rev3-33 ある獣の話 その2
だいぶエグめ←
P.s.修整しました。
四の姉上→五の姉上
順番間違えていた←汗
それは気が遠くなるほどに昔のこと。
あくまでも、君たちにしてみればの話だけど。
ボクにとっては、ついこの間のようなものだ。
そう、ボクにとっては、君たちから見て遠い昔なんて、本当についこの間のようなものだ。
少し長めに昼寝しただけで、一年経っていた~なんてざらだもの。ボクたちのような存在にとっては、君たちと同じ時間を過ごすというのはなかなかに難しいことなんだよね。って、おっと、少し話が逸れてしまったね。
とにかく、ボクにとってはそれほど昔ってことじゃないってことだけは憶えていてほしい。
さて、ボクにとってはついこの間、君たちにとっては十数世代くらい前のことだけど、その頃のボクのそばにはふたりの女がいたのさ。
女たちは、それぞれレリアーナとレイアーナと言う名前だった。
名前からわかるとおり、彼女たちは姉妹だったよ。双子の姉妹だった。
ただ、双子ではあったけれど、それぞれで美醜の差があったね。
ん? 双子なのにって思ったね?
そうさ、ふたりは双子であるのに美醜の差があったのさ。
とは言っても、別に見た目が似ていなかったわけじゃない。
姉であるレリアーナの顔の半分ほどに大きな火傷があったってだけさ。
見た目はそっくりだったのに、妹のレイアーナと同じでとてもきれいな顔立ちをしていたのだけど、その火傷のせいでレリアーナは醜かったのさ。
それはレリアーナ自身も認めていたことだった。
なんでもないことのように、「私は醜いですからねぇ」とあっさりと言っていたからねぇ。普通、女であれば自分の顔を醜いなんてそうそう言えるものじゃないのだけど、その点彼女はあっさりと自分を醜いと認めていたよ。いま思うと本当におかしな女だったよ。
ただ、彼女はなんというか、空気を読めないというか、天然なところがあってね。その火傷のせいで醜いと言うのをレイアーナの前でも言ってしまったんだよね。そのせいでレイアーナはよく泣いていたよ。
ん? なんで泣くんだって?
それは簡単なことさ。
レリアーナの火傷は、レイアーナのせいだからさ。
あぁ、でも、勘違いしないでおくれよ?
別にレイアーナがレリアーナを憎んでいたからというわけじゃないさ。
ふたりはとても仲のいい姉妹だったからね。
だから嫌っていたわけではないし、憎しみ合っていたわけでもない。
ただ運命の悪戯というところなのかな?
子供の頃、誕生日にレイアーナはレリアーナに料理を振る舞おうとしたらしい。そのときに謝って小火を起こしてしまい、その小火からレリアーナはレイアーナを庇い、その結果がその火傷だったそうだよ。
その火傷は不思議なものでね。治療魔法を掛けても治らないものだったらしい。まぁ、ボクの手に掛かればどうにかなるものではあったのだけど、当時の彼女たちとボクは知り合っていなかったのが痛手だったね。
火傷してすぐであれば、いくらでもやりようはあったのだけど、さすがに十何年も経っていたら、ボクでもどうしようもなかった。
もちろん、やろうと思えば治せたよ。ただ、費用対効果が釣り合っていなかったからね。
そこまでしてやる必要が見受けられなかったんだよ。戯れで治すにはあまりにも傷が深かった。それが彼女たちの不運だった。
まぁ、そんなわけで彼女たちは顔立ちはまるで同じであるっていうのに、美醜の差ができてしまったのさ。
美しい妹と醜い姉。
たったひとつの違いで、火傷があるからどうかなんてちっぽけな違いだけで、彼女たちは正反対の評価になっていたんだ。
だというのに、レリアーナはそんな評価をまるで気にしていなかった。
心の中を覗いても、彼女の中はとてもきれいなものだった。
同じ顔立ちなのに。双子の姉妹なのに。どうして自分だけがなんてことはひとつも考えていなかった。
ただただ、妹のレイアーナの幸せだけを願っていた。
普通はできないよね。
どれだけ大切だったとしても、自分をどん底に突き落とした相手の幸せを心の底から願うなんてことはさ。
ボクにも姉上たちや兄上がいるけれど、仮にボクがレリアーナと同じ目に遭ったら、とてもではないけれど、同じ想いを抱くことはできないよ。
確実に恨んでいたと思う。憎んで憎んで、殺してやりたいくらいに憎んでいたと思う。
だというのに彼女は、レリアーナは憎悪を向けても仕方がない相手を、レイアーナを誰よりも大切に想っていた。
そしてそれはレイアーナも同じだった。
レイアーナは自分のせいで、姉をどん底に突き落としてしまったことをいつまでも悔いていた。
心の中を覗いても、その失意は凄まじかったよ。
周囲に美しいと言われても、その言葉を掛けられるたびに彼女の心は悲壮に満ちていた。そしてレリアーナが醜いと言われるたびに、彼女の心の中には憎悪が宿っていった。
対照的って言葉があるけれど、その言葉があれほどまでに似合う子たちがいるとは思ってもいなかった。
そんな彼女たちを当時のボクはそばに控えさせていた。
どちらもボクにとっては好みの体をしていたっていうのもあるけれど、あまりにも対照的な双子の姉妹をボクが気に入ったんだよ。
夜になれば、毎晩どちらかをかわいがったし、って、なんで顔を赤くしているんだい?
