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夢で終わらせないために

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

年跨ぎ更新の後編です。

ハートフル詐欺だと思われないために頑張りました←

 小鳥が大木の枝に止まって囀りしている。


 その様を私は頬を膨らませながら見つめていた。


「──それでプロキオンを怒らせた、と?」


「……うん」


「おまえ、なにやってんの?」


「ごめんなさい」


「いや、俺に謝られてもなぁ」


 すぐ後ろから聞こえてくる会話。


 パパとママのやり取り。


 そのやり取りを聞きながら、私は「むぅ~」と唸りながらパパに抱きついていた。ママに背中を向ける形でパパに抱きつきながら、頬を膨らましていた。


 あの後、すぐにパパが私の叫び声を聞いてやってきて、「どうしたんだ、プロキオン?」と尋ねてくれたけれど、私はなにも言わずにパパに抱きついた。


 パパは飛びつくようにして抱きついた私を、尻餅を突きそうになりながらも受け止めると、ママに「なにがあったの?」と聞いて、ママは「あ、あははは」と苦笑いしつつ顛末を話し、それが終わったのいま。


 パパはママの行為に呆れているみたい。


 私の頭を右手で撫でながら、ママに注意をしてくれている。パパのお顔はいまの体勢だとよく見えないけれど、横顔を見る限りは呆れているみたいだ。


 そんなパパとは違い、パパの言葉にママは落ち込んでいるみたい。いい気味だと思う。これに懲りたら意地悪はやめてほしいよ。


「まったく、プロキオンがかわいいのはわかるんだけどさ、それでもやりすぎはよくないぞ?」


「……うん。まったくもってその通りです」


「……わかっているんだったら、最初からやるなよ」


「いや、違うの。聞いて、あなた。私だって最初は、最初はね? ちょっとからかうだけだったの! そのつもりだったの! でも、気付いたらプロキオンを愛でたくなってしまって、気付いたら」


「「ママのバカ」か?」


「……はい、その通りです」


「うん、どう聞いてもおまえが悪いな」


「いや、違う! 違うの、あなた! 悪いのは私だというのは全面的に認めます! でもね? でも、プロキオンの愛らしさが私の理性を粉々にするんだよ!? だから仕方がないじゃない! プロキオンが一番の被害者であることは認めます! でも、私だって、私だって被害者なんだから!」


 くわっと目を見開きながらママが叫ぶ。なにを言うつもりだろうと振り返ったのだけど、振り返らなきゃよかったといまは後悔している。


「……うん、そうか。そうか」


 絶賛後悔中の私を横に、パパはあろうことか、ママの言葉に頷いていた。まさかの裏切りに「パ、パ?」と声がかすれてしまう。そんなパパの様子にママが「さすがはあなた! 話がわかる!」と目を輝かせていた。


 だけど、その目の輝きはすぐに掻き消えることになった。


「どのみち、おまえが悪いってことはよぉくわかった。プロキオンのせいにして、自分を正当化しようとすんな」


「パパっ!」


「そんな、あなた……」


 パパはやっぱり最高のパパだった。


 ママの戯れ言をあっさりと否定してくれたもの。


 対してママは信じていたであろうパパから否定されたことで、よろめくほどのショックを受けてしまったみたい。


 まぁ、当然と言えば当然の結果なんだけど、ショックを受けるのはなんか違う気がするよ、私は。


 そもそも、なんでショックを受けられるのかが理解できないよ。


 どう考えてもママが言っていることは、ただの言い分けないし戯れ言だもの。パパがまともに聞いてくれるわけがないじゃんね。


 まぁ、それはそれとしてだよ。


 この喜びはパパに伝えるべきだった。あとお礼も兼ねるとしようかな。ついでにママへの仕返しも。


 私はパパから少しだけ体を離して、パパに話し掛けた。

 

「パパ、パパ」


「うん?」


「私、パパ大好き!」


「そっか。パパもプロキオンは大好きだよ?」


「~、パパぁ!」


 パパが大好きと言ってくれた。パパが大好きって。


 それがすごく、すごく嬉しくて、気付いたら私はパパにまた抱きついていた。


 パパは私の勢いに負けて「おおっと」と尻餅を突いてしまった。


 そんなパパをママは「大丈夫?」と心配しつつも、羨ましそうにパパを見つめていた。


 これだけでもママへの仕返しとしては十分だったけれど、まだ足りない。


 というか、パパへの気持ちが溢れすぎてどうしようもなかったので、もう一個だけ追加することにした。


「ん~、ん!」


「「!?」」


 パパに抱きついたまま、パパの頬にキスをしてあげた。


 すると、パパとママは揃って驚いてしまった。


 ……ちょっとやりすぎちゃったかな? 

