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rev3-15 大胆な女王陛下

今回は、いや、今回もイチャコラです←

 馬車がゆっくりと駆けていく。


 わずかに揺れ動く車体に身を任せながら、ゆっくりと通り過ぎていく景色を車窓から眺めていた。


 車窓から見える景色は、これと言って代わり映えのないもの。この国に来てからまだ数日ではあるけれど、街並み自体はそこまで凝ったものではなかった。


 中世ヨーロッパと聞いて、なんとなく思い浮かぶような街並み。いわゆるヴィクトリアン様式と呼ばれるものに近い。


「魔大陸」の国々もヴィクトリアン様式の街並みに似てはいた。でも、それぞれの国の特色はあった。


 たとえば、「蛇の王国」の首都であるエンヴィーは港町であることを活かして、水路と陸路をうまい具合に融合させて、風光明媚な街を作り上げていた。


「獅子の王国」の首都プライドは、国全体にマグマの川が流れていることからか、ひとつひとつの家々は耐火製のレンガで作られ、これぞ城郭という出で立ちの街並みだった。


「鬼の王国」は遊牧民の国であるから、厳冬への対処のために決まった範囲で移動していた。それは首都であるグリードも同じで、移動を前提としたアジュールというテントに似たもので一軒の家を形成していた。


 その他の三国もそれぞれの特色を活かした街並みをしていて、このリヴァイアスとは違っている。


 ただ、「竜の王国」の首都ラースはこれといった特色はない。


 ラースが「魔大陸」の中央にある街だからか、それぞれの国の特産品は集まっていたけど、街並みにはこれといった特色はなかった。


 その街並みにリヴァイアスの街並みは似ている。もっともそれは先日までいた「アヴァンシア」の首都であるアルトリウスも同じなわけだけど。


 あえて違いを挙げるとすれば、アルトリウスの場合は厳冬に耐えるためか、動物や魔物の鞣し皮が軒先にぶら下がっていることが、リヴァイアスとの違いだろうか。


 そんなアルトリウスとは違い、リヴァイアスはラースの街並みによく似ている。エンヴィーと同じ港町だけど、水路ではなく荷物は基本的に陸路、馬車で運ばれていて、街の至るところには馬車専用の道路ができている。


 ただ、その道路だけど、リヴァイアスのそれはいままで見た街とはまるで違っていた。というか、ありえないものだった。


 リヴァイアスにはそこらかしこに細長い棒のようなものが置かれていた。その棒には3つの画面があり、それぞれ青、黄色、赤の三色のでそれぞれの色が一定の時間毎に点灯するという仕組みだった。


 言うまでもないだろうけど、青が発進、黄色が注意喚起、赤が停止という役割になっていて、それぞれの色に則って、馬車や通行人は行き来している。


 現にいまもお子さん連れのお母さんが、お子さんと手を繋ぎながら道路を横断している。非常に見覚えのある光景が目の前で行われている。


 まぁ、つまるところ、その棒は信号機だった。ただ地球の信号機とは違い、動力は魔力だけど、見た目は完全に信号機た。


 ルクレ曰く地脈に流れる魔力を利用して点灯しているらしい。らしいというのは、ルクレ自身も詳しいことは知らないそうだ。


 なんでも、リヴァイアス出身の偉い学者さんとの協力で造り出したものらしいが、その詳しく仕組みは説明されたものの、ほとんど理解できなかったそうだ。専門用語ばかりで理解しきれなかったとのこと。


 それでも、一定時間毎に点灯する色が変わり、動力源が地脈から吸い出した魔力なので、コストはそこまで掛からないということだけはわかっているそうだ。


 そんな信号機はルクレが王位に就いてからのものらしく、まだリヴァイアスとその周辺都市でしか使われていない。ただ、最終的には国中に広めていきたいとルクレは語ってくれた。


「このシグナルに合わせて、ライセンスという馬車の御者専用の制度も施行しているんですが、やはりこれもまだリヴァイアスと周辺の都市までですね。でも、このライセンスは今後身分証明書代わりになる予定ですので、いずれは御者でなくてもライセンスを取得する方が増えていくと思います」


