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rev4-Ex-3 この世界にて

 太陽がとても高かった。


 いまの姿はもちろん、本来の姿になっても遠く届かないほどに太陽は高くにある。


 その太陽を右手を翳しながら見つめつつ、頭の中での会話を進めていく。相手は我が君の盟友ことクラウディア様とそのご息女のおひとりであるスカイスト様だった。


「──なるほど。次は僕のところですか。まぁ、妥当なところでしょう。いまのところ「四竜王」の中で目覚めているのは僕だけですからねぇ。え? 姐さんもこちらに? あぁ、そういうことですか、なるほど、理解しました」


 おふたりとの会話は念話で、その内容はクラウディア様の孫娘であり、スカイスト様の娘にあたる香恋とカレンが僕のところに来るから合流してほしいというものだった。


 もともと、僕は目覚めてからというもの、彼女たちが立つ際の手助けができるように準備を進めていたから、合流事態はいつでもよかった。


 まぁ、問題がなにもないというわけではないんだけど。


 とはいえ、その問題は僕のものじゃなく、あの子の問題だから、僕としてはいつ僕のところに来てもらっても構わなかった。


「それではレンではなく、香恋とカレンのふたりを迎え入れる用意をしておきますよ。ええ、では、また」


 頭の中で響いていた声が、クラウディア様とスカイスト様の声が聞こえなくなる。


 目覚めたときに交わして以来の念話だったのだけど、あのおふたりは相変わらずのようだった。まぁ、僕としてはいろいろと現状を知れたからよかったけどね。


「ご苦労様でした、我が君」


「あぁ、ありがとう、ヨルム」


 ふぅとため息を吐きながら、かつての玉座によく似た自然の玉座に背を預けると、ヨルムがお茶を差し出してくれた。


 あっちでもそうだったけれど、この世界でもヨルムの完璧な執事振りは健在だった。


 おかげで僕としては、この二年近くの間、なかなかに有意義な日々を過ごさせてもらった。


 なにせ、あっちの世界ではいろいろとやることがあったけれど、この世界では僕らの存在はイレギュラーのようなもの。


 イレギュラーではあるが、それでも歴史上に存在したという形で語り継がれている。僕はたしか「原初の土王」だったかな? そんな名前で語り継がれているようだ。


 正直、そこまで大それた存在ではないつもりなんだけどね。


 でも、謳われる存在というのは、なかなかに気分はいいものだ。


 それでいて、なにもしなくていいというのが最高だ。


 正確に言えば、カレンたちのために軍を造りあげなければならなかったわけだが、それ自体はすぐに終わった。


 僕が用意した軍は、魔物主体だけど、戦力自体はそこらの国の正規軍よりも上だ。「人化の術」が使える魔物や意思疎通ができる者を中心に集めて、それぞれの適正ごとに部隊を割り振り、集団戦法を慣れさせた。


 それが終わったのがこの世界に来てちょうど半年ほど経ったとき。


 それから一年以上経ったいまでは、あとはそれぞれの部隊長とした者たちに部隊の調練は任せてある。


 部隊間の連携に関しては蝶姉妹が担当してくれているから、僕がするべきことはほとんどなく、いままでは日長一日昼寝をして過ごしていた。


 が、あの子がクラウディア様たちのところから来てからは、一日の半分はあの子の鍛錬に付き合うことになった。


 別にそれ自体は苦じゃない。


 あっちの世界でも定期的に鍛えてあげていたし、この世界でもそれをしてあげているだけだと思えば、単純に世界が変わっただけだと思えばいいだけだった。


 が、その当のあの子に問題があるわけで、その調整がなかなか面倒なんだよね。


「土の君、ここにおられましたか」


 不意に影が差した。


 顔を向けると、空から降り立ってくるふたりの美女がいた。


 緑色の髪を携えたふたりの美女。その背中には虹色に輝く蝶の翅があり、その翅を静かに動かしながら、ふたりは僕の元へと降り立った。


 ふたりの美女はほぼ同じ見た目をしていた。片方はニコニコと笑っているが、もう片方はクールドライと言うべきなのかな。もう片方と違って笑うことさえせず、まぶたを閉じたままだった。


「今日もお昼寝でしたか?」


「いや、今日はお二方から連絡があってね」


 美女ふたりのうち、ニコニコと笑っている方が穏やかに話し掛けてきたので、昼寝をしていたわけではなく、ちゃんと仕事をしていたと返事をすると、もう片方のクールな方が、まぶたをうっすらと開けて僕を見やった。


