Act1-66 霊草エリキサ その二
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初日の一話目です。
「お久しぶりですね、カレン殿。今日もお麗しいようで、なによりですよ」
ニコニコと笑うドルーサ商会の流通担当者こと会長の次男さん。たしか名前は──。
「ごきげんよう、イロコィ殿。今日は当ギルドになんのご用件で?」
そう、イロコィという名前だった。最初聞いたときは発音しづらい名前だなと思った。
だが表面上は、とても穏やかな人物だった。だが、目が蛇のように、こちらの弱みを握ろうという考えが透けて見えるという、わかりやすいんだか、わかりづらいんだか、よくわからない人だった。
どちらにせよ、俺にとっての印象はあまりよろしくない人であることには変わりない。
「ふふふ、そう邪険にしないでいただきたい。私はただビジネスの話をしに来ただけですよ?」
「ビジネスね。わけのわからん慰謝料と言って、エリキサを要求することが、あなたなりのビジネスということですか」
「あはははは、これは手厳しい。しかし、あなたが私どもに慰謝料を払うのは当然のことですよ?」
「意味がわかりませんね。私はいろいろとありまして、ここ数日ほどは部屋から出られなかったのですが、それでも数日前では、私があなたに慰謝料を支払う理由はなかったと思いますが?」
そう、数日前の段階では、このイロコィという兄さんに、慰謝料を支払う義務など存在しなかった。なのに、なんでいきなり慰謝料を支払えだなんて言い出すのだろうか。今回ばかりは本気でわからん。
「いえいえ、数日前どころか、もう数週間も前の話ですねぇ。私どもは数週間も待ちましたが、一向に謝罪に来られなかったので、こうして慰謝料を請求させてもらいに来たわけですよ」
「だから、意味がわからないと言っているのですよ。私があなたたちに対して、不利益になるようなことはしていないはずですよ? 魔物の素材の流通の件だって、こっちはかなり譲歩して、あなた方の言い分を飲みました。むしろ不利益と言うのであれば、竜王さまに認められた私に、あそこまで譲歩させたあなた方の方が、よっぽど当ギルドの不利益を生じさせているのですが?」
そう、この兄さんのおかげで、うちの利益はかなり削られてしまった。
通常の卸し値よりも、かなり安い値段で卸させられたせいで、赤字の数歩手前にさせられている。
それでも持ち込まれる素材が多いので、完全な赤字にはなっていないのが、救いと言えば救いだろう。
持ち込まれる数が少なければ、破産しかけている可能性は十分にあった。
それもこれもすべては目の前の兄さんが、一切譲歩しなかったからだ。
普通、その国の王に認められている相手を前に、一切の譲歩をしないというのはいかがなものだろうか。
それでも相手が商人であるからこそ、俺は表ざたにはしていない。商人というのは、いかに安く買い、いかに高く売ることを考えている連中だ。
彼らなりの信条もあるだろうけれど、それでも目の前の兄さんのような、悪徳商人すれすれな買い叩きはしないだろう。
というか、そんなことをしていたら、信用を失いそうなものだ。
少なくとも、俺は目の前にいる兄さんに対して、信用なんてものは持ち合わせてはいない。
それは同時に、こんなのを流通担当者として重宝しているドルーサ商会の会長に対しても同じだ。
いくら親子だからと言って、そんな信用をどぶに捨てるような真似をする奴を重宝するなんて、どう考えてもまともな商人とは言えないだろうからね。
しかしクラウディウスさんが言うには、ドルーサ商会の会長はまともな商人という話だった。
それもラースさんが好きそうなタイプとのことだ。俺の主観とクラウディウスさんの主観。どちらが正しいかなんて言い争うつもりはない。
主観なんてものは、基本的にその人の考え次第なんだ。つまりはその人が黒だと思えば黒。白と思えば白だ。現実からどんなに乖離しようとも、その人の主観には関係のないことだった。
