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rev4-115 突き抜けた先に待つ者

 バカな。


 そう言って、ファラン少佐の首が飛んでいく。


 信じられないと雄弁にその目は語っている。


 その目を見つめながら、「鳴轟」を構えていく。


 なんとなく。


 なんとなくだけど、まだ終わっていないというのがわかった。


 正確に言えば、ほぼ終わりに近付いてはいる。


 あと一息というところにまでは至っている。


 だが、まだ一息が残っている。


 その証拠にファラン少佐はまだ健在だった。


 首と胴体を切り離しはした。


 だが、それでもまだ消滅してはいない。


 これほどの巨体であるから、消滅するにも時間が掛かるということを踏まえても、首を落とされたにも関わらず、消滅する素振りがない。


 つまりは、まだ終わっていないということだ。


 まだ続きがある。


 だから、「鳴轟」を解除しなかった。


「鳴轟」を維持したまま、ファラン少佐を見つめていると、その口元が大きく吊り上がった。

「──と言うとでも思ったか、レェェェェェン!」


 ファラン少佐が高笑いをする。


 同時にファラン少佐の体が輝き始めた。


 その体の内側から光を放ち始めたんだ。


 その光景を見て、なにをしようとしているのかはすぐにわかった。


「自爆か!」


『まったく、どこまでも面倒な奴ね!』


 香恋も同じ結論になったようで、舌打ちをしていた。


 そんな俺たちの様子にファラン少佐は楽しそうに笑っていた。


「おまえを、直接殺すことはできなかった。だが、これでおまえも終わりだ!」


 高らかに笑うファラン少佐。その笑い声に呼応するように、ファラン少佐の体の中からの光は加速度的に強まっていく。


 こういうとき、「小さな太陽のようだ」って言われることがあるけれど、そう例えたくなる理由がよくわかる。


 これは、たしかに太陽と言うしかない光景だった。


 その太陽が徐々に力を暴走させていく。


 その暴走の先にあるのが大爆発。


 さすがに太陽が爆発するほどではなかったとしても、大惨事になることは間違いない。


 それこそ、この周辺一帯が焼け野原と化すことは確定だろう。


 ここはこの国の中枢付近だ。


 その中枢が焼け野原になれば、それは事実上この国の終焉を意味する。


 そう、ベヒモス様とアリシア陛下が愛されたこの国が、だ。


 それもこの国の中枢に近い人物の手によって。


 そしてその人物をそそのかした悪魔共の計略によってだ。


 許されるわけがない。


 許していいわけがない。


「鳴轟」をゆっくりと頭上へと掲げていく。


「……やるぞ、香恋」


『どうするつもり?』


「奴が爆発する前に、核を斬る」


『……まぁ、妥当な答えね。核を斬れば、爆発を抑えられる可能性もあるわ。ただ』


「ただ、そのまま爆発する可能性もあるってところか?」


『……ご名答。単純に核を斬っても最悪そのまま爆発する可能性もあるわ。もっともこのまま手を拱いて爆発させるよりかはマシね。まっさらになった焼け野原から瓦礫だらけの半壊程度で済むんじゃないかしらね?』


 香恋は冷静に見解を口にしていく。


 たしかに、手を拱いて爆発させるよりかは、完全に焼け野原と化すよりかは、周辺一帯が瓦礫だらけの半壊となる方がマシだろう。


 だけど、それでもやはり多くの人が犠牲になる。


 誰も助からないよりかはマシだけど、それでも大勢の無辜の民が死んでしまう。


 それだけは避けなければならない。


 ベヒモス様を殺めた俺だからこそ、あの人が愛したこの国を守らなきゃいけない。


 義理ではない。


 これは責務だ。


 俺自身が背負った責務。


 その責務をいま全うするんだ。


「……手立てはあるよな」


『なくはないわ。ただ、下手すればあんた死ぬけどね』


「それは俺ひとりが死ぬってことか? それともおまえごと?」


『私ごとに決まってんでしょうが、バカ言ってんじゃないわよ』


「……そっか、ごめんな」


『はん、謝るんじゃないわよ。……あんたが生じた時点で一心同体なんだから、いまさらなのよ」


 香恋は呆れたように言う。


 頭が上がらない気分になるけれど、いまはそのことはいい。


『手としては、ひとつだけ。上空から叩き斬るんじゃなく、上空へと向けて斬り飛ばせばいい』


「上空へ?」


『そう。そうすれば、少なくとも下手を踏んで爆発されたとしても、範囲は上空だけで済むし、巻きこまれるのもあんただけで済むでしょう? 多くの民が犠牲になるのに比べたら、犠牲はあんたひとり。あと、せいぜい「巨獣殿」が爆発の余波に巻きこまれ多少の損害を受けることくらいかしら?』


