Act1-84 霊草エリキサ その二十
血に通った魔力によって、エリキサに変化する。我ながら荒唐無稽な内容だった。
いや、血に通ったではなく、魔力によってエリキサに変化するという方が正しいかな。まぁ、どちらにせよ、荒唐無稽であることには変わらんね。そもそも魔力を垂れ流しにすれば、エリキサに変化するかも、だなんて、いままで誰かが挑戦していそうなものだ。
けれど、エリキサは幻の霊草と呼ばれ続けている。それがなによりもの証拠だ。エリキサは、人工的に作ることはできない。うまくいけば、エリキサの安定供給できたかもしれんけれど、そううまくはいかないか。
「振り出しかぁ」
そう簡単にうまく事が運ぶのは、二次元だからということか。わかってはいたけど、リアル異世界転移って、面倒ばかりだな。俺はため息を吐きながら、自室のベッドに横になった。見慣れた天井を見上げながら、ふたたびため息を吐いてしまう。なにせ振り出しに戻ってしまったのだから、無理もない。
その一方で、地道に探すしかないという結論に至っただけでも、進展と言えるかな。あくまでも前向きに考えればだけど。
「でも、地道かぁ」
ある意味基本ではある。しかしその基本でエリキサを見つけられるのだろうか。
見つけられないわけではないだろう。しかし見つけようとして見つかるものなのだろうか。そんな簡単に見つかるものじゃない。そもそも、そんな簡単にみつかるのであれば、すでにエリキサを見つけているはずだ。
しかし現実としては、まだエリキサは見つかっていない。それがなによりもの証拠だ。
「エリキサなんて、どこにあるんだろうな」
そう簡単に見つかるものじゃない。わかっていたことだけど、それを改めて、突きつけられてしまった。とはいえ、諦めるわけにはいかない。
だって諦めてしまえば、アルトリアを奪われるってことなのだから。アルトリアは俺にとってなくてはならない存在になっている。そんな彼女を奪われるなんて我慢ならない。
アルトリアは俺のものだ。まだ告白はしていないけれど、もうほとんど事実婚みたいな感じになってしまっている。だからこそ俺は、アルトリアを自分のものだと言い切れる。まぁ、もっとはっきりと言えなくもないのだけど、そればかりはちょっと恥ずかしい。というか、妙に抵抗があるんだよなぁ。
「……俺の女とか、どの口でそんなことが言うんだっつーの」
まぁ、正直言いたいですよ。むしろ言うことに憧れがあるね。だって恋人とか彼女ではなく、俺の女ですよ、俺の女。そんな言い方をできるのであれば、もうとっくにしているわ。
実際何度か言おうとしたことはあるけれど、いつも土壇場になって言えなくなる。
あくまでもヘタレじゃないよ。そうヘタレじゃない。ただ単にそういう言葉を口にするのが慣れていないってだけで、いつかは言えるようになると思うんだよね。
というか、アルトリアもそう言ってほしそうなことを言っていたな。
「「旦那さま」にとって、私はどういう存在ですか?」
って上目遣いで言われてしまったよ。そのときはパートナーと言ってごまかした。けれどアルトリアはすぐにヘタレって言ってくれた。
ヘタレじゃないのに。ただ言い慣れていないだけだから言えないだけだもん。言い慣れれば言えるようになれるはずだもん。
アルトリア以外に対して言うはずのない言葉を、どうやって言い慣れるんだろうとか自分で思うけどさ、それでもいつかは言えるようになれるはずだ。そうさ、俺はやればできる子だ。だからやろうと思えばできるはず。ただまだそのときじゃないから言えないだけだよ。
そう時が来れば、必ず言えるようになれるさ。なにせ俺はやればできる子なんだ。小学校の通知表でも、やればできるのにやろうとしないと六年間ずっと書かれてきたもの。だって勉強嫌いだから。
でもいまは勉強など関係ない。いま大事なのは、アルトリアに対して、その言葉を口にするということだ。
