rev5-34 船旅の終わり
七日後──。
『皆様方、あと数時間ほどで到着致しますゆえ、準備のほどをお願いいたします』
ガリオンさんの内部で用意されていた部屋で休んでいたら、不意に船内放送が聞こえてきた。
まぁ、船内放送ではあるんだけど、実態は伝声管を使ったお知らせだった。
ガリオンさんの内部の船室は、それぞれに個室が用意されていた。
船室はすべて大きく立派な部屋で、様々な調度品はもちろんのこと、天蓋付きのベッド、ゴシック調のソファーに、しっかりとしたテーブルや、窓際にはロッキングチェアまであった。
加えて、部屋の中には個人用の浴室やトレイ、簡易的なキッチンまで完備していた。
もはや、船室というよりかは、スイートルームというべきほどの豪華さだった。
そんなスイートルームクラスの豪華な部屋をひとり一部屋ずつ割りふられていた。
俺の場合は、プロキオンとベティと同じ部屋だったけど、プロキオンとベティを単独部屋にするというのは論外だったこともあり、俺の部屋はみんなよりも大きめにして貰えた。
大きめにして貰えたと言う時点でわかるかもしれないが、どうもガリオンさんの内部の船室は、ガリオンさんの思う通りに自由に変更できるみたいだ。
今回の場合は、土轟王様のリクエストによって、「豪華客船での船旅」というコンセプトになったらしい。
そのお陰で、俺たちはこの七日間、優雅な船旅を満喫させて貰えた。……地下水脈という激流を幽霊船で下る船旅を優雅と言っていいかどうかは人それぞれだろうけれど。
でも、少なくともプロキオンとベティは、この七日間を楽しんでくれたようだ。
初日にガリオンさんが教えてくれた名所ともいうべきゾーンをふたりは興奮気味に鑑賞していた。あ、ふたりだけじゃないか。フブキちゃんと三人一緒に喜んでいたね。
一面がアメジストに覆われた空間では、アメジストの美しさに三人は感嘆の声を漏らしていた。
かつて存在していた魔物たちの化石群に出くわしたときは、プロキオンは勝手知ったるやという具合にそれぞれの魔物に関する知識を披露した。
そしてかつての古代都市の残骸に関しては、当然というべきなのか、プロキオンの知識欲が暴走し、甲板から飛び出そうとしていたのをベティとフブキちゃんがどうにか制止していたほどだった。
……こうして振り返ると、三人というよりかは、プロキオンがはしゃいでいた気がするが、ベティとフブキちゃんもなんだかんだで珍しい光景の連続に目を輝かせていた。
そこにタマちゃん手製のおやつや、ルクレのスイーツなどでお腹も満足できたことで、三人はこの七日間を大満喫してくれた。
なにせ、光源のない地下空間だというのに、三人ときたら、朝食を食べたらすぐに甲板に出て、次々に押し寄せる地下空間の光景を楽しんでいたほどだ。
そんな三人に合わせたかのように、次第に食事は甲板で取るようになった。
まぁ、さすがに夜は部屋で眠らせたけれど。そうでもしないと、あの子たちは甲板で寝るとか言い出しそうだったし。
いくら珍しい光景とはいえ、地下空間での船旅なんてすぐに飽きてしまうかもしれないと思っていただけに、思いのほか大好評な船旅になってくれたことはよかったと思う。
子供たちがそうしてはしゃぐ中、他の面々はというと、イリアとルリは今後の旅についてをティアリカやサラ、メアさんとどうにか復活したティアリさんを交えての話し合いをしていた。
その最中でメアさんとティアリさんはルリを「ルリ様」と呼び慕うようになっていた。どうやら話し合いの最中でルリがかつての魔獣「フェンリル」であることを知り、恭順の意を示されたみたいだ。
当のルリにしてみれば、「そんなものいらんのだがな」と困惑気味だったけど。
