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rev3-86 手に入れられないモノ

この話が一、二を争うくらいに書きたかったです←

 色とりどりの紙吹雪が舞う。


 紙吹雪とともに、様々な歓声があがっていた。


 号泣している人もいれば、満面の笑みで祝福する人もいる。


「リヴァイアス」の街は、現在お祭り騒ぎでした。


 先日「フェスタ」は終わりを告げたわけですが、今日はその「フェスタ」と勝るとも劣らないお祭りが行われています。


 それはレンさんとルクレティア陛下の結婚式です。


 その結婚式は和やかかつド派手に行われました。


 なにせ、式場は本来なら王城の教会で行われるはずだったのが、急遽「大蛇殿」にて行われましたし、その光景を上空に突如として出現した大きな鏡のようなもので中継していました。


 その光景にはさすがに開いた口が塞がりませんでしたよ。


 派手にもほどがあるだろうってね。まぁ、王族、しかも現役の女王様のご結婚となれば、それくらい派手にするというのもありと言えばありですが。


 ただ、ド派手ではありますが、今回の結婚式の費用はあまり掛かっていないのです。


 式場の「大蛇殿」はいまのルクレティア陛下とプーレリア女史であれば、ただで使えますし、あの大きな鏡も魔法を使っているらしいのでやはり費用は一切掛かっていない。

 せいぜい、各国の賓客の滞在費と街の飾り付け程度でしょうけどね。


 ですが、それでも本来の費用とは比べようもなく安上がりでしょう。


 ある意味、今回の騒動は「リヴァイアクス」には、相当のプラス効果になったことでしょう。


 なにせ、神獣様の加護さえも目ではないほどの、いえ、神獣様の力そのものを手に入れたと言っても過言ではないのですから。


 その正体は、神器。


 そう、「リヴァイアクス」には現在神器の担い手がふたりおられるのです。それがルクレティア陛下とプーレリア女史です。あ、もう女史ではなく、陛下の方がいいかもですね。


 とにかく、両陛下がおられる限り、「リヴァイアクス」はもう安泰どころか、絶対の国となったも同然です。実際のところは、政治には疎い私ではわかりませんけどね。


 ただ、イリアさんが、私の隣で鏡越しに中継を見られているイリアさんが言うには、「リヴァイアクスは世界情勢で言えば、各国よりもひとつどころか、大幅に頭を飛び出した国になった」ということです。


 それだけ神器の存在は重要であり、神器の担い手を囲った国は大きなアドバンテージを得るそうです。しかも「リヴァイアクス」の場合は、国主その人が担い手となったので、神器の担い手をコントロールする必要がないというおまけ付き。


 そのうえ、その担い手がふたりもいる。片方になにかがあっても、もう片方がいれば国の地位は世界的な地位は揺るぐことはないだろうというのがイリアさんの談です。


 でも、逆に言えば、国主が神器の担い手になったため、真っ先に国主たるおふたりが狙われることになるということ。しかも戦力を分散することなく、一点集中でおふたりを狙う可能性が出てきたというデメリットも存在するということでもあるはずです。


 そこまではイリアさんも仰らなかったけれど、実際にそういう暗躍する存在が今後出没する可能性も否定できないことです。


 もっとも、それは神器の担い手に国主がなったという事実を公表すればの話ですけどね。

 

 いまのところ、一般的な認識としては、今回の騒動は「「海王リヴァイアサン」を名乗っていたリヴァイアサン様が「リヴァイアクス」を試すために行った」ということになっています。


 そのため、リヴァイアサン様が本来の姿である神器になられたなんてことは、国家機密として扱われています。当然、両陛下が担い手になったこともまた。


 ただ、それでも両陛下が担い手になられたことは消しようのない事実なため、世界的地位は決して揺るぐことはない……。あくまでもイリアさんのお話ではですけども。


 そして両陛下の扱いはというと、いまのところ「海王リヴァイアサン」として振る舞うプーレリア陛下がルクレティア陛下よりも上位となっています。あくまでも表向きは。


 実際のところは同等と言えればいいんですけど、現時点ではルクレティア陛下が上位ですね。なにせ、この1週間ルクレティア陛下の執務室からプーレリア陛下の悲鳴が途絶えなかったことはないくらいですから。


 それもプーレリア陛下がルクレティア陛下に、新婚旅行のプレゼントをしてしまったがゆえに起きたことです。要はプーレリア陛下の墓穴または自爆なんですけどね。……若干詐欺めいたやり取りではありましたけども、言い出したのがプーレリア陛下でしたので、盛大な墓穴ないし自爆だったとしか言いようがありません。


