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Act1-81 霊草エリキサ その十七

 デイビットさんたちを見送り、俺達もまたギルドに向かった。


ゴンさんは、念のためですよぉ~、と言って、ギルドまで送ってくれると言ってくれたので、ボディーガードとして一緒に来てもらうことにした。


シリウスを抱っこしながら、ゴンさんは、前を歩いている。気を使ってくれているのは明らかだ。


「お疲れさまです、「旦那さま」」


腕に抱きつきながら、アルトリアが労ってくれる。特に大変でもなかったのだけど、アルトリアに労ってもらえると、疲れが取れる。


「そこまで大変じゃなかったよ。でかい蛇は倒したけれど」


「蛇ですか?」


「うん、ヴェノムパイソン。尻尾の肉をお土産で持ち帰っているから、あとで一緒に食べよう」


「……昼間から大胆です」


「え?」


「だって、ヴェノムパイソンは、毒蛇ですよ?」


「えっと、やっぱり?」


「毒蛇は、滋養強壮にいいと言われています。あと、夜がその」


アルトリアが顔を赤くする。やはり、この世界でも事情は同じみたいだ。


まぁ、遠回しに抱かせてと言っているようなものだから、アルトリアが赤面するのも無理はない。というか、下手したら、セクハラですよね。いや俺は対外的には上司だから、パワハラでもあるのかな。うん、よくわからん。


「ご、ごめん。そういう意味じゃなくてさ」


「……「旦那さま」がお望みなのであれば、夜伽のお相手をするのは、やぶさかではありません。けれど、その、今夜は」


「今夜は?」


なぜか生唾を飲んでしまう。アルトリアの続く言葉が気になって仕方がない。


「……あの日なので、ごめんなさい」


 あの日がどの日なのかなんて、聞くまでもなかった。いや、俺も一応は、女の子ですからね。


「そ、そうなんだ。ご、ごめん」


「いえ、お気になさずに」


申し訳なさそうにアルトリアが、表情を曇らせる。アルトリアが謝ることじゃなかった。むしろ、こういうことまで、謝られたら、こっちが困ってしまう。


「謝らなくてもいいよ。別にそういうことがしたいわけじゃないし。いや、まったく興味がないわけじゃないけれど、アルトリアの体の方が大事だから、無理してまですることはないというか」


うん、すごい混乱しているね、俺。自分でも、はっきりとわかるよ。


それだけアルトリアを大切に思っている証拠ってことなのだろうけど、それでも、ここまで挙動不審になるって、どうよ。アルトリアにも、呆れられそうだよ。


「……私の「旦那さま」は、世界一です」


アルトリアが、いままで以上に、腕に胸を押し付けてきた。それだけで、気が遠くなりそうです。


「あ、アルトリア、さん?」


ふだんは言わない、さん付けでアルトリアを呼ぶ。アルトリアは、濡れた紅い瞳を向けながら、じっと見つめてくれる。ごくり、と喉が鳴った。心臓の鼓動がやけに早い。


「私のことをなによりも考えてくれて、嬉しいです」


 アルトリアが幸せそうに笑ってくれた。笑うアルトリアは、どこまでもかわいくて、そしてとてもきれいだ。


「……アルトリアのためなら、別にこれくらいは当然だろう?」


「普通はそれくらいができないんですよ?」


「そうなのか?」


「ええ。いままでそういう場面を何度も見てきました。男性という生き物は、基本的に女性をそういう目でしか見ていませんから、女性のことなんてお構いなしに、自分の欲望をぶつけてばかりでした」


「ああ、そういう男っているよなぁ」


 ドラマや小説ではありがちなタイプだ。男は猿同然と揶揄する人もいるけれど、実際その猿同然な野郎がいるのは事実だ。どうして下半身で物事を考えたがるのか、マジで意味がわからん。


「その点、「旦那さま」はきちんと私のことを考えてくださいます。私の体調を踏まえて、行動してくれる。そんな「旦那さま」のどこが世界一ではないのでしょうか?」


 ぎゅっと腕にしがみつきながら、アルトリアが笑う。


 アルトリアみたいな美少女にここまで慕ってもらえるのは、同性であっても嬉しいことだ。


 いや、もう同性とかそういうのはどうでもいいか。アルトリアに慕ってもらえて、特別な笑顔を向けてもらえるのであれば、俺はそれでいい。


 アルトリアとそういうことをしたくないわけじゃないけれど、女同士ってどうやるんだろうか。薄い本でありがちな方法だと、生やすとかになるのだろうけれど、そんな魔法なんて、この世界にあるわけがない。


