Act0-16 光明
「クランっていうほどだから、複数の人間がいる。仮に百組のクランがいたとして、それぞれに金貨一枚分の市仕事を割り振って稼いでもらって、そのうちの三割を仲介料でもらえれば、一日で金貨三十枚くらいか? それを一年やるとすれば、星金貨一枚分くらいか。人数が増えれば増えるほど、その分利は増えるから、そのうえ俺も働けば、一層儲けは増えるわけで、うん、ひとりよりかは、可能性があるのかな?」
「え?」
「いや、もし、もしもですよ? 俺が冒険者ギルドみたいなものを設立して、そのギルドに数えきれないくらいの社員、いや冒険者に所属してもらって、冒険者ギルドに近い仕事をしてもらい、その仕事の仲介料をもらったら、自分で稼ぐよりもはるかに稼げるんじゃないかな、って思うんです」
そう、ひとりで稼ぐよりも、複数で稼ぐほうが効率はいい。そして最も効率がいいのは、複数の人間を使う立場になること。当然人件費はかかるが、自分が仕事をしている間も、別の誰かが仕事をしてくれるのだから、同時進行で、複数の案件が動くことになる。一日で金貨三十枚っていうのは、さすがに子供の絵空事に近いことではあるけれど、少なくともひとりで一日汗水たらして働くよりかは、可能性があると思う。
「それは、そうかもしれませんが、誰も考えたことないというか、冒険者ギルドに真っ向からケンカを売っていますよ?」
「それはわかっています。でもエンヴィーさん。「魔大陸」には冒険者ギルドは出張所しかないんですよね? そして基本的にそこでしか買い取りはしていない、ってところですか?」
「ええ、うちの国の首都にあるだけです。素材の買い取りも基本はギルドだけですね。個人で買い取る商人もいるでしょうが、買い叩かれることが多いみたいですし」
「なら一層ギルドはあったほうがいい。なのに、「魔大陸」には「蛇の王国」にしかギルドはない。それってかなり不便だと思うんですよ。魔物の素材を売りたいのに、「蛇の王国」まで行かなきゃ買い取ってもらえないなんて、かなり不便でしょう? それに魔物の素材も生ものですから、傷んだり、腐ったりもしますよね? 「蛇の王国」まで行く間に素材がダメになってしまうって人もいると思うんです」
「それを防ぐための転移陣もありますので。それを利用する方も」
「でも、その転移陣は無料じゃないでしょう?」
「銀貨数枚ですね。距離によって値段は上がりますが、基本は銀貨数枚程度で済むはずです」
「素材を売りに行くたびに、銀貨数枚の消費は大きいと思う。それも距離によっては、だいぶ金額が変わるし、素材によっては、使用料にも足りない金額にもなりかねない。そうなると冒険者は使いづらいんじゃないでしょうか? 急いでいるというときであればともかく、そうでないのであれば、普通の冒険者は徒歩で移動が多いんじゃないですか?」
「それは」
「カレンちゃんの言う通りだよ。冒険者はたいてい自分の足で移動している。なかには馬車を使うときもあるけれど、馬車って意外と割高でね。距離と荷物で値段が上がるっていうのに、盗賊や魔物が出てきたら、自分たちが戦わなければならないのは当然としても、ほかの客や荷物も一緒に守らなければならないんだ。移動距離は稼げても、効果と費用が釣り合っているかと言われたら、首をかしげざるを得ないっていうのが実情かな」
矢継ぎ早にエンヴィーさんに問いかけていると、勇ちゃんさんが助け舟を出した。たしかに王様であるエンヴィーさんより、勇者である勇ちゃんさんに尋ねたほうが、より実情を知れる。そんな簡単なことに気づけかなったなんて、どうにも俺は焦りすぎて、周りが見えていなかったみたいだった。
「となると、たとえば、国の首都、ないしは大きな街にギルドの施設があれば、冒険者としては使いやすい。しかも素材を売るだけじゃなく、その国ごとの依頼を受けられるとすれば、一層利用者は増える」
「あくまでも机上の空論でしかないとは思うけど、おおむね間違ってはいないね。ただそうするにしても、どのみち金はいるよ? 素材を買い取る金や施設を建てるための金。そもそもその施設の管理運用する人材の雇用費。星金貨一千枚とまではいわないけれど、やはり金貨で数百枚か一千枚はないと厳しいと思う。加えて、買い取った素材を卸すルートも見つけないと。それもやっぱりいくらかの金は必要だし」
「ですよね。いいアイディアだと思うけど」
そう、机上であれば、特に問題はない。だが、実現するとなれば、やはり元手が必要だった。いまのところ、俺に元手は存在しない。画期的とまではいかないかもしれないけど、可能性としてはこれ以上のものはない、と思える。けれどそれを実現する金が俺にはなかった。となれば、このアイディアもしょせん机上の空論ということになってしまう。
「まずは金を集めないとか」
「その程度のことであれば、我が出そう」
解決とまではいわないけれど、一歩前進はできた。そう思っていると、ラースさんがとんでもないことを言い出した。いや渡りに船ではあるけれど、まさかの一言に俺だけではなく、その場にいる全員がラースさんをみやっていた。
「なにを驚く? そのやり方であれば、ほぼ間違いなく儲けがでるのであろう? そのために金が必要であれば、我が出資者になってやろう。すぐに返せとは言わんし、倍にしろとも言わぬ。機を見て返してくれれば、それでよい」
「願ってもないことですけど、いいんですか?」
「ああ、構わぬよ。星金貨一千枚を稼ぐには、いままでになく現実的なことといってもいい。まぁ、実際にそこまでするには、かなりの労力と時間が必要であろうが、闇雲に無茶をするよりかは、はるかに可能性がある。ただ、勇ちゃんの言う通り、いまはまだ机上の空論にしか思えぬ。それでもそなたの発想は面白いと思う。必要な金額を出してもいいと思う程度にはな」
「なら」
「だが、それだけではダメだ。価値を示してもらわんとな」
「価値、ですか?」
「ああ、我がそれだけの金を出資する価値が、そなたにはあるのか。ただ無駄に金を浪費するだけでは、金貨一千枚は高い買い物だ。一時、感情を満たせる程度の嗜好品か、それとも今後も継続的に出資してもいいと思わせるほどの取引相手になるのか。それを見極めさせてほしい」