 香恋の言葉に納得してしまった。


 たしかに、香恋の言うとおり、多数の民が犠牲になるのと、俺ひとりの犠牲で済むこと。


 どちらがよりよい結果であるのかなんて考えるまでもない。


 まぁ、とはいえ死ぬ気はない。


 死ぬ気はないけれど、状況によっては死にかねないというのは明らかだった。


 だから、そのことは問題ない。


 問題があるとすれば、どうやってあの巨体を上空へと向けて斬り飛ばすことかってことだ。

『いまのあんたなら、たぶんできると思う。私も「空」属性の魔法を使ってフォローするし。あとは一気にあんたがあれを斬り捨てればいい』


「……勝率は?」


『核を斬り捨てるだけであれば、100パーセント問題はない。ただ、その後の生還できるかどうかは五分五分ね。……あの邪神が余計な手立てをしなければという前提でだけど』


「……なるほどね」


 香恋が最後に付け加えた単語がなければ、五分五分というのは悪くない可能性だった。たしかに可能性としては高くない。しかし低くもない。命を懸けても問題ないレベルだった。


 ただ、やはり問題は邪神だ。


 あの邪神がこのまま手を拱いたままというのは考えづらい。


 邪神がなにかしらの手立てをしたという前提があるとすれば、生還の可能性はたぶん一割くらいだろう。


「一割くらいかな、生還できるのは」


『……先に答えを言うんじゃないわよ、愚妹』


「誰が愚妹だよ。……でも、まぁ、考えてみればおまえの方が姉っていうのもわからんでもないか」


 俺が生じたのは、香恋を封じるためという話だったし、つまり香恋の方が先に産まれたということになる。先に産まれたということを踏まえれば、香恋が俺の姉というのもわからんでもない。というか、やけにしっくりと来てしまう。


 もっとも、いまさら香恋を姉扱いするつもりはない。つもりはないけれど、いまくらいはいいかもしれないな。


「……じゃあ、生還できるように頑張りますか、姉貴」


『そこはお姉様と呼ぶところでしょうが、愚妹』


「おまえ、お姉様ってタイプじゃねえだろうが」


『うるさいわねぇ』


 香恋と軽く口論をしながら、頭上に掲げていた「鳴轟」を下段に構える。息をゆっくりと吐いていく。


 香恋も徐々に魔力を高めていた。


 その間もファラン少佐の体からは光が強まっていく。


 本当に小さな太陽のように凄まじい光を放っていくその体を見つめながら、俺が息を吐ききり、香恋が高めていた魔力が集まったとき。俺たちは一気に動き出した。


「行くぜ、姉貴!」


『だから、お姉様と呼べっつーの!』


 軽口を叩き合いながら、俺たちは一気に地上へと向けて降下していく。


 頭上から「旦那様!?」とサラの慌てる声が聞こえたが、いまは相手をしている余裕はなかった。


 同じようにファラン少佐の「なにをしようと無駄だ」と嗤う声が聞こえた。


 その声さえも置き去りにして、地上まで一気に降下すると、地面に足を付けて、全身をバネのように縮めると、今度は一気に上昇する。ファラン少佐へと向かってだ。


 ファラン少佐は「なにをする気だ!?」と叫ぶが、答える必要はない。


 ファラン少佐の股下から「鳴轟」の刃を入れ、そのままファラン少佐の核へと向けて上昇していく。同時に香恋が「空」属性の魔法を使用してくれた。


『「空」の力よ。すべてを飛翔させよ! 「翔空」」


 香恋が魔法を発動させると、ファラン少佐の巨体が地上から離れるのがはっきりとわかった。


「バカなっ!?」


 ファラン少佐の驚愕とする声が聞こえた。


 その声を聞きながら、俺と香恋はそれを放った。


「『焦雷飛翔閃』!」


「翔空」を使っての「焦雷閃」改め、「焦雷飛翔閃」で、ファラン少佐の体を切り裂いていく。


 ファラン少佐の「バカなぁぁぁぁぁ!」という絶叫が聞こえるが俺と香恋は腹の底から雄叫びをあげることで応えた。


「『いっけぇぇぇぇぇ!』」


 目の前に見えるのは黒い腐肉だけ。その腐肉を切り裂いてき、ほどなくして肉とは違う固いなにかを切り裂いた。


 その瞬間、ファラン少佐の口から断末魔の叫びが響いていく。


 その叫びの中、俺たちは腐肉を突き抜けた。


 腐肉を突き抜けた先に見えたのは、どこまでも広がる蒼穹と、そして──。


「ふぅん? やるじゃない、香恋?」


 ──邪悪にその表情を歪めて嗤うあの邪神がいたんだ。

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