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rev4-117 師との共闘

 炎が爆ぜる。


 紅蓮の炎が、高空で猛々しく燃え盛っていた。


 青い空の中で紅蓮の炎は、敵対者を燃やし尽くさんとしていた。


 その紅蓮の炎は剣の形をしていた。


 いや、剣が炎を象っているという方が正しいか。


 表現が非常に難しいけれど、少なくとも確実に言えることは、炎と斬撃が一体化しているということ。


 属性付与をすれば、似たようなことはできる。


 炎を纏った斬撃であれば、属性付与で再現はできる。


 だけど、炎と斬撃が一体化させるというのは、どうすればいいのか俺にもわからなかった。

 そもそも、なんで炎と斬撃を一体化させられるのかがわからない。


 火で焼くのと、剣で斬るということは、別々の事象だ。


 その別々の事象が一体化し、すべてを焼き斬っている。


 現実として目の当たりにしているはずなのに、その目の当たりにしている光景を俺は現実のものとは思えない。


 でも、それが現実だった。


 現実として、ありえない光景が繰り広げられていた。


 あの底の見えなかった邪神が、一方的に攻め込まれているというとんでもない現実が、目の前で行われていた。


「この、赤トカゲぇ! 危ないでしょうが!」


 スカイディアが明かな焦りを見せながら叫ぶ。


 いままで、どんなことをしても余裕を崩さなかったスカイディアが、いま初めて明確な焦りを見せている。


 連続で放たれる炎の斬撃を前にして、スカイディアは大きく距離を取っての回避を行っていた。


 それを為しているのは焦炎王様。俺と香恋の師であり、俺がこの手で殺した人だった。


 その焦炎王様がいま目の前にいて、スカイディアを一方的に攻め込んでいた。


 最初はスカイディアが特攻を仕掛けてきたというのに、いまや完全に攻撃は焦炎王様が握り、スカイディアは防戦一方に追い込まれている。


 その移り変わりはあまりに一瞬すぎて、俺はおろか香恋でさえも「……なんで攻撃と防御が入れ替わってんの?」と疑問の声を上げるほどだった。


 その攻撃側を掴み取った焦炎王様は笑いながら、炎の斬撃を連続で放たれていた。


「その赤トカゲ風情の攻撃を、そう必死に避けられるとは。よほど我が一撃が恐ろしいようですなぁ?」


「ふざけたことを抜かすなぁ!」


「ははははは! そのふざけた内容が真実であるから、そう逃げ惑われているのでしょう?」


「貴様ぁ!」


 焦炎王様は楽しげに笑いながら、剣を振るい、スカイディアは目を血走らせながら必死に回避を行っている。


 焦炎王様の剣は、炎焦剣の深奥の炎の剣ではなく、普段使いされているご自身の牙から形成されたものを、かつて巨人族のトロルさんに作製させた剣を使われている。その剣を以て邪神相手に一方的な戦いを続けられている。


 その一方的な戦いを俺と香恋はそばで見つめていた。いや、見つめることしかできることがなかった。


『……これ、私たちいらくない?』


 香恋がぽつりと呟くも、俺はすぐに受け答えはできなかった。


 たしかに見た目の上では、俺たちの参戦なんて必要ないくらいの一方的な戦いではある。スカイディアが焦りに焦っているのに、焦炎王様は涼しい顔で笑っている。どう見ても、焦炎王様が圧倒的に優位ではある。


 だけど──。


「いいや、俺たちも参戦しないとまずい」


『は? なに言ってんの、あんた。どう考えても焦炎王様が圧倒的に有利じゃない?』


「たしかにそう見える。でも、あくまでもそう見えるだけだよ。その証拠に焦炎王様の一撃をスカイディアはすべて避けきっている」


『それは、そうだけど。でも、それはあれだけ大きく避ければ』


「じゃあ、逆に聞くけど、俺たちがスカイディアと同じ事をできると思うか?」


『……無理かしらね』


「だろう? でも、スカイディアはやりきっている。やりきったうえで、いまだ被弾を許していない」


 そう、いまのままではまずい。


 それははっきりと理解できた。


 焦炎王様が俺たちの助力がいると言われたのも理解できた。


 とはいえ、基本的には焦炎王様おひとりでもどうにかなるとは思う。


 いまの調子で戦い続けられれば、押し切り勝ちはできると思う。


 ただ、それも三日三晩とか、このまま延々と戦い続けられるのであれば、という前提があってこそだ。


 仮初めの体と仰っていたことを踏まえると、いまの焦炎王様は仮初めの存在にしかすぎないんだろう。


 仮初めということは、たぶん時間制限があるんだと思う。


 まぁ、仮初めというのであれば、ゲーム内のキャラクターである焦炎王様がなんで現実世界にいるのかという疑問もあるけれど、焦炎王様がいまのままでは勝ちまで持って行けないということはわかった。