 

 でも、いいかな。頬にキスしちゃうくらい、私はパパが大好きなんだもん。


「えへへへ~。パパ、大好き!」


「あ、あははは、ありがとう、プロキオン」


 改めてパパが大好きだと伝えると、パパは苦笑いしていた。


 でも、ママはというと──。


「むぅ~。鼻の下伸ばしすぎだよ、あなた」


 ──私がパパにキスしたことでヤキモチを妬いてしまったみたい。


 頬をぷっくりと膨らましながら、いまにもパパに掴みかかりそうになっていた。


 ……ちょっとやりすぎちゃったみたいだ。


 どうしようかなぁと思っていたら、急にパパが私をぎゅっと抱きしめてから左手で目元を隠した。いや、目元どころか耳さえも押さえつけて、ほとんど耳も聞こえなくなってしまった。


 でも、わずかに声みたいなものは聞こえるんだけど、なんか言葉になっていないものがちょっとだけ聞こえていた。


「あ」とか「ん」とか、あとは「プロキオンが」とかいう声と水を飲むような音が聞こえてきた。なにしているんだろう、と思ってそのままでいると、しばらくしてようやくパパは私を解放してくれた。


 解放された私はパパに「なにをするの」と抗議する。


 パパは笑いながら「ごめんごめん」と謝っていた。


 ただ、ママは頬を真っ赤に染めて口元を押さえていた。


 どうしたんだろう?


「どうかしたの、ママ?」


「ぇ、な、なんでもないよ」


 ママは慌てて顔を背けるけれど、ママはパパをじっと見つめていた。そんなママをパパは優しげに見つめている。……私がお邪魔虫さんになっている気がしてならなかった。本当になにがあったんだろう?


「パパ、ママ。いまなにをしていたの?」


 首を傾げながらふたりに聞くと、パパは笑って、ママは慌ててしまう。


 うん、やっぱりよくわからない。


 本当になにがあったのかな?


 よくわからないまま、私はふたりの様子に首を傾げることしかできずにいた。そのとき。


「あ、おとーさんとママなの!」


 元気いっぱいな声が聞こえてきた。


 すぐに灰色の塊が駆け込んできたけど、私とパパの近くになって急に止まってしまった。


 それから「むぅ~」と唸り始めて──。


「おねーちゃん、じゃまなの!」


 ──灰色の塊ことベティが頬をぷっくりと膨らまして、そんなことを言ってくれました。


「おい、こら、愚妹。誰が邪魔だって?」


 いきなりの邪魔扱いをされて、私のこめかみが怒りで震えていく。


 けれど、ベティは気に留めることもなく、はっきりと続けた。


「おねーちゃんなの! ベティはおとーさんにだっこしてほしいのに、おねーちゃんがいたら、だっこしてもらえないの。だからじゃまなの!」


「……」


 こめかみどころか、頬も引きつってきた。


 でも、落ち着こうじゃないか。


 私はお姉ちゃん。


 この甘えん坊な愚妹の素晴らしき姉。


 そう、ゆえにこの程度の暴言で怒るなど論外です。


 私は冷静。


 私は素晴らしき姉。


 どこぞのシリウスみたく、すぐにカッとしないのです。


 そう自分に言い聞かせていた、そのとき。


「はやくどいてなの! おねーちゃんみたいに、大きいくせにあまえんぼうさんのなきむしさんがだきついていたら、おとーさんもこまっちゃうにきまっているもん!」


「……あ?」


 うん、無理。


 この愚妹はよりによってのことを抜かしてくれましたからね。


 誰が甘えん坊の泣き虫だと?


