rev2-74 我が魔道
「アヴァンシア」の王国祭。
祖国にはなかった「祭り」という文化は、非常に楽しいものだった。
そこら中に美味しそうなものがわんさかあるし、大道芸人が趣向を凝らした様々な芸を披露している。
お祭りを楽しんでいる人たちは、みんなきらきらと目を輝かせていた。
中でも特に目を輝かせて見つめるのは、この国のある意味では名物とも言える雪を使って作った雪像だった。特に歴代の国王たちの雪像を誰もが眩しそうな顔で眺めている。
等身大というにはいささか大きすぎる雪像の数々。
雪像とするにあたって、大きさをいくらかスケールアップしているんだろう。どの雪像もだいたい3メートル近くはあるから、おそらくは実際の2倍近い大きさにして作っているんだと思う。
加えてどの雪像もひとつずつしかない。
歴代の王たちの雪像はひとりにつき、ひとつだけ作られるという決まりでもあるんだろう。
まぁ、歴代の王たちの雪像が乱立するというのも怖いものがあるから無理もないだろう。もしくは王国祭が終われば雪像なんてものは撤去しないといけないからということもあるのかな。竜とかの魔物の雪像であれば、特に躊躇はないだろうけれど、さすがに歴代の王という、この国の歴史を担ってきた人物たちの雪像を何度も壊すというのは精神的に来るものがあるんだろう。人によっては尊敬しているという王もいるはずだろうし。
まぁ、私には大して関係ないんだけど。
(……しっかし、どこを見回しても人人人、人の群れだねぇ。これくらい人がいるんだから、ひとりくらいいただいても構わないと思うんだけどねぇ)
中には美味しそうな子もいる。むろん両方の意味でだけど、舌なめずりしたくなるほどに美味しそうな子はなかなかいない。
いたら即座に暗がりに押し込んで食べてあげるんだけどね。
まぁ、正確にはひとりいるんだけど、さすがにあの子に手を出すのは少々怖い。というか、危険だった。
(姉さんもそばにいるし、なによりもカレンちゃんが守っているもんなぁ。あと神獣様もなぜかそばにいるもんなぁ)
そう、舌なめずりしたくなるほどに美味しそうな子はいた。いたのだけど、その子のそばには姉さんと神獣様、そしてカレンちゃんがいた。カレンちゃんも私の好みではあるんだけど、彼女はとっくに私よりも強くなってしまっている。さすがに私よりも強い相手を食べることはできないし、それにカレンちゃんはアルトリア姉さんの獲物だから、下手に手を出すとなにをされるかわかったものじゃない。
それは私だけじゃなく、姉さんも、アイリス姉さんもわかっているはずなのだけど、どうしてか姉さんはカレンちゃんに手を出して、あ、いや、違うか。手を出させているのか、うん。
まぁ、どっちにせよ、アイリス姉さんはアルトリア姉さんに真っ向から喧嘩を売っている。
アルトリア姉さんはカレンちゃんに抱かれたがっているというのに、アルトリア姉さんがしてもらえないことをアイリス姉さんは存分にして貰っているみたい。さっき近くを慎重に通り過ぎたときにアイリス姉さんの体からはこれでもかとカレンちゃんの匂いがしたし、それはカレンちゃんも同じ。
あの匂いからして、どうやら昨日はふたりでオタノシミだったみたい。アルトリア姉さんが知ったらどうなることやら。
(……前々から思っていたけれど、アイリス姉さんって度胸ありすぎじゃない?)
あのおっかないアルトリア姉さんに平然とたてつくうえに、今回は真っ向から喧嘩を売っているんだ。殺されても文句は言えない。少なくとも私であれば。
(……しっかし、どうしてアイリス姉さんってば、変なお面なんてつけているんだろう? それとどうしてカレンちゃんと一緒に行動しているんだろう?)
