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Act1-75 霊草エリキサ その十一

本日八話目です。

いままで眠っていたグルメタグが目を醒ますっ!

 人気がない森だった。


過去人の手が入らなかったのか、緑豊かで、虫や動物も多い。まぁ、たいていは魔物だけどさ。


背の高い、苔むした木々が生い茂り、やや鬱蒼としているが、不純物が混じっていない空気で、森林浴をしたら気持ち良さそうだ。


高い木々があるからか、木々の上の方からは、鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。小鳥にしては、いくらか甲高いし、妙に殺気立ってはいるが、まぁ、問題はない。


足元はこれまた背の高い草が生い茂っている。たまに足をとられてしまうけれど、やはり問題はない。


問題があるとすれば──。


「……蛇って美味いのかな?」


俺が知るかというように、シリウスが短く吠えた。


俺とシリウスの目の前には、とぐろを巻いた黒い大蛇がいた。


シューと空気が抜けたような声を出しながら、俺達を睨み付けてくる。


 情報通り、Cランクの魔物のようだ。しかしCランクの魔物は、みんなでかくならなきゃいけないのかね。


 いまのところ、Cランクの魔物で、でかくなかったのは、デスクローラーくらいなんだけど。デスクローラーも、芋虫にしては、でかかったけど、ほかの魔物と比べたら、小さい。


地球で考えたら巨大人食い芋虫ということになり、大騒ぎどころか、自衛隊案件だよ。それを大したことないと思っている時点で、感覚がおかしくなっている。


まぁ、巨大芋虫は、どうでもいい。


いま目の前にはいるのは、巨大芋虫ではなく、黒い大蛇だった。


真っ黒な鱗は、生半可な武器じゃ壊れてしまいそうなほどに硬そうだし、大きく開いた口から見える牙は、なぜか赤い。血で染まったのかな。もしくは毒かもしれないが、どうでもいいか。


 なによりも、その巨体だ。優に十メートルはあるだろう。その巨体の下敷きになったら、さすがに死ぬかも。アイテムボックスに入れるのは、適当にばらしてからがいいかな。それとも、ばらさずに入るのかな。やってみればいいか。