「ベティぃ~? それは誰のことを言っているのかなぁ~、このちびっ子ちゃん?」


「おねーちゃんだって、なんどもいっているの! おぼえがわるすぎなの! おねーちゃんのばぁーか!」


「んだと、この愚妹ぃぃぃぃぃぃ!」


「ばぅ!? ほんとーのことをいっただけなのぉぉぉぉぉ!?」


 ベティの言葉に私のスイッチは完全に入り、パパから離れると一目散にベティへと向かっていく。私がガチ切れしたことを理解したのか、ベティは慌てて逃げていくが、まさか私から逃げれると思っているとは、本当に愚かだとは思う。……その報いをたっぷりと受けるがいい。


「そのほっぺをこれでもかと引っ張って、三倍くらいにしてやるぅぅぅぅぅ!」


「ぼうりょくはんたいなのぉぉぉぉぉぉ!?」


 逃げ惑うベティを全速力で追い掛ける私と、おそらくはひどい形相になっている私から捕まるものかと必死に逃げるベティ。


「巨獣殿」の中庭はあっという間に、鬼ごっこの舞台へと変貌していく。


 そんな私とベティを見て、パパとママが楽しそうに笑っている。


 かくいう私も笑ってはいる。


 ただ、ベティだけは本気で泣きじゃくって逃げているけれど、泣くくらいなら最初から私を怒らせるなと言いたい。


 まぁ、その報いはきっちりとその愛らしいほっぺに刻み込んであげるけど。


「覚悟しろよ、ベティぃぃぃぃ!」


「きゃぁぁぁなのぉぉぉぉ!?」


 ベティの悲鳴と私の怒号が飛び交っていく。


 そんな私とベティをパパとママは穏やかに見守ってくれていた。


 まるで本当の家族みたい。


 誰も血の繋がりなんてない。


 それでも、いまここに家族がたしかにある。


 歪な形をしているかもしれないけど、それでも私たちは家族なんだ。


 少し前までは夢としか思えなかったもの。


 その夢が終わり、現実となってくれた。


 それでも、私はいまの時間が現実とは思えない。夢の続きを見ているとしか思えない。


 だけど、これは現実だ。


 夢でなんか終わらせはしない。


 そのためには、あの女との決着を着ける。


 あれは生きている限り、私たちを害する。


 だから、私は必ずあの女の息の根を止める。


 仕返しと言われたら否定はしない。


 でも、それ以上に私はこの日々を、この時間を守りたい。


 この夢のような時間を、夢で終わらせないために、私は私にできることをしよう。


 たとえ、それが血に濡れた魔道であったとしても。


 それでも私は私ができることを全力でこなすと決めている。


 あの女の偽物の血を浴びたときから、そう決めているんだ。


 こればかりはパパやママに言われたって止めやしない。


 私を止められるのは誰もいない。


 すべては夢を夢で終わらせないため。


 そのための戦いだから。


 ……まぁ、それはそれとして、だ。


「ふっふっふ、捕まえたよぉ~、ベティぃ~?」


 いまは私の腕の中で小動物のように怯える、かわいいかわいい愚妹ちゃんへの制裁の方が先決だからね?


「お、おねーちゃん。お、おちついてなの。ぼ、ぼうりょくはいけないことなの。お、おとーさんもかわいいいもうとをいじめるおねーちゃんはきらいなはずなの。だから、その、ねなの」


 逃げていたベティを捕獲した私はほくそ笑む。その笑みにベティの顔が青くなるが、その程度でいまの私が止まるとでも思っているのかい?

 

 私を止められるのは私だけだ。


 それをたっぷりと教えてあげようじゃないか。


「パパがそんなことで私を嫌うと思っているの、ベティは? あははは、かわいいことを言うよねぇ~?」


「あ、あははは、なの」


 ベティの目が涙目になる。だが、そのくらいで私が止まると思うてか?


 しかもよりによって、パパが私のことを嫌うなんて言いやがった。


 これはよりきっちりとオシオキをしないとダメだよねぇ~。


「パパをダシにして、逃れようとした罪。許しがたい。よって……自業自得という言葉をたっぷりと教えてやるわぁぁぁぁぁ!」


「ばぅぅぅぅぅぅぅぅーっ!?」


 ベティの悲鳴が響く中、私の怒声混じりの笑い声がいつまでもこだましていった。


 その後、ベティのほっぺが数倍に膨れ上がったのは、まぁ、言うまでもないよね?


以上年跨ぎ更新でした。

改めまして、今年もよろしくお願いいたします。

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