 というか、そんな魔法があったら、見てみたいもんだよ、実際。仮にあったとしても、それを使うどうかはわからない。いや、使えるなら、一度くらいであれば、興味本位で使ってもいいとは思うけれど、興味本位で終わってくれるのかがわからない。


 ありかなしかで言ったら、そういうことをするのはありっちゃありだと思う。その反面、責任はつきものなわけであって、要は、興味本位で使って、できちゃったらどうしよう、と言えばいいのだろうか。遊びのつもりだったのに、できてしまったという話はわりと聞くもの。


 正直いままであれば、遊びだろうと、そういうことをするのであれば、その覚悟くらいもっておけよと思っていたけれど、実際、本当にその場面に陥ったら、どうすればいいのか、俺にはさっぱりだ。当然責任は取るよ。それはあたり前だし。


 ただ責任を取るため、というのは、なにか違う気がするんだよなぁ。まぁ、そんなの知るかと言い出すよりかはましだろうけれど、それでもなにか違う気がしてならないんだよね。


 とはいえ、それはずべてそういう魔法があればの話だ。


 さすがにそういう魔法はないだろう。あったらあったで、驚くわ。なに、その百合ワールドはってなっちゃうよね。


 そう、百合。うん、別に嫌いなジャンルじゃないよ。うん、男同士よりかは見られるし。ただまさか実際に自分がそっちの側に回るとは思っていなかったわけだけども。


 ノンケだと豪語していたのに、蓋を開けてみれば、ね。


 案外自分のことって、自分でもわからないものなんだなぁ。


 自分のことなのだから、自分が一番よくわかっていそうなものだけど、実際はそうでもないようだ。


 自分のことは自分が一番よくわかるのではなく、自分のことは自分が一番理解できるってことなのかな。


 似たような言い回しだけど、内容は違うし、現実を踏まえてみれば、理解できるの方が正しい気がするよ。


「……アルトリアは、さ」


「はい?」


「もし、子供ができるとすれば、何人欲しい?」


「……「旦那さま」の子を授かれるのであれば、何人でもいいです」


 自分でもバカな質問をしたなと思ったのだけど、アルトリアは真面目に答えてくれた。それも超直球で。


 もうなんて返せばいいのか、わからない。いまならミーリンさんに言われた言葉がよくわかる。うん、たしかに、これは傍から見れば、「爆発しろ」と言われそうなものだよね。


「そっか」


「……作るのですか?」


「いやいやいや、作る方法ないじゃんか? いや、だって俺は、その、女だし? ちくちくりんだけど、一応は女だからさ? 子供ができるようなものは付いていないわけでして」


「つけられたとしたら?」


「え?」


「ですから、そういうのを付けられるのであれば、どうなさいますか?」


 アルトリアは期待しているような目を向けてくれています。


 ……えっと、どうしろと? え、なに、これ? なに、このイベント? なに? 生やすの? 俺、生やしちゃうの? 生やしちゃう系のイベントなん? 


 ちょっと落ち着こうか。いやいや落ち着けるか、こんなん! こんなん言われたら、落ち着けるわけがないじゃんか! 


 ああ、もうどうすりゃいいのよ、これ。


 いやアルトリアは好きだよ。ええ、もうキスして、そのまま組み伏したいくらいに好きだよ。


 だからと言って、子供ができるそれを装着とか。っていうか、どうつけるんだよ。


 もしかしたら、そういう魔法が、本当にあるの、この世界。嘘でしょう? 


 で、でも、アルトリアがこういうことで嘘を吐く理由なんてないわけだし。


 だ、だけど、本当にあったら、俺どうすんのよ。


 生やすの、生やさないの、どっちなん? ああ、もうわけわからんし、アルトリアはかわいいし! 胸、柔らかいし! ってそういうことじゃねぇ! ああ、もう!


「成人したら! でお願いします! 成人したら、作るってことで!」


 俺は高らかにそう宣言していた。同時にいたるところから視線を感じていた。見渡せば、そこら中から見られていたよ。……やらかしたかな、これ。


 っていうか、成人したらってなんだよ、成人したらって! なに暴走しているんだよ、俺は。ああ、もうダメだ。これ、もう完全に言い繕うこと、不可能ですよ。


「……それじゃあ、五年後を楽しみにしています、ね」


 アルトリアがそっと頬に口づけてくれた。アルトリアの柔らかい唇を感じながら、俺はただ頷くことしかできなかった。同時に、エリキサを絶対に見つけやると闘志を新たにすることができた。


 すべては、明日が積み重ねってできる未来のために、俺は俺のできることを精いっぱいにやろうと改めて思ったんだ。

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