 そしてそれはスカイディアもわかっているはずだ。


 だからこそ、延々と回避を行っている。


 焦炎王様の一撃を食らって、スカイディアにどれほどのダメージを与えられるのかはわからない。


 だが、ああして必死に回避するということは、スカイディアでも焦炎王様の一撃を受けたらただではすまないということだろう。


 だからこそ、回避に専念している。


 焦炎王様の制限時間いっぱいまでまともに相手をせずに、逃げ回ろうという魂胆なんだろう。


 その証拠に、スカイディアは焦った顔をしながらも、よく見るとその口元には笑みが浮かんでいる。


 回避に専念し続ければ、負けることはないと確信しているような表情だった。


「だからこそ、俺たちも攻めるぞ、香恋」


『……正直あの戦いに首を突っ込むとか、サラとあの巨人の戦いに参戦するよりも、よっぽどハードルが高いんだけど。でも、たしかに、このまま静観していたら、師に成長したところを見せられないわね。……しょうがない、やりましょう』


 俺の推論をすべて伝えると、香恋はため息交じりではあったけれど頷いてくれた。


「とりあえず、俺たちのするべきことは」


『あの邪神の背後を取ることからかしらね』


「だよ、な!」


 香恋の返事を聞いてすぐに俺は雷電を用いて、スカイディアの背後へと移動した。スカイディアは俺が移動したことに気づき、舌打ちしつつ、まずは俺からどうにかしようとしたのか、振り返りながら攻撃をしようとしていた。


「そう簡単に、我が愛弟子に手を出せるとは思われぬことですぞ?」


 だが、スカイディアが攻撃をしようとするよりも速く、焦炎王様がスカイディアへと向けて水平に斬撃を放つ。スカイディアはとっさに上体を反らして斬撃から逃れるも、その鼻先が炎の斬撃によってわずかに焼き斬られたのが見えた。


 焦炎王様を忌々しそうに見つめるスカイディア。だけど、それは俺たちにとっては福音以外の何物でもない。


「隙ありだ!」


『私たちのことを忘れないでくださいね? お・ば・さ・ま?』


 上体を反らしたスカイディアの腹部へと後ろ回り蹴りを叩き込む。当然のように「水」属性の力を付与している。まだ「空」属性を直接体に付与するのは怖かったので、まずはいつも通りの「水」属性とした。


 その一発はさしものスカイディアも避けきれなかったみたいで、「っ!?」とスカイディアが呻き声を上げた。初めてのスカイディアにクリーンヒットさせることができた一撃だった。


「よいよい、それでこそ我が弟子共よ」


 焦炎王様は嬉しそうに笑いながら、まっすぐに剣を振り下ろされる。スカイディアは焦炎王様の一撃を魔力を放出し、その勢いを利用して距離を取る形で回避する。


 だが、それと同時に俺たちも雷電で移動し、スカイディアの背後を取って再び攻撃を仕掛けた。


 さっきは後ろ回し蹴りだったから、今度は思いっきりパンチをしてやった。当然目標はスカイディアの顔、左の頬に突き刺すようにして放つ。


 その一発も見事に直撃し、スカイディアが「こんの! 親不孝者がぁ!」と唇の端から血を流しながら叫んだ。


「母親面すんじゃねえよ!」


『私たちの母さんはあんたじゃないって言ってんでしょうが!』


「その通り。そなたらの母君と、このご息女は別人であるからのぅ」


 スカイディアのとち狂った一言を否定したときには、焦炎王様は距離を詰めて、再び剣を振り下ろされる。


 スカイディアは焦炎王様の一撃だけは、受けてなるものかと必死に回避するが、そのせいで俺たちの一撃は完全にノーマークとなっていた。そのおかげで俺たちの攻撃は面白いくらいに当たっていく。


「ははははは! よいぞ、愛弟子共よ! このまま攻めきるぞ!」


「はい、師匠!」


『頑張ります!』


 焦炎王様は上機嫌に笑われている。


 ただ、若干肩が上気されていた。


 限界が徐々に近付いているようだった。


 このまま攻めきると言われたのも、時間を掛けずに倒しきるという意味なのだと思う。


 やっぱり静観をやめたのは正解だったなと改めて思いながら、俺と香恋は焦炎王様との共闘を、制限時間付きではあるけれど、かつては叶わなかった共闘を行いながら、あの忌々しい邪神を追い詰めていったんだ。

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