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Act0-18 勇者さまのパーティー

 あれから一週間が経った。


「竜の王国」を出てから、今日で七日目だった。目の前には、「蛇の王国」の首都であるエンヴィーの城壁が見えていた。とはいえ、まだ数キロはあるそうだから、馬車とはいえ、そう簡単にはつかないだろうけれど。


 おかげで俺はいまだに馬車の幌の上で、のんびりと昼寝をさせてもらっていた。幌の上って意外なことに横になれるようだ。素材は布だから、てっきり破れて、荷台に落ちると思っていたのだけど、意外と破れなかった。これはこの世界だからなのか、それとも地球でも同じなのかはわからなかった。


「カレンちゃんは、すっかりそこがお気に入りになったみたいだね」


 くすくす、と勇ちゃんが笑っていた。一週間前までは、「勇ちゃんさん」とゴンさんたちみたいな呼び方をしていたけれど、いまはその当の本人から「勇ちゃん」でいいとお許しをいただいたので、遠慮なく「勇ちゃん」と呼ばせてもらっていた。


「ん~、空がよく見えるからなぁ」


「まぁ、馬車の幌の上に寝ころんでいれば、よく見るだろうね。俺もそうしたいところだけど、体重的な問題があるしなぁ」


「あー、やっぱり体重が関係しているんだ?」


「カレンちゃんの世界と同じかは知らないけれど、少なくともこの世界では、幌もそれなりの耐久性が必要だからね。それでもカレンちゃんくらい、小柄な子じゃないと幌の上に寝ころぶことなんてできないだろうけど」


「あー、盗賊の対策か」


「いや、盗賊であれば、まだかわいいくらいかな? この世界には魔物がいるから、その襲撃から最低限荷台の中身を守れるようにしないといけないわけで」


「……忘れていたよ、この世界に魔物がいるってことに」


「まぁ、異世界人じゃ仕方がないと思うよ」


 勇ちゃんは笑いながら、こっちの世界の馬車というものを教えてくれた。たしかに、地球とこの世界の一番の違いは、魔物がいるかどうかだもんな。魔物に比べれば、盗賊なんてかわいいものか。むしろ盗賊の対策なんて言ってしまったせいで、勇ちゃんに笑われてしまっている。まぁ、盗賊の襲撃も考えなければならないとは思うけれど、盗賊よりかは、魔物の襲撃の方がより注意するべきなのは、間違いない。ゴンさんやキーやんみたいなのが、ゴロゴロといれば、どっちがより脅威なのかなんて考えるまでもないし。


「……この世界の常識がないなぁ、俺って」


「無理もないよ。召喚されて、一週間しか経っていないんだ。そう簡単に常識なんて身につかないって」


「それはそうだけど」


「まぁ、焦らず、のんびりと知って行けばいいと思うよ? なんなら俺が付きっきりで教えてあげてもいいし」


「身の危険を感じますので、遠慮します」


 付きっ切りで教えるという言葉で、実際に身の危険を感じた。同時に、ラースさんが釘を刺してくれた理由がよくわかる。


「カレン殿。勇ちゃんは、女好きだから、あまり気を許しすぎんようにな」


「竜の王国」を出る際に、ラースさんからは、勇ちゃんに気を許しすぎないように、と釘を刺されてしまっていた。まぁ、勇ちゃん曰く、「俺は胸の大きな、かわいい女の子が好きだから」だとドヤ顔で言ってくれたので、俺は守備範囲外らしい。喜んでいいのか、嘆くべきなのかはいまいちわからなかった。とりあえず、聞いてもいない好みを話してくれた勇者さまの顎をかち上げて差し上げたのは言うまでもない。


 が、そうして顎をかち上げて差し上げたって言うのにも拘わらず、勇ちゃんは時折、身の危険を感じさせるようなことを言ってくれる。守備範囲外じゃなかったのかよ、と言いたくなる。勇ちゃんの女好きっぷりを少々甘く見過ぎていたようだ。もしくは、顎をかちあげてしまったのが、かえって勇ちゃんの新しい扉を開くきっかけになってしまったのかもしれない。藪蛇っていうのは、こういうことを言うんだろうな、とこれほど思うこともほかにはない。


 だからこそ、ラースさんは釘を刺してくれたのだけど、その必要はぶっちゃけなかった。だって、俺の旅のお供には、勇ちゃんと勇ちゃんのパーティーメンバーが付いてくれているのだから、勇ちゃんがケダモノになる余裕は皆無だった。


「しかし、カレンさんは、思った以上に順応力があるなぁ」


 そう言うのは、馬車の御者をしてくれている重戦士のアルゴさん。見た目は熊みたいな人だけど、話すと、すごく穏やかで優しい人だった。そのうえ戦士でありながらも、馬車を動かせるどころか、料理や裁縫、洗濯などの家事全般をやってくれるいい人だった。勇ちゃん曰く、見た目と特技がまるで合っていないとのことだ。


「そうね。アルクのことを、ラースさんたちみたいに、勇ちゃんと呼ぶようにもなったし」


 アルゴさんの隣に座る魔導師のお姉さんである、クリスティナさんが笑いながら頷いた。クリスティナさんは、物腰柔らかく、常に笑顔を浮かべている優しいお姉さんだった。エンヴィーさんほどではないけれど、スタイルもいい人だ。ちなみにこのふたりは付き合っている。というか、勇ちゃんがくっつけたみたいだった。


