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Act1-89 霊草エリキサ その二十五

八月のアクセスが20000行きました。

目標達成です。

いつもありがとうございます。

この調子で46000行けるかな。

 お社の前、少し広くなったスペースで、俺とじじいは向かい合っていた。


 じじいは、動きにくそうな服を着ている。見た感じ、貴族が着そうな、いわゆるフォーマルな服だ。どう考えても、これから戦うのにふさわしい服ではない。


「おい、じじい。あんた、その恰好でやり合う気か?」


 たぶん、じじいの方が俺よりも強い。


 だからこそ、その服装は余裕の現れなのだろう。


 格下相手に、どんな服装で戦おうと、相手の自由だ。


 けれどそれは同時に、俺への侮辱でもあった。


 まるっきり食ってかかるチンピラみたいな言い方だけど、実際いくら格上であっても、その恰好で戦うのは無茶がある。


「戦う? なにを言うておる。虫けら程度を叩き落とすことは、戦うことにはなりえんよ」


 やっぱり、そう来たか。じじいの言い分は、予想できていた。だが、いくら予想できていても、実際に言われると、腹が立つものなんだな。


「……後悔するなよ」


「それはわしのセリフじゃよ」


 両手を握りしめて、構えた。いつでも向かっていける。


 じじいは、ただ立っている。立ちながら俺をじっと見つめている。


 口調の割には、人のことを虫けら扱いする割には、その視線はとても真剣なものだ。まるで俺を見定めようとしているみたいだ。


「……カレンちゃんさん、本当にやりますぅ~?」


 口調を戻したゴンさんが心配そうに見つめている。


 その腕の中では、シリウスが真剣なまなざしを向けている。


 俺はシリウスにとって育ての親だ。その親の戦いを、一挙手一投足と見逃さないようにしているのだろう。


 もしくは、両親の仇を取るために、俺の戦闘を研究しているのだろう。どちらであってもいい。どちらであっても、シリウスの前で無様な姿を見せる気はない。


「やるに決まっていますよ、ゴンさん。合図は任せます。あとシリウスをよろしくお願いします」


「はいはい、わかりましたよぉ~」


 ゴンさんが呆れていた。それは無謀な俺に対してか、相手にしなければいいのに、わざわざ相手をしているじじいに対してなのかはわからない。


 どちらであっても不思議じゃない。個人的にはじじいであってほしいなと思うけれど。


「シリウス。ちゃんと見ておけよ」


 最後にシリウスに声をかける。シリウスはゴンさんの腕の中で短く吼えた。強くなろうとする気概を感じられる、いい顔をしている。少し誇らしい。


「ほっほっほ、いい顔をする、狼じゃな。まだまだ幼く弱いが、有望そうじゃて。そのうえ白と黒の毛並みに加えて、シリウスとはのぅ。……これも宿命か」


 じじいは、妙なことを口にしている。なにか知っているみたいだけど、俺にはそのなにかがなんであるのかは、まるでわからない。


「なにを言っているんだ、あんた?」


「ほっほっほ、なぁに、創世の神話を少しのぅ」


「創世の神話?」


 初めて耳にするものだ。興味はあるけれど、話を聞いていられる場合じゃない。


「興味がありそうじゃな。よかろう。わしに見込みありと思わせられたのであれば、話してやってもよいぞ。そなたが欲しがっている、エリキサと一緒にのぅ」


 にやりとじじいが笑った。なんで俺がエリキサを欲しがっていることを知っているのか。


 ゴンさんを見やるも、首を振っていた。つまり情報の入手先はゴンさんじゃないってことだが、どうやってエリキサのことを知りえたのだろうか。


「あんたがエリキサを持っているのか?」


「持ってはおらぬよ。ただ知っておるだけじゃよ」


「なにを?」


「エリキサの作り方をじゃよ」


 ゴンさんが腕を上げる。緊張感が高まる中、じじいが口にしたのは、意外な言葉だった。


 エリキサを作る方法がある。その言葉に心が乱れた。


 その間にゴンさんは上げていた腕を下していた。ゴンさんが腕を下すのと同時に、じじいが体をゆっくりと倒した。


 来る。そう思ったときには、衝撃に襲われた。立っていられない衝撃。踏ん張ることもできず、後ろに飛ばされた。


「おや? 戦いたいのではなかったのか?」


