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rev4-105 爆弾発言

 ミカヅチを振るう。


「空」属性を乗せた一刀。


 目の前にいるのは、消耗しきったファラン少佐だったモノ。


 どう考えても、一撃で仕留めきれる。


 お膳立てをしてもらってしまったが、これでこの国の問題も終わる。


 そう思っていた矢先だった。


 不意に視界の端に夜明けの空を思わせる光が、暗い瑠璃色の光が見えた。


『っ! カレン、退きなさい!』


 光を見た香恋が退くように叫んでいた。


 その声に俺はとっさに攻撃を中断して、無理矢理跳び下がった。


 それからすぐ、瞬きをするよりも早くその光はファラン少佐に直撃した。


「っ!!?」


 ファラン少佐は声にならない悲鳴をあげた。


 もともと理性などなかった瞳から、完全に光が失われる。


 いまの光がトドメとなったのかと思った。


 だが、それは大いなる勘違いだった。


 なにせ、その光の直撃を受けた少佐は、雄叫びを上げながら一回り大きくなったんだ。


「……は?」


 あまりにもとんでもなさすぎる光景に、唖然としてしまった。


 もともと「巨獣山」とほぼ変わらない巨体だったのが、より巨大化した。


 誰でも呆然としてしまうのは当然だった。


 もし、劣勢の状況下であったら、心が折れるほどの絶望を抱かされていただろう。


『本当に余計なことをしてくれたわね、あの邪神は』


 忌々しそうに香恋が言う。


 その一言で誰がこんなことをしたのかははっきりとわかった。


 光が飛んできた方は無数の木々が集った樹海があった。その樹海の一部にぽっかりと穴が空いており、その穴から人影が見えた。香恋が力を貸してくれているのか、軽く数キロは離れているだろうにその人影の顔立ちまではっきりと見えていた。


「……スカイディアっ!」


 忌々しい邪神がそこにはいた。あの日と同じように、へらへらと笑いながら手を振る邪神がそこにいた。


 居ても立ってもいられない衝動に、いますぐあの邪神の元に駆けつけてその首を刎ね飛ばしたいという衝動に駆られるが、いまはあの邪神を殺すよりも、より巨大化したファラン少佐の対処の方が先決だった。


「さっさと終わらせるぞ、香恋!」


 たとえ巨大化したとしても、さっきまでは圧倒できた相手。恐るるにたらず。そう思っていたのだけど、それが間違いであることに気付くまでに時間は掛からなかった。


 なにせ、気付いたときには、ファラン少佐の右拳がすぐ近くまで迫っていたんだ。


 動き出しさえも見えない。


 その巨体からは信じられないほどの速さによる一撃が飛んできた。


 だが、慌てることなく「雷電」を用いてその一撃を回避する。


 が、回避した先にはすでに左の拳が迫ってきていた。


 舌打ちをしながら、左拳も回避するが、今度はさきほど避けた右拳がまた迫ってくる。


 その右拳も再び避けると、また左の拳が放たれていた。


 次から次にと左右の拳の連撃が放たれていく。


 放たれる連撃を俺はどうにか回避していった。


「旦那様!」


 アスランさんの声が響く。


 だが、返事をする余裕なんてなかった。


 回避行動で手一杯になっていた。


 カウンターを放つ余裕もない。当然、アスランさんの言葉に返事なんてできるわけもない。

『なによ、この速度。私でも知覚できるギリギリよ!?』


 余裕がないのは俺だけではなく、香恋とて同じようだ。


 いつも余裕ぶっている香恋が、本気で切羽詰まっている声なんて初めて聞いた。


 それだけファラン少佐が強くなったということ。


 だが、いくらなんでも強くなりすぎている。


 いったいなにをしてくれたんだろうか、あの邪神は。


「落ち着いて、あなた」


 次々に放たれる左右の連撃を必死に回避していると、急に連撃が止まった。連撃が止まったと同時にアンジュがいつのまにか目の前にいた。


 俺の前に立って、右手をファラン少佐に向けながら、少しばかり困ったような顔をするアンジュがいた。その向こう側ではファラン少佐が変わらず連撃を放っていた。しかし、その連撃はアンジュが作ったであろう透明な壁のようなもので妨げられていた。


 ファラン少佐はその壁をなんとか打ち壊そうとしているようで、怒濤の連撃を放っている。だが、壁はファラン少佐がどれほど殴りつけてもびくともしない。でも、壁と拳の交錯音は凄まじかった。