最近どうにも記憶があやふやだった。
私としてはついこの間のことだと思っていた「蠅の王国」のあれやこれは、すでに半年以上も前のことになっていた。その間のできごともやけに不鮮明だった。記憶はあるのだけど、どういうわけかやけにぼんやりとしている。それはアルトリア姉さんも同じようで、アイリス姉さんがなんでカレンちゃんのそばにいるのかを理解できていないみたいだ。
(お父様が言うには、「そういう風に指示を出した」ということだったから、アルトリア姉さんも抑えているけれど)
そう、アルトリア姉さんが殺意を抑えているのは、アイリス姉さんの言動のすべてが「お父様からの指示」だからということ。その一点があるからこそ、アルトリア姉さんは自分を押し殺している。
恋する乙女というのは大変だなぁと思う。
そんな恋する乙女を挑発させるように振る舞っているアイリス姉さんも大変だろうなぁと思う。その心境を察すると、同情は禁じ得ない。
なにせ好きでもない相手に体を許しているんだもんね。私は別に作戦のためであれば、知らない相手どころか、興味もない相手と子作りしても問題はないけど。アイリス姉さんの場合はそうじゃないだろうし、本当に大変なことをしているなぁと思う。
(……まぁ、一番大変なのはあの子、アンジュちゃんだけどねぇ。一目惚れした相手が別の女を抱くところを何度も見せられているんだもの。あぁなるのも無理ないよねぇ)
そう、一番大変なのは、私が舌なめずりしたくなるほどに「美味しそうだ」と感じたアンジュちゃんだ。見た目もかわいいし、処女特有の雰囲気も相まって、あの場で押し倒して服を破って犯さなかった自分を褒めてあげたくなるほどだ。
ただ、アンジュちゃんの場合はそれらの要素に加えて、「あの香り」が暴力的にヤバい。
「あの香り」──発情したメスの香りがなんともヤバい。たぶん、そのことを本人は気づいていない。気づいていないからこそ、これでもかとこっちの理性を煽ってくれる。私がカレンちゃんだったら、毎晩アンジュちゃんを犯しているだろうねぇ。それこそどんな手を使っても孕ませてしまいたいほどには。
そんなアンジュちゃんをそばに置いて、カレンちゃんってば、よくまぁまともに理性を保っていられるものだよ。その理性の強さには脱帽するしかない。
(脱帽する代わりに、アンジュちゃんを犯させてくれないかなぁ。そうしたらトゥーリアちゃんと一緒に犯すのになぁ)
そう、カレンちゃんが許してくれるなら、トゥーリアちゃんと一緒にアンジュちゃんも犯してあげられる、それもふたりいっぺんに犯すの。ひとりひとりでも十分に興奮するけれど、ふたり一緒ならふたり揃って壊れるまで犯し続けられそう。
(なによりもトゥーリアちゃんは、そろそろだもんねぇ。ふふふ、楽しみだなぁ~)
ありもしない希望に縋らせたままというのにいいけれど、みずからの手で希望を摘まませたら、あの子はどんないい声で啼くだろうか? 考えただけで背中がゾクゾクと震えてくるよ。
(あぁ、堪らない。堪らないなぁ。カレンちゃんたちがそばにいるけれど、呼び出してまた犯そうかなぁ。あー、でも、お風呂ないから、そういうことをしていたって臭いでバレちゃうかなぁ~。神獣様とあの厄介そうなワンちゃんもいるしなぁ~)
カレンちゃんたちのそばには神獣様がいる。あと、あのワンちゃんもいる。神獣様は当然だけど、私的にはあのワンちゃんは下手をすれば神獣様よりも厄介だと思っている。いまはまだ大した存在じゃない。それこそ首根っこを引きずり出すことだって、かわいらしい顔を握りつぶすことだってできる。それくらいに弱い存在だ。
でも、ずっと弱いままじゃない。将来的にはあの子はヤバい存在になるという予感を私は抱いている。もう予感を通り越して、未来視で見たと言ってもいいくらいに。アレは下手すれば、あの子の姉ふたりと同じ位階に到達しかねない化け物だ。片や最も新しい神獣と、片やその神獣と互角の存在というありえないふたりと将来的には肩を並べるであろう怪物。
(……危険な芽はあらかじめ摘んでおくべきだとは思うけどなぁ。あの子に関してもアルトリア姉さんは「手出し無用」と言っているもんなぁ)
あの子はカレンちゃんの新しい娘であるからして、アルトリア姉さん曰く私の新しい娘でもあるとか言っている。
尤も当の新しい娘からは母親として認知はされていないようだけど。まぁ、アルトリア姉さんは「早めに来た反抗期」と言って憚らないけれど。私の目にはどう見ても「反抗期」というレベルでは済まないほどにあの子はアルトリア姉さんを敵視しているように思える。
(逆にアイリス姉さんはあの子には好かれているみたいなんだよなぁ。よくアイリス姉さんの腕の中で眠っているみたいだし)
初めて見たときは、「アイリス姉さん、カレンちゃんの子供を産んだのかな?」とかバカなことを口にしてしまって、アルトリア姉さんに首を絞められてしまった。
でも、そう思ってしまうほどにあの子はアイリス姉さんに懐いているし、アイリス姉さんもあの子に愛情を注いでいるように思える。それこそ──。
(……本当の家族みたいに思えるときがあるんだよなぁ)
──カレンちゃんたちを見ていると、本当の家族のように見えてしまうことがある。たしかな絆で結ばれた家族。日だまりのように温かそうな関係。羨ましいと思ってしまうほどに穏やかな場所。
(……私らしくないな)
わずかでも心が動かされてしまうほどに。カレンちゃんたちの関係はとても理想的だ。悪魔のような私が心を動かされてしまうほどに。
(……やめよう。これ以上考えると、いつもの私じゃいられなくなる)
私は「私」で在らねばならない。私はアリア。「ルシフェニア三姫将」のひとりである「冥のアリア」だ。私が「冥のアリア」ならばこんな感情は不要だ。不要なのだけど──。
(……本当に調子が狂うなぁ)
──どうしても自分を偽ることはできそうにない。本当に参ったもんだと思いながら、私は人混みを進む。
誰も彼もが目を輝かせる王国祭。その美しい非日常が悲鳴混じりの非日常へと変わる様を舌なめずりして待ちわびるのが私だ。
(……そう、それが私なんだ)
自分自身に言い聞かせるようにして、後ろ髪を引かれながら私はカレンちゃんたちとは真逆の方へと歩いて行く。私が進むべき魔道をいつものようにみずからの意思で進んでいった。




