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Act1-76 霊草エリキサ その十二

本日九話目です。

これも一種の飯テロになるのかな?

 毒蛇の尻尾。


 それだけを見ると、某狩りゲーの素材にありそうな名称だ。けれど俺はその素材になりそうなものを、いまから食べる。


 とりあえず、血抜きをした。血抜きをしないと、黒っぽい血の塊が残ってしまって、美味しくなってしまう。まぁ、この場でできるのは、逆さにぶら下げて、血を抜くというやり方だけだった。


 この毒蛇くんは、図体がかなりでかいため、血抜きをとてもしづらい。逆さにぶら下げるだけでも、一苦労だった。


 具体的には、尻尾のあたりをロープで結んで、適当な木の、一番太い枝にぶら下げた。


 ぶら下げたら、木の枝が折れるかもしないとは思ったけれど、意外なことに枝は折れることなく、毒蛇くんの巨体を支えてくれた。


 ただ十メートルはありそうな大蛇が、逆さづりになっているのは、なかなかに怖い光景だ。まるで上から飛び降りて、一口で俺を飲み込もうとしているかのようだ。


 もっとも飲み込むための口は、というか、口がある首と胴体は離れ離れになっているから、どうやっても飲み込まれることはないのだけど、なんというか、そういう雰囲気があるなぁと思わずにはいられない。


 そうして血抜きを終えて、いま尻尾の先端でステーキ作りの真っ最中だった。


 見た感じ、焼くとぱさぱさしそうな肉ではあったけれど、Cランクの魔物の肉だ。まずいわけがない。いやCランクだから食えば美味いというわけでもないけれど、毒蛇は自分が美味いということをわかっているからこそ、毒を持っている。


 要は毒蛇にとっての毒とは防衛のための武器だった。もしくは得物を確実に得るための武器とも言えるかな。


 どちらにしろ、生きるために必要だったからこそ、毒を持つようになった。


 そして毒のある蛇ほど美味い。ならば、それはきっとこの世界でも変わらない。正直女子校生が食べる内容ではないとは思うよ。でもさ、美味しそうなんだもの。


 いまだって、急ごしらえのかまどで焼いている肉は、じゅうじゅうという音を立てている。うん、食欲を掻きたてるいい音だ。


 持ってきていた塩と香辛料を少し掛けておいたので、肉の焼ける音とともに、塩と香辛料の香りが広がっていく。


 ちなみに直火ではなく、これまた持ってきていた鉄板で焼いている。


 容量ほぼ無限のアイテムボックスはとても便利です。


 鉄板と言っても屋台で使うような立派なものではなく、街の鍛冶屋さんで買い取った屑鉄で作ってもらった鉄板だ。


 普段は武器を作っている鍛冶屋さんだったのだけど、無理を言って調理用の鉄板を作ってもらった。


 その鍛冶屋さんは、「ラース」内で一番腕のいい鍛冶屋さんだと、うちに常駐する冒険者たちに教えてもらったからこそ無理を言ってお願いしたわけで、その分色はつけたから、文句は言われていない。ただ次はちゃんと武器を頼んでくれとは言われたけどね。


 そんな特注の鉄板の上で蛇肉が焼かれていく。蛇肉は、塩と香辛料の香りは食欲を掻きたててくれる。だが、シリウスはそうでもないようで、平然としている。やっぱり犬とか狼は、生肉の方が好きなんだろうな。


 まぁ、焼いた肉を食べるなんて習慣はないだろうから、無理もない。


 どこかで聞いた話だけど、昔は生肉を食べれば、病気にならないと言われていたとか。


 実際野生動物、しかも肉食の動物を見てみれば、あいつらは年がら年中肉を食べてばかりだけど、病気にはなっていないはずだ。その分寿命は短そうだけど、病気になるというイメージはあまりない。


 とはいえ、あくまでも野性の動物での話だし、野生動物と人間とじゃ、同じ命とはいえ、体の構造は違っているから、同じことをしても病気にならないというわけじゃない。むしろ人間の場合は、かえって病気になりそうな気がする。


 とにかく、シリウスは調理をした肉よりも、調理前の生肉の方が好きみたいだ。試しに、尻尾の肉をやや厚めに切って、シリウスの顏の前でぶら下げてやると、飛びついてきた。


 美味そうに生肉を咀嚼するシリウス。鱗は剥がしてあるから、切り身のままで食べさせても問題はない。あとで、骨もあげようかな。骨は歯を丈夫にするので、犬に骨をあげるのは、わりと大事なことだ。狼の魔物に同じ理屈が通用するかはわからないけど。


 まぁ、いまは自分の昼ごはんだ。昼からステーキとか、豪勢だけど、冒険者は体が資本だから問題ないよな。経営者との兼任ではあるけど、俺も冒険者の端くれだから、これくらいはいいよね。


さて、そろそろ焼き上がるかな?


