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rev4-49 アンジュ、爆発←

 間一髪だった。


 頭の中に浮かんできた歌を口ずさんでいたら、プロキオンちゃんが危ないって思った。


 どうしてそう思ったのかは自分でもわからなかった。


 気づいたときには、庭園を出ていた。


 プロキオンちゃんがどこにいるのかはわからなかった。


 作戦本部である会議室にはいないことはたしかだったから、客室のどこかにいることはわかっていた。


 でも、そのどこかがどこなのかはわからなかった。


 わからないはずなのに、私の足は自然と動いていた。歌を口ずさみながら、プロキオンちゃんの元へと向かっていた。


 どうしてそんなことをしたのかは、やっぱりわからない。


 プロキオンちゃんが危ないということは、私の歌はプロキオンちゃんにとっては毒のようなものなんだと思う。それも劇物に近いレベルで。


 そんな歌をプロキオンちゃんの元へと向かいながらも、口ずさむ。それじゃ余計にあの子を傷付けるだけなのに。


 そう思う一方で、「これでいい」と思ってもいた。


 なにが「これでいい」のかはわからなかった。


 わからなかったけれど、同時に「これであの子を完全に助けることができる」と思った。


 その理由もやっぱりわからない。


 わからないまま、私はある部屋へとたどり着いた。


 部屋のドアは開いていて、中には倒れ伏すプロキオンちゃんとプロキオンちゃんを抱きしめていたレンさんと、その周りでおろおろと狼狽えるだけのベティちゃんがいた。


 3人は私の存在に気づいていなかったみたい。


 気づかないのも無理もない。


 だって、プロキオンちゃんの体は崩壊していた。


 あの子の体は少しずつ砂になっていた。


 人の体が砂になるなんて聞いたことがなかった。


 聞いたことがなかったはずなのに、私はどうしてかそれが「プロキオンちゃんがアンデッドだからだ」と思った。


 わからないことのはずなのに、どうしてか理解できてしまっていた。


 その理由もよくわからない。


 わかからないまま、私は歌をやめた。


 これ以上は危険だと思ったから。


 これ以上歌うと、助けられるものも助けられなくなると思った。


 その理由もやっぱりわからない。


 わからないまま、私は部屋の中に入った。


 そこでようやくレンさんたちは私の存在に気づいた。


 3人とも私を見て、なぜか驚いていたけれど、話をしている余裕はなかった。


 私はすかさずレンさんに近付くと、そのまま唇を重ねた。


 いきなりの行為にレンさんはもちろん、ベティちゃんも唖然としていた。


 プロキオンちゃんだけは、苦笑いしていた。


 プロキオンちゃんらしい笑顔。


 でも、私が見たいのはそれじゃない。


 心の底からの笑顔が見たかった。


 私のかわいい、愛娘の笑顔が見たかった。


 だから、ごめんなさいと思いつつも、レンさんの唇に歯を当ててわずかに噛みちぎった。レンさんの顔がわずかに顰められたけれど、目的のものが、レンさんの唾液と血液が手に入った。


 そのふたつが付着する唇を親指の腹で拭ってから、その腹でプロキオンちゃんの額に線を描く。


 なんで線なのかと自分でも思ったけれど、その答えはやはり私の内側から返ってきた。


「線は門を意味する」という答えが。


 答えといっても、具体的な説明はなにもなし。


 だけど、その言葉でなんとなく察することはできた。


 門が開くときの光景を思い浮かべると、両開きの門がゆっくりと開く際、左右の門扉が離れる最初の瞬間、それはたしかに線が浮かび上がる。その線は門扉同士が離れれば離れるほど大きく広がっていく。