 ルクレは俺の隣に腰掛けて、今後の政策を力説している。ちなみにシグナルというのが信号機の名前らしい。ライセンスはそのまま運転免許証だ。そのライセンスが身分証明書代わりになるというところとか、まさに免許証だし。


「とはいえ、ライセンスは冒険者ギルドに所属しているのでれば、必要ないものです。あくまでも冒険者ではない一般人向けのものですね。引退された元冒険者の方向けのライセンスも将来的には発行しようとは思っていますが」


「いいと思うよ。生涯現役を貫ける冒険者なんていないし。その制度自体は悪いものじゃないと思う」


「旦那様にそう言っていただけると自信がつきますね」


「ただ、どうせなら冒険者向けの講習みたいなものもした方がいいかもしれないね」


「と言いますと?」


「ライセンスを取得するには、講習が必要なんだろう? でも、その講習を受けるのは冒険者じゃない一般人だけ。冒険者は癖というか、それぞれのやり方で馬車を動かすわけだし、講習を受けている一般人とはやり方がまるで違う可能性があるよね。だから、基本的な馬車の動かし方や守るべきルールを教える講習を冒険者向けに行うべきだと思うよ」


「たしかにそうですね。馬車での移動は冒険者にとって当たり前のものですが、馬車自体を所有するクランもいらっしゃるわけですし、その方々向けの講習は行うべきですね。なるほど、言われるまで気付かなかったです」


「ルクレならすぐに気付いたと思うよ」


「そんなことありません。旦那様がおられたからです。ありがとうございます」


 ルクレは俺の肩に頭を乗せると、そっと右腕を抱きしめてきた。ルクレのぬくもりと柔らかな体の感触が右腕越しに伝わってくる。


「えっと、あの、ルクレさん? 当たっていると言いますか。人目がですね」


「……人目はありません。唯一の人目はほら、この通り」


 くすくすと笑いながら、ルクレは自身の膝を見やる。ルクレの膝の上では、ベティがすやすやと眠っている。二人の隣にはメイドさん方が用意してくれたお弁当の入ったバスケットが置かれていた。


 少し前まではルクレの膝の上にあったのはバスケットだったのだけど、ベティがバスケットをじっと見つめていたのを見たルクレが、バスケットを隣に置いたことでベティは一目散にルクレの膝の上に腰掛けたんだ。


 ルクレの膝の上に腰掛けて、ベティはとても満足していたのだけど、ルクレが政策について語っているうちにおねむになってしまった。


 ベティにしてみれば、小難しい話だったから無理もない。だけど、まだ出会って数日だというのにルクレの膝の上でお昼寝する辺り、ベティがルクレに全幅の信頼を置いているのがわかる。どこぞのロリコン女とは大違いだ。


 ちなみにいま馬車に乗っているのは俺とルクレ、そしてルクレの膝の上でお昼寝しているベティだけだ。


 なんだかんだあって、部屋から出たのが昼過ぎだったこともあり、今日の仕事はお休みになってしまった。というか、大臣であるアレクセイ卿が「本日はお休みになられてください」と進言されたんだ。


 最初は出遅れを取り返そうとルクレは意気揚々と執務室に赴いたのだけど、アレクセイ卿が仕事を始めようとしたルクレの手から書類を取り上げて言ったのが今日は休めの一言。


 曰く、この時間から始めて仕事が終わるわけがないでしょうと。


 とはいえ、昼までの仕事はアレクセイ卿やその配下の方々で済ませてあり、それからやっても終わると言えば終わるのだけど、昼以降の仕事も同じように済ませるから、今日は休めと言われていた。


 ルクレは最初渋っていたけれど、アレクセイ卿に「王配となる方を得られたのですから、今日はゆるりと仲を深められればよろしい」と物理的にも背を押されて執務室を追い出されたため、急遽休日になったんだ。


