜は嘘を吐かぬ」
「わかった。信じるよ。面倒ではあるけれど、六神獣全員と会うよ」
六神獣全員と会えば、母さんに会える。どうしてそう言えるのかは、まだわからない。わからないけれど、それが母さんに会う条件であれば、俺は必ずこなしてみせる。アルトリアとのことはどうなるかはわからないけれど、母さんに会うことだけは、絶対に諦める気はない。
こうして俺の目的が、星金貨一千枚を稼ぐことに加えて、六神獣全員と会うことが増えることになった。
カレンの目的。
1星金貨一千枚を稼ぐ
2蒼獅をぶん殴る
3六神獣全員と会う(New)




