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rev2-69 仰天

 前方でベティちゃんとレンさんがイチャイチャイチャイチャしていました。


 そのなんとも羨ましすぎる光景を私は指を咥えて見ていることしかできません。


 あぁ、なんで私はレンさんではないのでしょうか?


 どうして私はアンジュなのでしょうか?


 どうしてこうも完璧すぎる美少女なのでしょうか?


 完璧すぎるがゆえに、欲しいものを手に入られないというのは、ひどい皮肉で──。


『婆様がいたら、「頭殴っておけば多分治るよ」とか言いそうだなぁ』


 ──お姉ちゃんがぽつりと呟いた一言で、私は現実に引き戻されました。


 いえ、これは果たして本当に現実なのでしょうか?


 もしかしたら、こうして会話をしていることの方が夢や妄想の類いなのではないでしょうか?


 いえ、きっとそうです。きっとそうに決まっています。


 私はなんたって完璧すぎる美少女であるからして──。


『そのキャラなんなの? めっちゃウザい』


『だから、少しはオブラートに包めって!』


 ──あぁ、どうしてお姉ちゃんはこうも私の神経を逆撫でするようなことばかりするんでしょうね?


 もう少しかわいいかわいい妹に対して、愛情というものをですね。


『これが私の愛情だよ?』


 そんなのは愛情じゃない! もっと愛をください! 愛を!


『……はい』


 さらさらとなにやら音がしたかと思えば、いきなり目の前にぽんと軽い音とともに現れたのは、「愛」とでかでかと書かれた羊皮紙でした。


 いきなりすぎることに私の目が点となったのは言うまでもありません。そんな私にお姉ちゃんは追撃を行ってくださいました。


『はい。「お姉ちゃんの愛」をあげるね?』


 お姉ちゃんはきっぱりと言い切られました。たしかにこれも「愛」です。ええ、たしかに「愛をください」と言った私の言葉を聞いて、お姉ちゃんは「愛」をくれました。そう、「愛」をくれたのです。くれたのですが──。


『こーゆーことじゃないんだってばぁぁぁぁぁ!』


 その場で出てきた羊皮紙を破り捨てる私。


 端から見れば、自分で出した「愛」と書かれた羊皮紙を見て、いきなりぷっつんして羊皮紙を破り捨てるという謎の暴挙に出た女という風にしか見えないでしょう。……私も冷静になって振り返れば、それこそ第三者視点として見れば、自分の行いをそういう風にしか捉えることはできません。


 ですが、これがいざ当事者視点として見れば、悪魔じみた言動の姉からのプレゼントにぶち切れたかわいそうな私ということになるのです。むしろ、そうならないといけないし、おかしいのです!


『アンジュが頭おかしい変態のロリコンでぺちゃぺちゃなのは、もう周知の事実であって』


『おい、待て、姉! 前半と中盤は百万歩譲ろう。だが、後半はどういうことだ!?』


『後半? あぁ、周知の事実ってこと? だってそんなのはアンジュと触れた人はみんなわかりきっていることで』


『そっちじゃねぇぇぇ! その少し前だよ、少し前!』


『……あぁ、ぺちゃぱいのことね。実際、ぺちゃぱいじゃん、アンジュは。いや、ペちゃどころか、ないぱいだもん』


 ぐさりと突き刺さる一言を容赦なくたたき込むお姉ちゃん。その一言に私は膝を再び地面に着けました。


 言われたくない一言というのは誰にもあるもの。


 その言われたくない一言を容赦なくたたき込んでくるこの姉はいったいなにを考えているんでしょうね、アンジュ、わかんない!


『ぶりっこもウザいなぁ。アンジュは自意識過剰もぶりっこも似合わないよ? アンジュが似合うのは、テンション高くてどうしようもないロリコンなんだよ? 滑稽すぎてお姉ちゃん、泣きそうだよ、ぷーくすくすくす』


『私を虐めて楽しいのはわかった。それでもあえて言おう。私はまるで楽しくないし、現在進行形で心にトラウマを負わされているのだと!』


 この姉にははっきりと伝えなければ、きっと理解してもらえないでしょう。だからはっきりとお姉ちゃんの言動に私が傷つき、トラウマを負わされているのだと言うことを伝えなければなりません。


 ここまではっきりと言えば、お姉ちゃんも理解してくれる。そう思っていたのですが、どうにも現実は私にはやっぱり厳しい模様です。


『……なにを言っているの? アンジュは私の玩、いや、おもち、そうじゃなくて、お人ぎょ、もとい、かわいいかわいい妹なのだから、そんなひどいことをお姉ちゃんがすると思うの、アンジュは?』


 若干涙声でなんともしおらしいことを言い始める姉。ですが、私の耳にはちゃんと聞こえていましたよ。「かわいいかわいい妹」という言う前に何度も言い直した言葉の数々を!