 最初は部屋でルクレと過ごそうと思っていたのだけど、ちょうどルリの部屋から戻ってきたベティが「おでかけしたい!」と言い出したことで、三人でのピクニックを決行することになり、現在に至るわけだ。


 ルクレ曰く、お弁当は自分で用意したかったけれど、と残念がっていたが、急遽すぎたのだから無理もないことだと言っておいた。その原因を作った俺が言うのもなんだとは思ったけれど、どうにかルクレは納得してくれた。


 でも、今度は自分が作るからとはりきっていたので、楽しみにしていると答えておいた。


 ちなみにだけど、アンジュたちがいないのは、ルリが「水入らずにしてやれ」と言ってくれたからだった。


 ルリらしい気遣いだとは思う一方で、申し訳なさはあったのだけど、三人には気にしなくていいと言われた。その言葉に今回は甘えて俺たち三人だけのピクニックと相成ったわけなのだけど、ベティがお昼寝したことで、和気藹々としていた空気が少し変わってしまった。


 馬車はシグナルの色に合わせていまはゆっくりと駆けている。車窓からの景色もゆっくりと流れてはいるものの、止まっているわけではないから、馬車の中を覗き見られることはない。そもそも馬車には車高があるから、そもそもの話中を覗き見られることない。


 まぁ、二階からであれば、角度的には見られかねないが、基本的に覗き見られることはない。だからこそ、ルクレは部屋の中でないというのにも関わらず、甘えるような仕草をしていた。


 いまのルクレは普段の軍服に似た一張羅ではなく、白いレディースハットで顔を隠し、服は白いワンピースと水色のショールケープという出で立ちで、女王陛下というよりかはいいところのお嬢様という風に見える。


 もっとも車内だからレディースハットは反対側の席にひっそりと置かれているだけだが、顔を隠してなくてもいまのルクレを見て、ルクレティア陛下とわかる人はいないと思う。


 だからなのか、ルクレはとても大胆だった。俺の肩に頭を乗せて、じっと俺を見つめていた。甘い、甘い花の香りが鼻孔をくすぐっていく。その香りに導かれるように、俺はルクレに顔を近づけたが、「ばぅ?」とベティが身動ぎをしたことですかさず離れた。ルクレは少し残念そうにしていたが、「起きましたか?」と穏やかな声でベティに声を掛けていた。


「ばぅ。ついたの?」


「いいえ、まだですよ。もう少しですね」


「ばぅ、わかったの」


 ふわぁとあくびを搔きながら、ベティは目元を擦っていた。これからもう一眠りという風には見えないので、機会を逸してしまったようだ。ちょっと残念と思っていると、不意にルクレがベティを抱きかかえた。


 ベティが「おかーさん?」と不思議そうにするも、ルクレは笑いながら、反対側の座席に置いていたレディースハットを取ると、そっとベティにかぶせた。ベティが「わぅ?」と困惑したように鳴いていた。


 いきなりどうしたんだろうと思っていた、そのとき。ルクレが顔を近づけてきた。軽やかな音を立てて、距離がゼロになった。


 でも、すぐに距離は開いた。ルクレの頬はほんのりと紅く染まっていた。


「おかーさん、急になんなの?」


 ベティは急にかぶせられたレディースハットから顔を覗かせて、不満げに頬を膨らましていた。そんなベティにルクレは「ごめんなさい」と笑いながら謝っていた。


 ベティは最初ぷくっと頬を膨らましていたが、頭を撫でてくれたら許してあげると言った。その言葉に従ってルクレがベティの頭を撫でると、ベティは嬉しそうに尻尾を振っていた。


 そんなふたりのやり取りを眺めながら、俺は自分の口元を押さえつつ、自然とルクレの唇に視線を向けていた。


(女王陛下というのは、みんな大胆すぎないか)


 いままで出会った女王はだいたい大胆だったが、その例にルクレは漏れていないようだった。


 大胆すぎる新しい嫁の姿に、俺はなにも言えないまま、ただ胸の高鳴りを抑えることに苦慮していった。

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