タマちゃんとルクレは、子供たちや俺たちに提供するスイーツ作りに励んでいた。
どうにもふたりの力量は同程度のようであり、まるで競うように思い思いのスイーツを作っていたね。
ルクレの作るスイーツは大抵が地球で言えば、西洋系なのに対して、タマちゃんのスイーツは専ら和スイーツか東洋チックなものが多く、この七日間はとても充実したスイーツ日和だった。
そして最後に俺とアンジュはと言うと──。
「……アンジュ、大丈夫か?」
「……腰、抜けちゃった」
──それなりの頻度で部屋に篭もることが多かった。
部屋に篭もってなにをしていたのかは、言うまでもないかな。
とはいえ、アンジュとばかりそういうことをしていたわけじゃなく、ルクレやティアリカ、サラとも相手をしてもらっていた。
だけど、やはり一番多く相手をしていたのはアンジュだった。
ティアリカとサラは不満そうにはしていなかったけれど、ルクレは「またアンジュとですか?」と頬を膨らまして不満を露わにしていた。
当のアンジュは勝ち誇った笑みをルクレに向けて、「ルクレも頑張ったらいいんじゃない?」とルクレを大いに煽ってくれたよ。
そうなると、ルクレがどういう行動を取ったのかは、うん、あえてなにも言わない。言わないけれど、とっても大変だったとだけ言わせて欲しい。
正直、肉欲に塗れすぎだと思うけれど、状況が状況だったし、おあつらえ向きと言うべき雰囲気だったこともあり、ついついと頑張ってしまったんだよね。
そんな七日間の船旅も終わりの時間が訪れた。
いまは部屋の時計によれば早朝を差し示している。
なのに、俺とアンジュはまだ眠っていなかった。……アンジュが離してくれなかったんだよね。おかげで一晩頑張ることになってしまったんだ。
ちなみにだけど、プロキオンとベティは昨夜フブキちゃんの部屋にお泊まりに行っていて不在だった。
……あくまでも昨夜はだ。毎晩フブキちゃんの部屋にお泊まりしてもらっていたわけじゃない。
ふたりが不在ということもあってか、アンジュはいつも以上のサキュバスっぷりを発揮してくれた。
そんな俺を頑張らせてくれたサキュバスなアンジュも、いまや汗だくになってベッドの上に寝転がっている。
本人曰く、腰が抜けてしまっているようで、ベッドの上でなだらかな胸を大きく上下させながら、蕩けた目で俺を見つめていた。
アンジュが横たわるベッドは、真っ白なシーツが皺だらけとなり、俺とアンジュの汗に塗れてしまっている。
自分でも頑張ったなぁと思うが、ここまで頑張ってようやくアンジュは満足そうに微笑んでくれている。
「……あなた、抱っこして」
「また一緒に入るの?」
「ダメ?」
「……ダメとは言っていないだろう?」
寝転がるアンジュをそっと抱きかかえて、部屋に備え付けの浴室へと向かい、汗を流した。……汗を流したのだけど、ふたたびアンジュがサキュバスとなってしまったんだけど、それは余談かな。
そうして汗を流し終え、部屋を出てアンジュとともに甲板に向かうと、甲板ではすでに朝食が並べられていた。今日の朝食は立食式のビュッフェで、すでにみんなは先に食事をしていた。
そこにアンジュを抱きかかえて登場したものだから、視線がとても痛かったんだけど、アンジュは全然に気にしていなかったのがすごく印象的だった。
『……なぁんで、私まで変な目で見られなくちゃいけないのかしらねぇ』
アンジュとは対照的に、香恋は大きくため息を吐いていたことも印象的だったよ。
とにかく、俺とアンジュも朝食に合流し、優雅な船旅の最後を満喫し、そして──。
『──皆様方、長らくお待たせいたしました。これより地上へと浮上いたします』
──ガリオンさんによる船内放送とともに、ガリオンさんは地下水脈から地上の湖沼へと向けて浮上が始まったんだ。