 規模ははるかに差がありすぎるけれど、豪雨の日に傘を差しているみたいな音が、なんの遠慮もなく次々に降りそそがれる無数の雨粒を傘が受け止めているように、透明な壁はファラン少佐の無数の連撃を受け止めていた。炸裂音というのはまさにこういうのを言うんだろう。そうぼんやりと考えてしまうほどに、その音は凄まじかった。


「う~ん、参ったね、あなた」


「参ったってなんのことだ?」


「そのままの意味だよ。この子、強くなりすぎちゃっている」


「まぁ、強くなったのはわかるけれど、具体的には」


「ん~。神獣ちゃんたちと同じくらいかなぁ?」


「……は?」


 あまりにもあっさりと言い切られた一言は、耳を疑うものだった。


 いや、神獣様をちゃん付けで呼ぶアンジュにも耳を疑ってしまったけれど、問題はそっちじゃない。そっちはそっちで大問題だけど、それ以上に問題があるのは、アンジュが言い放った神獣様と同じと言ったことだ。


「神獣様たちと同じ、だって?」


『薄々そうじゃないかなぁと思っていたけど、マジなの?』


 アンジュのとんでもない一言をすぐには信じられなかったが、香恋はどうやら薄々と勘付いていたようだ。


 でも、言われてみると、ファラン少佐の力は七王を、少なくとも俺が知っている状態の七王よりも上であるように感じられた。少なくとも素の状態のレアよりも強いことは確実だろう。まぁ、レアはレアで底を見せていなかったから正確にはわからない。


 が、素の状態のレアよりもいまのファラン少佐の方が上であることは間違いないと思う。


 だが、まさか素の状態のレアどころか、神獣様たちと同じ力だとはさすがに思わなかった。

 でも、いまのアンジュが嘘を吐くとは思えない。


 というか、いまのアンジュは事実を淡々と口にしているように感じられる。それこそ機械となにかしらの装置みたいに淡々と事実を口にし続けているようだ。……それこそ、それこそまるで──。


「そうだよ? 私はもう人じゃないもの。だっていまの私は女神様だもの」


 ──あの邪神と同じような存在に、神という存在になってしまったようだと思ったとき、アンジュは首を傾げながらそんなことを言ってくれた。


 すぐに言葉を発することはできなかった。


 なにを言っているんだと言いたかった。


 でも、続く言葉は俺の口から発せられることはなく、俺はただ呆然とアンジュを見つめることしかできなかった。


「まぁ、そんなことはどうでもいいよ。いまはこの神獣ちゃんとなった子をどうにかしないと」


「……神獣様になったって本当なのか?」


「うん、そうだよ。この子は間違いなく神獣ちゃんになっている。まぁ、この子を神獣ちゃん扱いしたら、他の子たちに悪いけどね。でも、格自体は同じ。それでも私であれば対処できるけど、やっぱりここはあなたがするべきだと思うの」


「俺が?」


「うん。だって、横からかっ攫われるのは嫌でしょう? だから最初があなたなら最後もあなたがするべきだと思う。やっぱり夫婦なら力関係は同じくらいにならないとダメでしょう?」


 あっさりととんでもないことを言い放つアンジュに、今度こそ言葉を失ってしまう。


 たしかに俺が始めた戦いなのだから、最後も俺が始末をつけるべきではある。


 それでも、いまのいままで回避で手一杯だった俺になにができるのかと思えてならない。


 そんな俺の考えを読んだのか、アンジュは「大丈夫だよ」と笑い、そしてアスランさんを見やり言った。


「ということだからさ、アスランちゃんもそろそろ覚悟を決めたら?」


「……あの、どういうことでしょうか?」


 いきなりのアンジュの言葉にアスランさんは首を傾げる。だが、アンジュは「うん?」と不思議そうに首を傾げると続けた。


「どういうことって、そろそろ次代の神獣ちゃんになる覚悟を決めなさいってことだよ? わかっているでしょう?」


「っ、それは」


 アスランさんが言葉を詰まらせる。その反応でアンジュの言葉が事実だというのは明らかだ。明らかではあるのだけど、正直耳を疑うものだった。


「アスランさんが神獣に?」


「そうだよ。というか、もう半ば神獣ちゃんになっているよね? もう一押しで成るってところかな? というわけで、あなた」


「なんだ?」


「ベヒモスさん、殺してきて?」


「……は?」


「だから、ベヒモスさんを殺して神器に戻してあげて? それで否応なくアスランちゃんは神獣にならざるをえないから。だから、虫の息になっているあの子にトドメを刺してきてちょうだい」


 にっこりと笑いながら、アンジュはとんでもない爆弾発言を口にしたんだ。

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