『いいですか? はっきりと申し上げますけど、私は玩具でもおもちゃでもお人形さんもでない! れっきとしたですね!』


『うん、れっきとしたお姉ちゃんのおままごとのための道具だもんね、アンジュは』


『そうそう、おままごとのための道具で──ってそうじゃねぇぇぇぇぇ!』


 なんですか。なんなんですか? どうしてより悪化した言い回しをするんでしょうね、この姉は! そんなに私を虐めて楽しいっていうんですかね、ええ!?


『え? 楽しいよ? アンジュは虐めれば虐めただけでかわいい反応してくれるから、お姉ちゃんとてもとても楽しいの』


『やめて? ねぇ、やめて? そんないかにも楽しんでいますって声色で恐ろしいことを言わないでよ、ねぇ!?』


 お姉ちゃんの発言に背筋が凍り付く私。そんな私を見てもお姉ちゃんは「ふふふ」と怪しい笑い声を返すだけ。あぁ、恐ろしい。恐ろしすぎますよ、この姉は!


 そんな私の嘆きを理解しているのか、していないのか。


 お姉ちゃんは相変わらず「ふふふ」と笑うだけです。本当に姉って存在は恐ろしいものなんですね、はい。


『まぁ、アンジュで遊ぶのは飽きてきたからそろそろいいかな? ご苦労様、アンジュ。アンジュは所詮私にとってはどうともなるような存在だったけれど、十分楽しめて──』


『ちょっと、それどこまで本気でどこまで冗談なのかがわかりづらいんですけど?』


『え? 全部本気だよ? なにを言っているの?』


『……OH』


 もうなにも言えません。なんなの、この姉は?


 どうしてこんなにも悪魔じみたことを平然で口にできるのかが私には理解できませんし、理解したくもありません。


『まぁ、アンジュのことはいいや。それよりもなかなかに厄介なことになっているね』


『厄介なこと?』


 言われた意味がよくわからなかった。


 お姉ちゃんにからかわれるということも私にとっては十分すぎるほどに厄介なことなんですが、それ以上に厄介なことがあるようです。これ以上の厄介とか勘弁してくださいよと言いたい気分ですね、はい。


『アンジュってば、変態にロックオンされやすいみたいだね』


「はい?」


 いきなりの言葉に思わず声に出してしまいました。


 いや、だっていきなり変態にロックオンされてしまったとか言われても理解できないんですが。


『言葉の通りだよ。アンジュってば、厄介な変態に目を付けられちゃっているもの。どうしたものかなぁとお姉ちゃんは悩んでいる最中です』


『厄介な変態って誰?』


『……ん~。国王様を性的に食べている奴』


『え?』


 言われた一言にまたしても声に出てしまいそうでしたが、どうにか抑え込みました。


 国王様を性的に食べる?


 それってつまりは。


『いや、それってつまり国王様って、すでに子供を宿すお相手が』


『いや、国王様は子供を宿らせないよ? だって宿らされる側なんだから宿らせれるわけないじゃない? なにを言っているの?』


『んん?』


 またしてもお姉ちゃんの言っている意味がわかりません。男性である国王様が宿す側ではなく、宿らされる側っていうのはいまいちわかりません。どういうことなのだろうと思っていると、お姉ちゃんはとんでもないことを言い出すのでした。


『だって、国王様は女の子だよ?』


『……はい?』


『いや、だからいまの国王様は女の子なんだってば』


 お姉ちゃんが告げた一言に私は一瞬唖然となり、それから思いっきり声を出して驚いてしまうのでした。当然、周囲の目がびしびしと突き刺さりましたが、そんなことを言っている場合ではありません。


 国王様が女の子って、いったい、どういうことなのでしょう、まったくわからないです。そんな私にお姉ちゃんは「仕方がないなぁ」とため息交じりに事情を説明してくれるのでした。

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