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rev2-56 ……報告書という名の嫌がらせだよ(byレン

「ふ、ふふふ」


 日がすっかりと高くなっていました。


 窓の外もまた明るくなっています。


 でも、私がいる部屋はやや薄暗いです。


 その理由は簡単なことでした。


「徹夜になりましたが、完成しましたよぉ~」


 そう、私は本日徹夜してしまったからです。


 そのせいか、若干お日様の色がちょっとおかしい気がしてなりません。


 徹夜なんてコサージュ村にいた頃はほとんどしたことはありませんでした。


 時折、仕事の関係で徹夜することはありましたけど、早寝早起きの習慣があったので、基本的には夜が来たら食事を取り、お風呂に入ったらさっさと寝る。そんな毎日だったので、徹夜はあまり得意ではないのです。


 現にいまもすっかりと明るくなっていますが、このままベッドにダイブしたいという欲求に駆られていますが、このまま寝るわけにはいかないのです。


 なにせ、徹夜したのは報告書を作成するため。仕事のためだからです。


 その報告書も改稿に改稿を重ねて、今回で5稿目。


 マスターとなる前は、報告書なんて当たり前のように仕上げていましたけど、ひさびさに携わってみると、あら不思議、まるで書けなくなっていました。


 マスターとなる前は、先代のマスターからは「アンジュくんのは、その、なんというか、完璧だね。うん、完璧すぎるほどに完璧だね」というお褒めの言葉をいただけていたのにも関わらずです。……お褒めいただいたはずなのに、なぜか先代マスターのお顔が若干引き気味だったのが印象的でした。


 私はただ「一週間におけるギルド内のショップの利用状況」という報告書を克明に仕上げただけです。一週間ということでしたが、念のために一ヶ月間のデータを取り、それぞれの週のデータと照らし合わせたうえで平均的なデータを導き出したのです。どの時間帯にどのような商品がどのくらいの頻度で必要になるのかというデータも加えておきました。私の報告書を見れば、ショップ内の商品をどう充実させるかどうかがわかるようになるはずでした。

 しかし報告書を上げてもショップ内の商品はあまり充実しませんでした。曰く「予算の都合もあるから」と先代は言っていましたね。その予算に関しても報告書で克明に算出しておいたはずだったんですが、これも先代曰く「……実際の予算と想定の予算では違いがあるから。参考にはなるのだけど」と言われてしまいました。


 たしかに私の報告書で算出したものは、想定の予算であり、実際の予算とは違うのだから、あくまでも参考にできる程度でしかないというのはなるほどごもっともなことでした。


 それ以降も逐一報告書は認めていましたけど、報告書を仕上げるたびに先代はなぜか固まっていました。あれがどういうことだったのか、いまだによくわかりません。ただレンさん曰く「……同情するわ」ということでした。


「……真面目すぎる部下を持つって大変なんだなぁ」


 レンさんは遠くを眺めるようにして大きなため息を吐かれていました。ちなみにそのときのレンさんは私が仕上げた報告書の初稿を読んで貰っていました。内容が内容だったため、当時仕上げていた報告書の一割くらいの量しか書けませんでした。それもデータもほとんどありませんでしたし。


 当時の報告書を100点と仮定したら、その初稿はせいぜい50点を下回る程度でしかありませんでした。そんな中途半端な報告書でしたから、レンさんも呆れてしまったのでしょうね。なにせたったの一割、せいぜい100枚程度の報告書でしたから。


 レンさんも最初「……頑張ったんだなぁ」と遠くを眺められていましたけど、職員時代に比べたら一割くらいの量しかないですと伝えた瞬間、なぜかドン引きされました。その後にレンさんが言ったのが先ほどの一言だったわけです。


「……一応目を通すけどさ、もう少し精査というか、その、量をだね」


「精査はしてあります。もとのデータはこの100倍はありますから」


「……そっか、これでも100分の1なんだ」


「はい。当時は元のデータにしても10倍はあったんですが」


「……なるほど、な」


 レンさんは頭を痛そうに押さえていました。その隣ではイリアさんがなぜか気の毒そうなお顔でレンさんを見つめていましたけど。


「……うん、とりあえず、アンジュは目標として、より精査してほしいな。データというのはあればあるほどいいものだけど、それを徹底的に精査して初めて価値があるものだからね。まだアンジュのは精査が足りないなと俺は思うな、うん」


「具体的に言いますと?」


「そ、そうだなぁ。10分の1、いや、3分の1くらいかなぁ」


「それだけだとかえって困りませんか?」


「むしろ、いまの枚数の方が、いや、3分の1でもわかるものはわかるものなんだよ。だから、うん、3分の1の枚数以下で行こう、うん、それがいい。むしろそれでお願いしたい」


 レンさんははっきりと言われました。そのときの3分の1、つまり30枚以内というのはなかなかに大変なことではありますし、データが薄くなりすぎる気がしましたけど、その分だけ精査されたデータになると思えば、そのくらいの苦労は背負うべきでしょう。それにそっちの方がより仕事をしている感がありました。


 だから私はその日から頑張りに頑張ったのです。すべてはモルガンさんをぎゃふんと言わせるためだけに。


 ちなみに初稿から4稿目まですべてレンさんに目を通して貰いました。報告書を渡すたびにレンさんは「……目を通しておくね」と非常に疲れ切った顔をなさっていましたし、目を通して貰った後にいろいろとアドバイスもされました。


 でも、その甲斐あって今回の5稿目はかなり完成度の高いものになりました。これならばモルガンさんも満足させられるどころか、確実にぎゃふんと言わせられるでしょう。


「ふっふっふ、モルガンさん、待っていてくださいね」


 いまはいないモルガンさんに向かって私は不敵な笑みを浮かべるのでした。それはそうとしてですね。


「……なんか汗くさいので、お風呂行きますか」


 報告書を仕上げるのに夢中になりすぎて、昨日はお風呂に入れませんでした。


 いくら仕事のためとはいえ、私も麗しき乙女なのです。お風呂に入るのは大事です。


「……いまの時間ならば誰もいないでしょうし、ぱぱっと入ってきちゃいますかね」


 ぼりぼりと頭を搔きながら私は着替え一式を手にして、お風呂に入るために浴場へと向かうのでした。

ちなみにアンジュがお風呂に向かったタイミングは、レンとベティが部屋に戻ったのと同時刻です←

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