 その結果がこの1週間のルクレティア陛下による集中レッスンだったわけです。1週間で政のなんたるかをとことん詰め込み、あとは実践のみというところまで教え込んだそうです。……1週間でそこまで詰め込まさせられたプーレリア陛下の悲哀を嘆けばいいのか、1週間でそこまで詰め込ませたルクレティア陛下のスパルタっぷりに震えればいいのかはわかりませんけど。


 プーレリア陛下のレッスンと併行して、ルクレティア陛下はご自身の挙式の準備を改めて進め、今日を迎えたわけです。本当にすごい人だなぁと思わずにはいられません。その一方で夜もまたすごかったんですが。


 まぁ、その、なんですか。レンさんとルクレティア陛下の寝室にプーレリア陛下も利用していたといいますか。うん、すごかったです。その、主に喧嘩の声とか、宥める声とか、その後問答無用に搾取される声とかね。誰がどの声だったのかは、あえて言いませんけど。


 それでも一つ言うとすれば、両陛下は、ともにこの国を導く立場ではありますが、同時に恋のライバルでもあるということですかね。……私にとっては胸の痛いものではありますけど。


「まま?」


 袖を引っ張られたので、振り返るとそこにはベティちゃんを肩車するシリウスちゃん、もといプロキオンちゃんがいます。


 ベティちゃんは「おー」とか「わー」とか言ってはしゃいでいます。まぁ、プロキオンちゃんはレンさんよりも身長が高いため、同じ肩車でもやはり視点がまるで違うのでしょうね。

 そのはしゃぎっぷりはとてもすごいです。


 プロキオンちゃんが「暴れないで」と何度も言っていますけど、その声がまるで聞こえていないようです。


「どうしたの? シリウスちゃん?」


「……がぅ。どうしたのは私のセリフ」


「うん?」


「……だって、まま、いますごく寂しそうな顔していたから」


 そう言って心配げに目を細めるプロキオンちゃん。どう答えればいいのか、一瞬言葉に迷ってしまいました。ですが、それはほんの一瞬だけ。私はどうにか笑顔を繕ってプロキオンちゃんの頭に手を乗せました。


「なんでもないから、気にしないでね」


「でも、まま」


「大丈夫。本当にダメって思ったら、シリウスちゃんに慰めて貰うから。いまのところは問題ないの」


「……本当に?」


「うん。それとも、シリウスちゃんはままを信じてくれないの?」


「そんなことない。信じる」


「そう。ありがとうね」


 頭を一撫でしてから、プロキオンちゃんの前髪を掻き上げて、露わになった額に口づてあげると、プロキオンちゃんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑ってくれました。そんなプロキオンちゃんに、ベティちゃんは「おねえちゃんは、あまえんぼうさんなの」とからかうようなことを言いました。その声にプロキオンちゃんは過敏に反応しました。


「あ、甘えん坊じゃないもん!」


「うそだー、あまえんぼうさんなの」


「違うもん! ベティのばか!」


「む、バカというほうがバカなの!」


「違うもん、ベティがバカなの!」


「おねえちゃんの方がおバカさんだもん!」


「「むぅ~!」」


 肩車をしながら口喧嘩を器用に行うふたり。見ようによっては、親子くらいの歳の違いがあるように見えますけど、実際はそこまで歳に違いはないようです。見た目ではプロキオンちゃんの方が大人に見えるのに、精神年齢はたぶん同じですね。


 だからでしょうか。ベティちゃんとプロキオンちゃんはちょっとしたことで、こうして喧嘩をしてしまいます。


 レンさんがいれば、「喧嘩しないの」と言ってふたりを引き離すのですが、現在そのレンさんは「大蛇殿」で挙式の真っ最中であり、この場にはいません。


 止められるとすれば、イリアさんかルリさんくらいでしょうか。


 ですが、おふたりとも温かく見守るだけで、止める気配はありません。


 まぁ、仲良く姉妹喧嘩をしているだけですから、止める理由もないんですけどね。


 そんな仲のいい姉妹を眺めながらも、私の胸には一抹の静寂感がありました。


 それはプロキオンちゃんの正体についてです。


 あくまでもレンさんとイリアさんの考察によるものなんですが、プロキオンちゃんはレンさんの娘さんであったシリウスちゃんの不完全なクローンらしいです。クローンというのは、曰く本人そのものであるのに、別人を作り出す技術らしいです。そのクローンがプロキオンちゃんらしいです。私にもわかりやすく言えば、シリウスちゃんを元にしたホムンクルスがプロキオンちゃんとのことでした。