あぁ、君、生娘なのか、ってちょっと、顔怖いから!
顔を真っ赤にして睨んでくるなよ!
恥ずかしがるか、怒るかどちらかにしろって!
そんなの自分から生娘ですって言っているようなものだろうが!
ってこら! あまり無理するなって!
君みたいな非戦闘員が枷から無理矢理抜けだそうとすると怪我するぞ!?
わかった、わかったから! 謝るよ! だから、落ち着け!
……あー、もう本当に面倒だなぁ。
ん? 私はセクハラされたんですけどって?
は、そんなものボクが聞くと思ったかい?
このボクを訴えられる奴なんていないんだよ。
って、あー、また話が逸れたな。今回は君のせいだからね。まったく、もう。さっさとあいつに抱かれりゃいいだけだろうに。
……あ、ごめんなさい。なんでもないです。
だから、そんな怖い顔をするな!
せっかくきれいな顔立ちしているのに、もったいないっていうか、台無しになっているぞ!
余計なお世話?
あ、はい、そうですか。あー、まぁ、ごめんなさい。謝るので、そんな顔しないで本当に怖いから! 五の姉上みたいになっているから! あの人おしとやかぶっているけれど、中身とんでも鬼畜なんだから! あの人みたいな顔をするんじゃないよ! ボクの軽いトラウマなんだぞ、あの人は!
……あ-、ごほん。
えーっと。あぁ、そうだった。
彼女たちをボクは毎晩だいたい日替わりで抱いていたよ。
体つきはとてもボク好みだったからね。
特にレリアーナはボクと相性がよくて、ついつい無理をさせてしまうことが多かったね。
レイアーナとはそこまでではなかったけれど、まぁ、他の女を抱くよりかは楽しかったかな。
ある意味では爛れた関係と言えなくもなかったのかなぁ。
そんな関係を何年か過ごしていた頃だったよ。
正式に彼女たちのどちらかと婚姻を結ぶことになったのさ。
当然、ボクはレリアーナを選んだよ。
そう、選んだはずだった。
だけど、ボクの元に来たのはレイアーナだった。
レリアーナは、レイアーナの手で国外に追放されたのさ。
なんで?
理由は知らない。
まぁ、なんとなく予想はつくよ。
ボクらと婚姻の儀を結ぶということは、ボクらの巫女になるということ。そして巫女は永遠の命と老いることのない体を手に入れるということになる。
レイアーナはそれが欲しかったんだろうね。
だから婚姻の儀でボクの前に現れたのさ。
同じ顔立ちであれば、より美しい方がいいだろうと思ったのかもしれないね。
たしかに、顔に火傷があるレリアーナより、顔に火傷のないレイアーナの方が美しかった。それは事実だ。
でも、ボクが欲しかったのはレリアーナだった。
見分けが付かないほどに似ている姉妹だったけれど、ボクが欲しかったのは妹の方じゃない。姉のレリアーナだった。
ふたりを見分けられるのは火傷の有無。それくらいにふたりは似ていた。
もしレリアーナに火傷がなかったら、見分けを付けるのはできなかった。
なにせ、あのふたりと来たら、魔力の質も波長も完全に同じなんだ。見分けることができるのは唯一顔にある火傷だけ。その見分けはボクだけじゃなく、彼女たちの両親も同じだった。
そうでもしないと彼女たちを見分けることはできなかったよ。
強いて言えば、それぞれが得意とする魔法が違うってことくらいかな?