ふふふ、たやすすぎて、手が震えてきたよ。いわゆる武者震いだ。そう、武者震いのはず。決してガチで震えているわけじゃない。
そう、アルトリアに相手されなかったらどうしようとか、アルトリアになにを言っているんだろう、この人とか、無理して背伸びをしなくてもいいのにとか、そういう気持ちがこもった視線を投げ掛けられたら、普通に死ねるとか思っていないもの。
そ、そもそもアルトリアはそういうことを言わないし。だから絶対に大丈夫さ。
……ごめんなさい、嘘です。めちゃくちゃ不安です。
だってさ、いきなり「アルトリアは俺の女だよ」とか言うのってどうよ? 言うのを練習しているところを、アルトリア本人に見られたら、部屋の窓から身投げしそうだ。まぁ身投げしたところで、三階程度の高さからじゃ、傷ひとつつかないだろうけれど。
というかさ、告白すらしていない分際で、いきなり「俺の女」扱いとか、調子に乗りすぎだよね。そういうことは、アルトリアに恋人になってくださいと言えたら言えよと思うもの。
「こ、告白か」
そう、告白。愛の告白。好きです、付き合ってください。そう言えばいいだけのことだ。だが、それだけのことが途方もなく、難しいのことのように思えてならない。
「す、すすすす」
続く言葉が出ない。想像しただけでこれだ。実際にやろうとしたら、もうなにも言えなくなるのは目に見えている。でもヘタレじゃないもん。これも単純に告白なんて初めてのことだから、緊張していているだけだもの。そうさ、緊張しているだけなんだ。手どころか、体全身が震え始めたけれど、これもいわゆる武者震いの一種だよ。
なにせ俺はやればできる子だ。やろうと思えば、告白だってできるはずだ。そうさ、アルトリアに対して、ちゃんと言えるように──。
「私がどうかなさいましたか?」
アルトリアが首を傾げて、目の前に立っている。あれ、おかしいな。幻覚かな。アルトリアが目の前にいるように思えるな。
「……アルトリア?」
「はい、そうですが?」
「いつから、そこに?」
「さて? いつからでしょうね?」
ニコニコとアルトリアが笑っている。笑ってはいるが、頬がほんのりと赤く染まっていて、目もどことなく期待しているようにも見える。
ああ、これは確実に聞かれていたね。俺が告白する相手なんて、アルトリアしかいない。なのに、告白がどうだのこうだのと言えば、当然アルトリアとしては、期待をするよね。参ったもんだぜ。うん、どうしようか。
「「旦那さま」は私に言いたいことがあるんですよね?」
アルトリアはなぜかベッドの上に乗った。そしてそのまま横になっていた俺の上に覆いかぶさるようにして、じっと俺を見つめてくれる。吸血鬼モードでもないのに、色気全開ですね。鼻血出そうです。
「……なんのことでしょうか?」
「答えて。アルトリアのこと、好きなら、ちゃんと言って」
耳元で唇を鳴らされる。理性が遠のく。というか、感情が高ぶっていく。けれど、なんて言えばいいんよ。なにを言えば、告白になるんですかね。
好きですって言えばいいの? いやいやいや、そんなドノーマルな告白なんて、エレガントじゃないよ。告白はもっとエレガントにしないと。ト○ーズさまも常にエレガントにって言っていたもんね。しかし、エレガント、エレガントね。なんて言えばいいんだろう。
「早く、「旦那さま」」
猫撫で声で催促されてしまう。それどころか、胸部装甲を押し付けられました。大きくて柔らかいよね。うん、知っています。だって毎朝産まれたままの姿を見ているもん。
だからいつも通りと言えばそうなのだけど、ダメだ。柔らかい大きなボールのせいで、思考がまとまらない。まとまらないけれど、なにか言わなきゃいけない。ああ、もう心の赴くままに言えばいいや。あとはもう知らん。
「あ、アルトリア」
「はい」
「胸大きくて柔らかいよね!」
……うん、なに言っているの、俺。