「さぁて、シリウス。おまえは見とけよ」


 目の前にいる蛇は、Cランクの魔物であるヴェノムパイソン。猛毒を武器にする魔物だった。


しかし毒がある蛇は美味いという。つまりはこいつも食ったら美味いのかもしれない。


 蛇は鶏肉に似ているという話だ。うろ覚えだけど。


 ただ美味いものほど、手に入れるのは大変なのは、この世界でも地球でも変わらないから、恐らくは美味いはずだ。


「蛇のステーキか」


 興味あるな。っていうか、食いたいな。


 ちょうど手元に塩や香辛料と言った調味料がある。


 鶏肉に似ているのであれば、チキンステーキっぽくなるだろうし、肉がまずくても調味料で味はごまかせるし。


 うん、考えただけでよだれが出るね。個人的には牛肉のステーキの方がいいけれど、もしかしたら、目の前の蛇肉は地球の牛肉以上に美味いかもしれない。


 魔物の肉は、この世界に来た当初は、食べるのに躊躇もしたけれど、いまは気にならなくなっていた。


 というか、魔物の肉って美味しいものが多いんだよね。


 特に好きなのは、ブラックベアーの肉だ。熊肉はジビエ料理だから、一般的には出回らないものだし、地球にいた頃も食べたことはなかった。


 しかしこっちの世界で初めて食べた熊肉は、めちゃくちゃ美味かった。


 特に右手はまろやかな甘みが広がったよ。聞いたら、熊はたいて右手が利き手で、その利き手でハチの巣を壊すから、右手ははちみつがしみ込んでいるからこそ、美味いらしい。


 あれ以来俺は魔物の肉の虜になってしまった。だからこそ、目の前にいるヴェノムパイソンの肉が、どんな味なのかが知りたくてたまらない。


 地球同様に鶏肉に似ているのであれば、淡泊かつヘルシーなのだろう。


 個人的には、ヘルシーなものよりも、がっつりと食べたいので、肉のうま味が口の中でじゅわぁって広がるのであれば、どんな調理法でも構わない。


 だが本当に美味い肉であれば、塩焼きだけでも十分に美味い。


 その肉が本当に美味いかどうかを確かめるには、塩焼きをするのが一番だ。


 塩は肉本来のうま味を引きだしてくれる。へたにソースやタレをつけてしまうと、それらの味で肉本来の味がわからなくなってしまう。


 上質なソースやタレは、肉本来のうま味を引き立たせるものではあるのだけど、この場にはそんな上質なソースやらタレなんてものは存在しない。


 となれば、塩焼きしかないだろう。もともと塩焼きにするつもりだったけれど、塩とソースの違いについて考えていたら、余計に食べたくなってきた。


「食べるとしたら、尻尾かなぁ。尻尾の先端を落として、鱗を剥がせば終わりだし」


 下手な部位を落とすと、素材の価値がなくなってしまうかもしれない。だけど、蛇の尻尾であれば、とくに問題はないだろう。


 というか、蛇の尻尾って素材として、どう活用しろっていうんだろうな。


 どう考えても食材くらいにしかならない気がする。マグロの尾のあたりも、引き締まって美味しいって話だし、蛇の尻尾も似たようなものかもしれない。


「よぉし、尻尾のステーキ決定!」


 拳を鳴らして、ヴェノムパイソンを見やると、なぜかヴェノムパイソンの顏がひきつったように見える。それどころか、信じられないものを見ているような目を向けてきている気がするね。


 うん、でもこれは決定事項だから、もう覆せないのだよ。


「というわけで、尻尾肉よこせぇぇぇ!」


 叫びながら、ヴェノムパイソンに向かって突撃した。


 ヴェノムパイソンが明らかに怯えた顔をしている。でも無視だ。恨むのであれば、美味そうな蛇として産まれてきてしまった自分自身を恨んでほしいね。


 颯爽とヴェノムパイソンの元まで駆け寄り、魔鋼のナイフに天属性を付与させて、ヴェノムパイソンの首を切り落とすべく跳躍した。


 ヴェノムパイソンは、表情を恐怖に染めていた。


 無理もない。Cランクの魔物として進化して、強者になったというのに、いまや俺のお昼ごはんとしてロックオンされてしまったんだ。怖がってしまうのも無理はない。


 それもすべてはこいつが美味しそうだから悪いんだよね。


 いざ食べて、本当に美味しかったら、尻尾肉だけ我慢できるわけがない。


 どうせなら全身の素材をいただくべきだ。


 特に鱗や皮や牙はいい素材になりそうだ。肉はまずければ、全部卸すけれど、美味かったら、半分くらいは残しておきたい。アルトリアに食べさせてあげたいからね。


 あ、でも、毒蛇ってあまりよろしくないかもしれない。滋養強壮にいいらしいから、変な意味で撮られかねない。下手をしたら、血をギリギリまで吸われてしまうかもしれない。


 うん、やっぱりやめよう。毒蛇の肉って言わずに食べさせてあげよう。じゃないと俺の身がもたない可能性が高いもの。


 まぁ、それもすべてはこの毒蛇くんが美味いかどうかが問題ではあるのけど。すぐ目の前にまで毒蛇の顏が近づいて来ていた。毒蛇は体を硬直させて動かない。


 下手に抵抗されるよりかは面倒がなくていい。そのまま切り落としてあげよう。お肉を美味しく食べるのと同じように、痛みを感じよりも早く、一瞬でその命を終わらしてあげる。それが俺なりの慈悲だった。


 すれ違いざまに、毒蛇の首を落とした。ヴェノムパイソンは、武器である猛毒を振るう間もなく、絶命した。同時に、俺は大量のお昼ごはんを手にいれることができた。


「美味しくいただくよ」


 手と手を合わせて、死体となったヴェノムパイソンに向けてお辞儀をする。


 この世界は弱肉強食だ。弱い奴が悪いという世界だけど、弱くても生きていたことには変わりない。


 その命を奪ったのだから、有効活用することが、せめてもの供養だろう。


「さぁて、レッツクッキング」


 とりあえずは、まず食べよう。すべてはそれからだった。鼻歌混じりに、ヴェノムパイソンの尻尾に向かって歩いて行った。

続きは二十時になります。

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