 たしかに「線は門を意味する」というのは理解できる答えとも言えた。


 だけど、それをなんでプロキオンちゃんの額に描くのはわからなかった。


 またもや疑問に晒されていると、再び答えが浮かび上がってきた。


 それもやっぱり具体的な説明のない答えと、詞のようなものが同時にだった。


 その答えとは、単純なものだった。


「さぁ、「解放」しなさい。悲しき宿命から。あなたの愛し子を「解放」するのです」


 浮かんできた答えは、答えというよりかは、もはや指示という方が正しい。


 そもそも誰が指示しているのかもわからない。


 それでも私はその指示通りに動いた。


 愛し子を、私の、いえ、私とレンさんのかわいい愛娘を救うために。私は詞を、「解放の祝詞」を口にしていた。


「……悲しき子よ。悲しき宿命の楔に囚われし我が愛し子よ。さぁ、ともに生きましょう。ともに歩みましょう。ともに笑い合いましょう。あなたはいまを以て新しく生まれ変わるのです。さぁ、手を取って。宿命の楔から、あなたを「解放」します」


 プロキオンちゃんに手を差し伸べると、あの子は迷いなく手を取ってくれた。


 その瞬間、プロキオンちゃんの体は真っ白な炎に、「原初の火」に包まれた。呪われた体を、悲しき宿命を燃やし尽し、新しい日々を手にするために。


 でも、当然レンさんはそんなことを知らないわけで、そうなると慌ててしまうのも無理もない。


 だから、大丈夫ですよと伝えたのだけど、それでもレンさんは心配げな顔をしていた。でも、それもすぐに変わった。


 なにせ「原初の火」の中で、プロキオンちゃんは新しい体を手にしていた。


 オリジナルのシリウスちゃんを元にした造られたホムンクルスであり、その過程でアンデッドに変化してしまった呪われたうえに、短命の体。


 その体を再構築して、通常の狼の魔物にと新しく生まれ変わった。代償として、見た目の年齢は半分くらいの10歳児前後のものになってしまったけれど。


 もともと見た目と中身の乖離が激しかったし、今回のことでかえって見た目と中身のバランスが取れるんじゃないかなぁと思わなくもない。完全に事後承諾なのはママとしてどうかと思うけれど。


 それでも、プロキオンちゃんの問題が同時に除去できたことは事実だし、それで勘弁して欲しいなと思った。うん、ママを嫌わないでください、お願いします。そう祈っている間に、プロキオンちゃんを包んでいた「原初の炎」はふっと消えてなくなった。


 プロキオンちゃんは自分の身になにがあったのかわからないでいた。


 ただ、ペタペタと自身の口元をなで回して、驚いた顔をしながら、アンデッドじゃなくなったみたいと言ってくれた。


 本人も若干理解していないみたいだから、あえて私は事情を説明した。


「うん。アンデッドから解放したからね。あなたはもう普通の狼の魔物になったんだよ、シリウ、ううん、プロキオンちゃん」


 いつもならシリウスちゃんと呼ぶところを、あえてプロキオンちゃんと呼んであげた。理由は簡単、プロキオンちゃんはもうシリウスちゃんのクローンじゃない。プロキオンちゃんはプロキオンとして生まれ変わった。それを伝えるためにあえてプロキオンちゃんといままで呼ぶことはなかった名前で呼ぶと、プロキオンちゃんは頬を赤らめながら頷いた。


「……うん、ママ」


 いままでとは違う、いままでの舌っ足らずな「まま」ではなく、「ママ」とはっきりと私を呼んでくれた。それが堪らなく嬉しかった。


 その後、レンさんと二、三言話すと、プロキオンちゃんはレンさんに抱きしめられた。若干痛そうにしていたけれど、プロキオンちゃんは嬉しそうだった。


 でも、いつまでもレンさんがプロキオンちゃんを独占というのは、いささか問題がある。

 