レリアーナは防御系の魔法が得意で、レイアーナは治療系の魔法が得意だったってことくらいだけど、ふたりともそれぞれの得意とする魔法群は使えたから、差があると言っても本当にわずかなもので、それくらいでは見分けがつかなかったよ。
だから、婚姻の儀に現れた女の顔には火傷がなかったのを見て、はっきりとレリアーナじゃないとわかったよ。
最初は嘘だと思っていたよ。
だって、ボクがレリアーナを選んだとき、レイアーナは祝福してくれた。
おめでとう、って泣きながら言ってくれたんだ。
なのに蓋を開ければ、現れたのは顔に火傷のないレイアーナだった。レリアーナじゃなかった。
すぐに裏切られたんだって思った。
ボクがどれほどレリアーナを気に入っていたのかを、レイアーナも知っていたはずだったのに。
なのに、あのクソ女はボクからレリアーナを遠ざけ、レリアーナが座るはずだった場所に自分が座りやがったのさ。
これほどひどい裏切りはないだろう?
さっきも言ったけれど、ボクらの巫女となるということは、永遠の命と永遠の若さを手に入れるってことだ。
つまり、レイアーナは永遠の命と老いることのない体を欲して、姉を蹴落としたのさ。
あれほど自己嫌悪していたっていうのに、永遠の命と永遠の美貌のためだけに、あの女は大好きだったはずの姉をこの国から追い出したのさ。
なら、ボクがすることはひとつだけだったよ。
そんなに永遠の命と老いることのない体が欲しいのであれば、望む通りにしてやろうって、永遠に海の上を漂い続ける存在にしてやったのさ。
君は知っているかな? ホエールって魔物なんだけど、あれはレイアーナの変わり果てた姿なんだよ。
海洋を行く船の後を追いかけながら、その船を守る魔物。ホエールは何頭もいると思われているけれど、実際はレイアーナひとりだけだ。必要に応じて分体をみずから作り出して、船の守護に当たらせているのさ。
傑作だろう?
永遠の命と老いることのない体を手に入れられはしたけれど、そこに美貌はない。当たり前だよね。あの女は自分のせいで姉を貶めたっていうのに、それだけでは飽き足らずボクからレリアーナを奪い取ったんだ。
相応の償いだよ。あの女には相応しい顛末さ。似合いの末路ってね。
ちなみにだけど、この体はレリアーナの子孫の体さ。そしてどこで作ったかは知らないが、レイアーナが産んだ子の末裔がルクレティアだよ。
レイアーナの末裔はこの国の始祖となり、国を追い出されたレリアーナの子孫は遠く「魔大陸」のひとつの都市でひっそりと暮らしていた。本来ならレリアーナの子孫こそがこの国の始祖になるべきだったというのにね。
いわば、この国の王族はボクにとっては忌々しい女の末裔なんだ。だけど、あれはレリアーナの妹だからね。レリアーナと同じ血が流れている。つまりはこの国の王族はレリアーナの血族でもあるということだ。
レリアーナの血族だと思えば、不思議と愛らしくはあった。だけど、大元があのレイアーナだと思うと憎たらしかった。
愛憎と言えばいいのかな。ボクはこの国の王族を愛しつつも、憎んでいる。だから加護を与えはするけれど、その加護は取るに足らないものだけだった。
でも、その時々で加護の力を強くしてやることはしたよ?
代償を払って貰ってね。
たとえば、王位に就くのが女児であれば臣下の前で犯して、その分だけ、加護の力を強めてやった。
王位に就くのが男児であれば、産まれた娘を犯した。やはり、その分だけ加護の力を強めてやった。
ルクレティアを犯したのもその一環さ。あとは趣旨返しとでも言えばいいかな?
自分と同じ顔立ちの女に犯されるなんて、早々体験できないからね。
いったいどんな気持ちだったのかな?
今度あれの旦那と娘の前で犯すときにでも聞いてみるとしようかな。
さぞ愉快だろうね。
あぁ、楽しみ。楽しみだなぁ。
あっはっはっはっは!