 じじいが不思議そうに首を傾げている。攻撃を受けたってわけじゃないだろう。


 衝撃はあった。けれど痛みではない。衝撃というよりかは、突風にあおられたのに似ていた。


 たぶん、いまのは攻撃じゃない。ただ単に移動しただけだろう。どうにか着地しながら、息を整え、構えを取る。


 たった一回の動きだけで、認識を改めさせられた。


 このじじいは、格上じゃない。そもそも同じ土俵にさえ立てていない。


 圧倒的すぎるほどに、生物としての格そのものが違っている。


 勝てない。勝てるわけがない。そういう相手だった。だからと言って、膝を屈するわけにはいかない。


「ほう? いまのだけでも、まだ心が折れぬか。孫娘が気に入るのもわかる。珍しい虫けらじゃて」


「言っていろ、じじい」


 現時点での俺では勝ち目はない。なにをしても通用しない。それでも諦めるわけにはいかない。


 なにをしても通用しないと言うのであれば、逆に言えば、なにをしたっていいってことだ。


 普段使わないようにしている力だって使ってもいい。いや使わざるをえない。すべてを出し切る。それ以外に方法はない。


「行くぜ」


 初手は譲る形になったが、次は俺だ。距離は開いているのが、かえって都合がいい。天刃脚。遠距離用のこの技でまずは仕掛ける。


 右脚に天属性を付与させ、蹴り抜く。弧を描く金色の刃が、じじいに向かって行く。じじいは、目を丸めて驚いた顔をしていた。


「ほぅ、その若さで天の力を操れるとは。見どころはあるのか。よきかな、よきかな。ただし、まがい物じゃがのぅ」


 じじいが振り払うように、腕を振るった。天刃脚に似た光の刃が、緑色の刃が、放たれた。それは天刃脚の前身、風刃脚の元になった風の魔法「風刃」と似ている。けれど──。


「天刃脚が!?」


 じじいの緑色の刃は、天刃脚を引き裂いた。その時点で「風刃」とは違う。


 少なくとも俺の「風刃」では天属性の攻撃を引き裂くことなんてできない。


 天と風とでは、圧倒的にエネルギー量が違う。なのに、天を切り裂いた。これが古竜。かつてドラゴンロードを務めた竜の力なのか。


「だからって、諦められるかよ!」


 じじいの緑色の刃は、天刃脚を引き裂いた。現実に起こった事実だ。けれど、なんの影響もないわけじゃない。少なくとも、威力は弱まっているはずだ。


 もう一度天刃脚を放った。緑色の刃はかなり近くまで来ていた。


 だが逆に言えば、威力の減衰なしでぶつけられるということだった。


 そうして放った天刃脚は、やはり引き裂かれてしまった。けれどいくらか耐えられた。


 じじいの緑色の刃の正体はわからないけれど、天属性の力を一方的に抜けるわけではないようだ。耐えられたことがその証拠だ。


 なら次はこっちが抜く番だ。二発目の天刃脚が耐えてくれたおかげで、三発目を放つ時間を得られた。三発目の天刃脚。これで今度こそ抜いてみせる。


 俺は雄叫びをあげながら、三発目の天刃脚を放った。


 三発目の天刃脚は、雄叫びと呼応するかのように、轟音を奏でながら、じじいの緑色の刃に食らいつき、引き裂いたが、いつのまにか迫っていた二発目の緑色の刃に引き裂かれてしまった。


「あれだけ時間があれば、もう一発放つことなど、たやすいわ。これぞ風を理解せし者のみが操れる力。風の上位属性「嵐」じゃ」


 離れたじじいの声がやけにはっきりと聞こえていた。


 上位属性。風を理解せし者のみが使える力。その名の通り、暴風のような強大なエネルギーが俺に向かって牙を剥く。


 ゴンさんが慌てて、俺を呼んでいる。返事をしている余裕はない。まだ諦めるわけにはいかないんだ。


「天円脚!」


 風円脚の天属性版である天円脚を放つ。もう天刃脚を放つ余裕なんてない。できるのは天円脚だけだ。


 それに風円脚では、俺の風の力では、じじいの嵐の力には勝てない。天属性の力でも勝つことはできないのだから、風属性では言わずもがなだ。


 しかしほぼ減衰なしの天刃脚とぶつかったんだ。じじいの嵐の刃だって、それなりの消耗はしている。なら天円脚に懸けるしかなかった。


 俺は雄叫びをあげながら、じじいの嵐の刃に向かって、天円脚を叩き込んだ。

次回も戦闘回です。

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