 それも、プロキオンちゃんの場合は、不完全なため寿命がとても短いかもしれないのです。

 その理由が、プロキオンがアンデッド化していること。


 完全なクローンであれば、アンデッド化することなんてありえない。本来のシリウスちゃんはアンデッドではなかったが、なにかしらの事情でプロキオンちゃんは半分アンデッド化しているのです。


 それはつまりプロキオンちゃんは不完全なクローンであり、その不完全体に対して、本来の寿命を与えるわけがないとのこと。加えて、「ルシフェニア」内でプロキオンちゃんの扱いを踏まえると、おそらく、プロキオンちゃんはあのいけ好かない女こと、アルトリア王女のストレス解消のためだけの存在ということ。それも、プロキオンちゃんに慕われながらです。


 それもイリアさん曰く、製造の過程で特定の人物に対して、服従に近い感情を宿らせればいいだけのことであり、プロキオンちゃんのアルトリア王女への思慕はあらかじめすり込まされていたものであり、この子自身が抱いたものではないとも。


 すべてが偽り。


 プロキオンちゃんはなにからなにまでもが本物ではない。与えられた命とて一年も持てばいいという話です。それこそ夢幻のような存在でしかないとも。


 レンさんには「それでもプロキオンを引き取るのか?」と言われました。そのとき、プロキオンちゃんはベティちゃんとの喧嘩で疲れてしまったみたいで、ベティちゃんと隣り合って穏やかな寝息を立てていました。


 眠っていからでしょうか、そのとき、プロキオンちゃんは普段隠している口元が露わになっていました。そう、白骨化している口元が露わになっていたのです。


 その口元をむにゃむにゃと動かしながら、プロキオンちゃんは「まま」と所在なさげに手を動かしていた。その手を握ることに、ためらいなんてありませんでした。


「ここにいるよ」とそっと囁きかけながら、白骨化している頬に口づけを落としました。躊躇なんてするわけがない。だって、シリウスちゃん、いや、プロキオンちゃんは私の娘なのだから。だから、躊躇なんてする必要がないのです。


 そんな私の姿にレンさんは「……わかった」と言ってくれました。そして「まぁ、アンジュが無理だと言っても、俺が引き取ったけどね」と笑っていました。その笑みを見て、胸がどくんと高鳴りましたけど、どうにかごまかすことはできました。


 それはいまも同じです。


 プロキオンちゃんは聡い子ですから、私の変化にも気づいていましたけど、力業でどうにかごまかしたのです。……本当にごまかし切れたのかはわかりませんけども。


「……アンジュさん」


 イリアさんはなにか言いたそうな顔をしていました。それはルリさんも同じ。ですが、私は「大丈夫ですよ」と言って笑いました。


「私は大丈夫ですから」


 そう、私は大丈夫です。


 いまはまだ。


 私の目に映るのは、ルクレティア陛下と誓いのキスを交わすレンさんの姿。


 その姿を見て、胸が締め付けられそうになる。


 そして思いました。


「どうして、私はあそこにいないのだろう」と。


 レンさんと誓いのキスをしているのが、どうして私ではないのだろうと。


 気づきたくなかった。


 認めたくなかった。


 でも、もう自分をごまかすことはできない。


 私はレンさんが好き。


 あの人を愛している。


 だけど、この想いは告げられない。


 だって、あの人の隣にいるのは、私じゃない。


 私はあの人のそばに私の居場所はない。


 いるべきなのは、私ではない、両陛下そしてお姉ちゃんなんです。


 私はあの人の隣に立ってはいけない。


 それでも、この胸に宿る想いは収まってはくれない。


 そしてルクレティア陛下への嫉妬もまた。


 誰もが祝福する中、私は唯一醜い感情を抱いている。


 それでも、その感情を抑えなければならないのです。


 私が手に入れることができないもの。手に入れてはいけないもの。


 それがレンさんからの愛情であり、あの人の隣という居場所です。


 そのふたつをああして手に入られたルクレティア陛下への嫉妬は燃え上がっていた。


 でも、それは抑えなければならない。


 こんな醜いものを抱いていることをプロキオンちゃんに知られたくないから。


 だから、私はごまかし抜く。


 この胸に宿る想いを抑えながら。


 そして──。


「おめでとうございます、レンさん、ルクレティア陛下」


 ──心にもない祝福をひとりごちるのです。


 それが私の選んだもの。


 手に入られない眩しいものをただ見つめ続けるのでした。

次回から特別編です。

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