「だってさぁ、どう見ても両想いのくせして、いつまでも進展しないからさ、いい加減にしろーと一喝しました」


 勇ちゃんが言うには、ふたりはパーティーの盾と最大火力という役割だからなのか、いつも連携についての話をしていたそうだった。ただふたりは、真面目に話をしているようなのだけど、傍から見るとそれは、バカップルがいちゃついている風にしか見えなかったとのことだ。


 なんでも、アルゴさんが前面に出すぎで、魔物を魔法で一掃できないとクリスティナさんが言ったら、アルゴさんは、俺がやらなきゃ誰がお前を守るんだよ、とつい本音を口にしてしまったそうだ。が、すぐにおまえは、うちの最大火力要員なんだから、守らなきゃいけないだろう、とあからさまな言い訳を口にしていたそうだけど、当のクリスティナさんは耳まで真っ赤になっていたそうだし、アルゴさんも普段見たことがないくらいに、慌てていたそうだ。うん、末永く爆発しろ、と言いたくなるエピソードだった。


 もっともそれは序の口らしく、それ以上の爆発を願いたくなるエピソードは数知れずってことらしい。それで付き合っていなかったのだから、そりゃあ一喝もしたくなるってものだった。ただそのおかげでラブラブオーラに当てられて、他のメンバーがどうにも居心地が悪くなってしまったから、ある意味失敗だった、と勇ちゃんは言っていた。


「……まぁ、カレンさんもたしかに順応力はあると思うが。付き合い始めたら、熟年夫婦かと思うような、言葉入らずの意思疎通ができるおまえらも、順応力あると思うけどな」


 というのは、アサシンのアスラさん。まぁ、アサシンとは言っても、あくまでもクラス名であって、本当の暗殺者というわけではない。RPGにお決まりのシーフ系の人だった。見た目は、忍ぶ気があるのかと言いたくなるような、全身真っ赤な服を身に着けているけれど、エルヴァニアで一番の腕利きらしい。ちなみに、勇ちゃんとは、昔からの友人だそうだ。


「まぁ、アスラさんがそういうのも無理もないですよね。アルゴさんとクリスティナさんの方が、カレンさんよりも順応力高すぎると思います。単純に、反動という可能性もなくはないでしょうけども。これも主のお導きなんでしょうね」


 それっぽいことを言ったのは、パーティーの回復と補助を担う神官のクラウディウスさん。僧侶系の人って、わりと女性というイメージがあったけれど、クラウディウスさんは名前からわかるとおり、男性だった。しかもそれなりにご年配だ。しかも勇ちゃんが言うには、かなり有能な人で、たいていの怪我はクラウディウスさんの魔法で治せるそうだ。どう考えても、神官っていう地位じゃないと思う。教会の中でも、かなり上、それこそ教皇とか狙える地位にいたんじゃないかな、と俺は思っていた。試しに聞いてみたけど、はぐらかされてしまったので、たぶん間違いはない。が、クラウディウスさん曰く──。


「教会の上層部というものは、たいてい面倒なものなのですよ。我らはみな主によって生み出された、その主に仕えているというのに、つまらない派閥を作ったり、お互いに脚を引っ張り合ったり、面倒事を押し付け合ったり、とね。私もそれなりに長く教会にいましたが、あれ以上あの内部にいると、内側から大切ななにかが腐っていくように思えましたのでね。そこにちょうどアルクさんが、教会で回復と補助要員を探しに来られましたので、私みずから立候補したわけです。おかげでいまは大変充実した毎日を過ごさせていただいておりますよ」


 と、一息で言い切ってくれた。どうやら相当にうっ憤が溜まっていたのか、もしくは当時のことを思い出して、憤慨したのかはわからなかった。が、とにかく神職でもかなり上位の人であったことはたしかだった。


「まぁ、アルゴとクリスティナの仲は、おやっさんの言う通りってところじゃないかな」


 最後に勇ちゃんが、笑い飛ばすようにして、アルゴさんとクリスティナさんの仲についてを締めくくった。ちなみに「おやっさん」というのが、このパーティー内のクラウディウスさんのあだ名だった。クラウディウスだと長いってことで、勇ちゃんが命名したそうだ。明らかに上位の神職の人につけるあだ名ではないと思うが、クラウディウスさんはそのあだ名を気に入っているようだ。神職の人であれば、なにかしらのいちゃもんをつけそうなものだけど、どうやらクラウディウスさんの器はかなり大きいようだった。


「……もしくは類友か」


 考えてみれば、勇ちゃんのパーティーは、バランス的には悪くない。やや遠距離に弱い気もするけれど、弱点というほどではない。ただパーティーメンバーは、一癖二癖ありそうな人たちだった。そこは勇者である勇ちゃん自体が、癖がある人だから、自然とそういう形になってしまった、ということなのだろう。でもそういうパーティーを俺は嫌いじゃない。


 勇ちゃんには、多少の身の危険を感じはするが、他の人たちはみんないい人ばかりだった。そのうえ勇者さまのパーティーだからか、盗賊が来ても絡まれることもない。魔物には多少絡まれはしたけれど、問題なく対処できていた。俺も一時的な仲間として、戦闘に関わらせてもらったが、問題はなかった。苦言を言われてしまったが、無理もないと自分でも思った。なにせ、それだけひどい戦闘になってしまったんだから。

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