「連絡?」


「あぁ。カナタくんたちも知っている子が、どうやらお嫁さんたちを連れて会いに来てくれるってさ」


「私たちも知っている子……もしやレン様ですか?」


「あぁ。そのレンだよ」


 僕の言葉にクールな方ことカナタくんが目を見開いた。


「そうか、レンが。嫁ということは、ヒナギクを連れてくるということかな?」


「いいや? ヒナギクちゃん以外の子みたいだよ」


 カナタくんはレンの嫁というとヒナギクちゃんを連想したみたいだけど、どうにもあの子はこの世界でヒナギクちゃん以外のお嫁さんを得ているらしい。


 ……正直、ヒナギクちゃんにあれだけベタ惚れだったあの子が他の子を嫁として迎えるというのがどうにも頷けないが、まぁ、あれから数年は経っているし、それだけあれば心境の変化もあるだろうから無理もないのかもしれない。


 ただ、どうもそう思ったのは僕だけのようで、カナタくんたちは唖然としていた。


「……レンがヒナギク以外を嫁に? いや、それはありえなくないか?」


「……私も姉様と同意見です。あれほどヒナギク様にベタ惚れだったのに」


「まぁ、愛というものは時の流れによって移ろうものではありますが、それでもすぐには信じられませんね」


 蝶姉妹だけではなく、ヨルムさえも驚いているようだった。


 そこまで驚くことかなと思うが、考えてみれば僕はヨルムたちとは違って、そこまでレンとは交流がなかったから、ヨルムたちとは受け取り方が違ったのかもしれない。


 この調子だと、お嫁さんたちのほかに娘ちゃんたちも連れてくると言ったら、どういう反応をするんだろうと思うね。


「ちなみにだけど、レンは娘ちゃんたちも連れてくるって話だよ?」


「「「娘ちゃんたち?」」」


 ヨルムたちが再び唖然とする。なにせ今回は蝶姉妹だけではなく、ヨルムさえも明らかに動揺を見せている。


「あぁ、どうやら娘ちゃんたちがいるらしいよ? それも四人いるってさ」


「「「四人!?」」」


 ヨルムたちが目を見開いて愕然とする。数年で四人も子供を設けるというのは、まぁ、すごいハイペースだなと思うけど、クラウディア様たち曰く養子らしいから、レンとの血の繋がりはない。あ、そこらのこともちゃんと伝えないとまずいね、これは。


「あ、言っておくけど、全員レンとの血の繋がりはないみたいだよ? 全員養子みたい。それも全員が狼の魔物でロード・クロノス・オリジンに至った子もいるみたいだよ」


「「「……」」」


 愕然としていた三人が言葉を失っている。まぁ、うん、僕も同じ意見だから、無理もないよね。オリジン種に至った子が娘にいるってとんでもないことをしているよね、レンってば。


「ははは、相変わらずのようだな、レンは」


 真っ先にカナタくんは正気を取り戻したようだけど、それでも顔が引きつっている辺り、いろいろと言いたいことがあるようだ。


「そうですね。こちらに来られましたら、久しぶりにいろいろとお説教して差し上げないといけませんね、姉様」


「そうだな。が、どうにも私は口下手ゆえ、話はおまえに任せてよいか、トワ」


「はい、もちろんでございます、姉様」


「助かる」


 ニコニコとしている方こと、トワくんとカナタくんは笑い合いながら、レンへの説教の内容を相談していく。そこにヨルムも加わっている辺り、三人ともいろいろと思うところがあるみたいだね。ご愁傷様といまこの場にはいないレンへと合掌する。


「さて、それじゃそろそろ僕はあの子のところに行くね? レンが来る前に調整を終わらせてあげたいし」


「あぁ、頼む」


「お願い致します、土の君。どうにも私や姉様でもあの方の調整は難しくて」


「仕方がないさ。生まれ変わったようなものなんだ。そうなれば、いままで通りには行かないよ。それは僕らにも言えることだけどさ」


 ふたりに手を振りつつ、僕は玉座から離れる。ヨルムも着いてこようとしていたけど、僕の護衛よりもレンへの説教が過激にならないように調整してもらうため、ヨルムにはこの場に残って貰うことにした。


 ヨルムは少し不満げではあったけれど、最終的には頷いてくれた。


 ヨルムを残して僕はひとり玉座を離れて、かつての居城内にあったのと似た湖、あの子がひとり修行に励む湖の畔へと向かった。


 そうして向かった畔には──。


「あ、お師匠様」


 ひとり呼吸を乱しながら、黙々と型をなぞるタマモがいた。

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