 正確に言うと、私にもプロキオンちゃんを愛でさせろという親バカ心が私を突き動かしたのだ。


「……レンさん、そろそろ交代です。私にもプロキオンちゃんを抱きしめさせてください。はりーあっぷ」


 にこやかにレンさんに笑いかけると、なぜかレンさんは体をびくんと跳ねさせてから、「わ、わかった」と素直にプロキオンちゃんを解放してくれました。


 同時に私は一瞬でプロキオンちゃんを捕獲しました。


 あまりの早業に私自身はもちろん、レンさんも当のプロキオンちゃんも唖然としていた。


 ですが、自身で唖然としつつも、私はもう自分を止めることはできませんでした。すなわち──。


「あぁー、もう! かっわっいっいぃぃぃぃ~! うちの娘、まじかーいいよぉぉぉぉぉ!」


 ──親バカ心が爆発したのです。


 プロキオンちゃんを抱きしめながら左右に身じろぎをする私。その度にプロキオンちゃんが、「ま、ママ、落ちついて」と目を回しながら叫んでいますが、その姿もまた愛おしい!


「なんなの? なんなの? なんなのぉぉぉ、プロキオンちゃん、マジかわっ! ダメよ、ダメダメ、こんなにかわいいなんて反則だよぉぉぉぉ!」


 もともとプロキオンちゃんはとっても、とっってもかわいかったけれど、体がコンパクトになったからか、そのかわいさに拍車が掛かってしまったのです!


 加えて、若干傷みがあった銀髪は、もはや傷みなんてものとは無縁の、羨ましすぎるくらいのさらさらヘアーになっている。尻尾の毛並みは艶が非常に美しくて、もはや芸術レベル! いや、プロキオンちゃん自身がすでに至高の芸術品と言っても過言ではないレベル

! もはや神の逸品とも言うべき存在になった。なってしまったのです!


 そんな究極とも言える美の極致のプロキオンちゃんと書いて愛娘と読む存在を、どうして愛でられずにいられようか。いいやいられはしまい。ゆえに私は──。


「プロキオンちゃんを愛でるの! ママはプロキオンちゃんを愛でずにいられないのぉぉぉぉ!」


「ま、ママが変態さんになっちゃったの。ぱ、パパぁ~、助けてぇ!」


 プロキオンちゃんが涙目になってレンさんに助けを呼ぶ。あぁ、それさえも愛おしい! なんでこんなにもかわいいのかしら。ママ昇天しそう。


「……アンジュおねーちゃんは、やっぱりばっちぃの。さっきまでは、めがみさまみたいっておもっていたけれど、やっぱりみまがいだったの。アンジュおねーちゃんはばっちぃのがせいじょーなの」


 ベティちゃんがなにやら胸にぐさりと刺さる一言を告げてくれましたが、いまの私は無敵です。プロキオンちゃんがいるから。プロキオンちゃんがいる限り、私は──。


「私は無敵だよぉぉぉぉ!」


「やぁぁぁぁぁ! 離れてぇぇぇぇえ! ぱぱぁぁぁぁぁ!」


 ──無敵です。そう思っていると、腕の中のプロキオンちゃんがガチ泣きを始めました。どうしたんだろうと思っていると、レンさんが私の腕の中からプロキオンちゃんを奪取されると一言──。


「おまえ、当分プロキオンと接触禁止な?」


「な、なぜ!?」


「なぜもくそもあるか、馬鹿野郎!」


 ──無慈悲すぎる裁定を告げられたのです。


 ですが、レンさんは聞く耳持たず、当のプロキオンちゃんは「うえぇぇん」とガチ泣きしていますし。


 いったい私がなにをした。


 そう言いたい。


 言いたいのだけど、第三者であるベティちゃんは一言、やはり無慈悲なる一言を告げてくれました。


「じごーじとくなの、アンジュおねーちゃん」


 再び告げられた裁定に私がその場で崩れ落ちたのは言うまでもありません。


 その後、プロキオンちゃんを抱きかかえるレンさんと、その後を物欲しげに追う私と、不審者を見るような厳しい目で私を見やるプロキオンちゃんとベティちゃんという一行で私たちは会議室への帰還を果たすのでした。

前半との温度差よ←

まぁ、元からロリコン疑惑なアンジュに、燃料を投下したらこうなるわなということで←

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