その意味であれば、俺はこのイロコィという兄さんを好ましく思えない。
少なくとも、これを野放しにするどころか重宝している時点で、ドルーサ商会の会長も同じ穴の狢だと思っている。
その会長さんはいまこの場にはいないから、この兄さんの親父さんということでしか判断はつかないのだけど。
「認められている、ですか。我が商会からその権利を奪い取った淫売がよく言いますね」
「あ?」
誰が淫売だよ。ふざけんなよ。そもそも誰に対してそんなことをしているって言うんだよ。
ラースさんとはそういうことをするような間柄じゃねえし。
人としては好ましいタイプではあるけれど、あの人とねんごろの関係になろうだなんて考えたこともない。
そもそも趣味じゃない。なのに、淫売とはよく言ってくれるものだよ。首から上を飛ばしてほしいのかな。
「っ、失礼。口が過ぎましたな」
殺気が漏れ出てしまったのか、イロコィ(こんなのは呼捨てでいい)が顔を青くした。
人にケンカを売るわりには、ずいぶんと情けないことだ。
男なら一度言ったのであれば、撤回するんじゃねえよ。あー、やっぱりこの兄さんは苦手だ。嫌いなタイプだ。早々に出て行ってほしいね。
「それで? なんでまたうちがエリキサなんて出さなきゃいけないんです?」
エリキサ。地球であれば、エリクサーと言った方がわかりやすいかもしれない。某国民的RPGの片割れに登場する全回復アイテムが、この世界では、エリキサと言われている。
ゲームであれば、HPやMPを全回復する効果があるけれど、この世界では部位欠損を治すことができる幻の霊草と言われている。
ぶっちゃけ部位欠損を治せる効果なんて、眉唾もいいところだ。そもそもゲームでもそんな話は聞いたこともない。
もっともゲームの場合は、部位欠損なんて状態にはなりえないから、聞かないのも当然っちゃ当然ではあるけれど、それでもエリクサーで部位欠損を治せるなんて話は、正直信じられない。
だって部位欠損だぞ。部位を失っている状態だ。
それを幻の霊草だか、なんだか知らねぇけど、草で作った薬で治せるわけがない。
というか部位欠損ってどう治すんだよ。その薬を飲めば、にょきにょきと生えて来るのだろうか。あんまり見たいとは思えない光景なんですけど。というか普通にグロい。
まぁ、部位を失った人にとって見れば、グロくても、失った手足を元通りにできるのであれば、喜ばしいことだろうな。
「うん?」
失った手足。エリキサ。慰謝料。数週間前。いくつかのキーワードを挙げていく。すべてが繋がるわけではないが、可能性が浮上してきた。
なるほどね。たしかに、そういう意味であれば、うちが慰謝料を払うのもおかしなことではない。もっとも屁理屈ではあるけれどね。
「……ずいぶんとまぁ、屁理屈を言ってきたもんだ」
「屁理屈ですか。まぁ、そういう風に聞こえるのは致し方ありませんね。しかし、あなたの行いのせいで、我が商会の「従業員」は利き腕を失ってしまったのです。当然慰謝料のひとつやふたつは貰わなければなりませんよね」
「「従業員」ねぇ。どうやらそちらの従業員というものは、荒事をやらかす人のことを言うのですね。初めて知りましたよ。そういう「従業員」がいるなんて、私は聞いたこともなかったなぁ」
あからさますぎるこじ付けだった。
あの時点で「あいつ」はどう考えても従業員なんてものではなかった。
ただのチンピラでしかなかったはずだ。それを「従業員」としてしまうとは。その場逃れのいいわけであっても、まだましなことを言えそうだ。
ただこの場合、問題がある。それは俺が実際に「奴」の腕を切り飛ばしてしまっているということだった。
「ええ、一か月ほど前に雇ったばかりなんですよ」
そう言ってイロコィが差し出してきたのは、俺が切り飛ばしたノッポの似顔絵が描かれた一枚の書類だった。
続きは二十時になります。