フライ返しの代わりに、魔鋼のナイフで、尻尾肉をひっくり返した。


 いい感じの焼き目になっている。個人的には、ミディアムレアが一番好きなので、今回もミディアムレアにしたいところだが、毒のある魔物の肉なので、一応ウェルダンにしておくのが、よさそうかな。


まぁ、シリウスが生肉をがつがつと食っているから、レアでも大丈夫だろうけど、念には念をだ。今回だけは、ウェルダンにしよう。


ミディアムレアにして、腹を下すことはないと思うけど、少しでも、可能性があるのであれば、避けておくのが、無難だった。


ウケ狙いで、腹を下すなんて、ごめんだからね。


「ん~、いい香り」


山椒に似た実を見つけていたので、塩とほかの香辛料と一緒に振りかけていたのだけど、正解だった。お腹が盛大に鳴り、口に唾液が溜まっていく。


「じゃあ、いただきます」


手を合わせて、魔鋼のナイフをテーブルナイフの代わりに使い、尻尾肉を切り分けていく。それから今度はフォークの代りに使い、切り分けた肉を刺して、かぶりついた。


「うん、美味い」


 塩と山椒っぽい実の香りが、肉のうま味をこれでもかと引き立てていた。


 そしてなによりも肉の脂だ。甘い脂の味が口の中に広がっていく。


 肉自体はやや固めではあるけれど、食べられないほどに固いわけじゃない。というか、地球、特に日本産の肉が柔らかすぎるんだろうね。


 柔らかい肉が好きって人もいるけれど、俺はこのくらい歯ごたえのある肉の方が好きだ。さすがにゴムレベルに固い肉は、勘弁願いたいが、これくらいの歯ごたえであれば、俺の好みの範疇だった。


「うん、やっぱり肉だよね、肉!」


 日本でも肉好き女子が増えつつあるけれど、全体的に見ると、脂の少ない赤身肉が好きなヘルシー嗜好の人が多い。


 個人的にはヘルシーなものよりも、脂がっつりな肉の方が好きだ。要はロース大好きっ子ですよ。


 最近はホルモンのコリコリとした食感とあの甘い脂もいいと思っている。


 が、やっぱり俺の外見で、焼肉や立ち食いステーキなんて行くのは、異様な目を向けられていたもの。


 やっぱり俺の見た目だと肉よりも、魚とか野菜とか、和食好きに思われていたのかもしれない。


 まぁ、そんな視線なんて無視して、もうちょっとでプラチナカードに昇格するところまで食べたけどね。ダイヤモンドカードまで行きたかったんだけどなぁ。いつ地球に戻れるかもわからない現状を踏まえると、最初からやり直しをせねばならない可能性は高いね。


 立ち食いステーキは一年間更新がないと、最初からやり直しなのが辛い。定期的に通ってもらうために、そういうシステムにしているのだろうけれど、それでも個人的にはもう少し猶予があってもいいんじゃないかなぁと思うんだけどね。


「蛇の肉って意外と美味しいんだな。シリウス、まだ食べるか?」


 鱗をはぎ取った生肉はまだあるので、シリウスに食べさせても問題はない。


 それに尻尾の先端の肉だけでもだいぶある。たぶんキロ単位はありそうだ。


 さすがにキロ単位も肉は食べられないし、残りはアルトリアたちへのお土産にしようかな。


 その前にシリウスがまだ食べるかどうかだけど、シリウスは尻尾をぶんぶんと振っている。


 どうやらまだ食べたいみたいだし、食べさせてあげようかな。


 どうせもう目的地には着いているんだから、ちょっとくらいは多めに見させてもらいたいところだ。


 少し先には、森の中で開けた場所がある。うっそうとした森の中で、唯一日が差し込んでいるであろう場所。そこに俺の目的地である薬草の群生地があった。


 実際少し離れたここからでも、大量の薬草が群生しているのが見える。


 さすがに大規模とまでは言えない。なにせ森の中のわずかに開けた場所にある群生地だもの。


 限られたスペースの中で所せましと群生しているけれど、せいぜい中規模という程度だ。だがこういう場所だからこそ、エリキサがある可能性は高いだろう。


 ヴェノムパイソンがいたせいで、存在自体は知られていたけれど、ここの群生地はまだ誰の手にもついていない、まっさらな状態だ。ここであれば、エリキサが生えていたとしても不思議じゃない。


「お宝さがしの前に、まずは飯からだけどなぁ」


 鉄板の上の肉はまだまだあるし、シリウス用の生肉もある。食べきれなくても、今日は「足」がいるから、問題もない。


「とりあえず、飯だ、飯」


 シリウスに生肉のおかわりをあげつつ、久方ぶりのステーキに舌鼓を打ちながら、その日の昼食は満足なものになった。

続きは二十一時になります。

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