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rev2-44 ようこそ

 翌日──。


「ふわぁ~」


 私はとある建物の前で大きく口を開けていました。


 端から見れば、田舎から出てきた世間知らずの女の子が都会の想像以上の姿に面を喰らっているように見えると思います。


 実際、いま面を喰らっていますからね、私。


「……これがギルドなの?」


 目の前にあるのは、ここ首都「アルトリウス」の冒険者ギルドでした。


 首都が想像以上に発展しているのを見て、面を喰らっていましたが、それでも冒険者ギルドなんてどこの街でも似たような物だろうと、大きめの集会場みたいなものだろうと高をくくっていたのですが──。


「……どう見てもお屋敷なんだけど」


 ──私の予想とはあまりにもかけ離れた外観をしていました。


 私の予想では、故郷のコサージュ村の冒険者ギルド(の出張所)を二回りくらい大きくした、かなり大規模な集会場みたいな建物だろうと思っていました。


 しかし、実際の冒険者ギルドはそんな私の想像をはるかに越えていました。


 はっきりと言えば、お屋敷なんです。それもお城に負けないくらいのきれいなお屋敷です。

 壁は真っ白な石の壁。ところどころに蔦がわずかに蔓延っていますが、それでもその壁の材質がどれほどに上質なものなのかはなんとなくわかります。見た目はかなり豪勢であるのに、おそらくは耐久性もかなり高いのでしょうね。コサージュ村の出張所の木造建築よりもはるかに丈夫そうです。


 大きさも下から見上げていると首が痛くなるほど。コサージュ村ではせいぜい3階くらいまでしかなったのに、ここのギルド5階はありますね。高さだけではなく、横幅もまたすごいです。コサージュ村の出張所を4つ、いえ5つ連結させてもまだ足りないほどに。部屋の数も窓の分だけあるとしたら、どう数えても50は下らないでしょう。


 でも、それだけであれば、大富豪のお屋敷という風にしか見えません。ですが、ギルドの紋章が刻まれた旗が、黒地に女神が描かれた旗が風に靡いているのを見ると、ここがお屋敷ではなく、冒険者ギルドであることが理解できました。


 首都と辺境の村。その違いはこの首都に来て何度も突きつけられてきましたが、ここまで痛感させられたことはありませんでした。


「これが首都のギルド」


 感嘆しながら私は首都のギルドの前でぼけーと見上げることしかできずにいました。


「……ふぅん、「聖大陸」の一国の首都のギルドだとこんな感じになるのかぁ」


「なかなかの規模ですね。見た目もそれなりですから、偉容もきちんと存在していますね」


「うむ。この規模だとここを拠点にしている冒険者もそれなりにはおるだろうなぁ」


「そうだな。たぶん、100はいるんじゃないか? このくらいの規模になれば、それくらいのお抱えはいると思うけど」


 私が感嘆としている間、その隣ではレンさんたちが思い思いに感想を口にしていますね。レンさんたちもこのギルドがとんでもないことを理解されているみたいですね。ただ、レンさんが口にした200という言葉に私はまた口を大きく開けることになりましたが。


「100人もお抱えの冒険者が」


 いくら首都とはいえ、冒険者を200人も抱えているとは。コサージュ村ではせいぜい2、30人くらいだったのに、そのざっと5倍近い冒険者が、コサージュ村の人口くらいの冒険者がいるなんて。やはり首都はすごいなぁと思っていたのですが──。


「いや、人じゃなくて、クランだぞ?」


「……はい?」


 ──レンさんの返事に私は生返事をしていました。


 聞き間違いでしょうか?


 100人ではなく、100クランはあるという風に聞こえたのですが。

 

 うん、間違いなく聞き間違いでしょうね。


 ひとつのクランが5人としたら、100クランだったら500人もの冒険者を抱えているということになります。


 5倍どころの話ではなくなってしまいます。


 さすがにいくら首都だからと言って、そんな規模の冒険者がいるわけが──。


「ほぅ。さすがはレン殿だな。見事に言い当てられるとはな」


 ──そんな私の考えを否定するように、国王様が笑われました。


 油の切れた機械のようにゆっくりと首を動かして、ありえないことを仰った国王様を見やります。国王様はニコニコと笑われています。……どうしてでしょうね。嘘を言っているように見えないと思ってしまうのは、どうしてなんでしょうね?


「わが首都のギルドにはだいたい100ものクランを抱えておる。まぁ、クラン、いや、まだいっぱしの冒険者とは名乗れぬほどの者も多くいる。が、中には一流と言える冒険者もかなりの数はいる。だいたい100名ほどかな? その100名は「聖大陸」でもわりと名の知れた者たちだと余は思っている」


 胸を張る国王様。国王様にとってこのギルドは自慢のひとつなのかもしれません。ギルドを眺められるお顔はとても誇らしげなものですから。


「「魔大陸」ではどうなのだ?」


「……自分の知っている限りだと、「エンヴィー」の出張所はここよりも小規模ですね。ですが、腕のいい冒険者揃いでした。ギルドマスター自身が、腕利きの元冒険者でしたし」


「そうか。ギルドマスターとは呼んでも、実際にギルドマスターの称号を得ている者は数えるほどだが、「エンヴィー」の出張所の長はその称号を得た女傑だったな」


「ええ、とても優秀な方でしたよ。……性格には若干の難がありましたが、それでも立派な人でした」


 国王様の問いかけにレンさんは淡々と答えました。淡々と答えながらも、その目は悲しみを帯びていた。その理由は完全にはわからない。でも、もしレンさんが「カレン・ズッキー」であるのであれば、その理由は察することはできる。本当にレンさんが「カレン」であれば、の話ですけどね。


「では、「魔大陸」のもうひとつのギルドとは?」


「……それは」


 レンさんが口を開き掛けた、そのとき。目の前のギルドの扉が大きく開きました。扉の先には30代くらいの、黒い髪の女性が立っていました。


「あらあら、そろそろ時間かと思っていたのですが、まさか陛下ご自身でお越しになられるとは」


 女性はのんびりとしたような口調でした。見た目も少し間の抜けた、とは言いませんが、若干動きが遅そうな感じの女性です。テキパキと動くのが苦手そうですね。


「おや、そなたが出迎えに来てくれたのか?」


「それはもう。陛下からのご紹介とあれば、私みずから出向くのが礼儀ですし」


「そなたらしいことだ。アンジュ殿、この女性こそが件の人物だよ」


「え? ということは」


「はい。私は首都「アルトリウス」の冒険者ギルドのマスターをさせて貰っています、モルガンと言います。よろしくお願いしますね、コサージュ村のマスターさん」


 ニコニコと女性ことモルガンさんは笑いながらお辞儀をされるのでした。あまりの物腰の低さに私はお辞儀で返すので精一杯でした。モルガンさんは「ふふふ」と笑いつつ、私からレンさんにと視線を移すと、「あらまぁ」と漏らすと──。


「お召し物は変えられたのですか?」


 ──何気ない口調でそんなことを仰ったのです。まるで昔からレンさんのことを知っているかのような、どこか親しげな様子で。ですが、当のレンさんは困惑されていました。


「……どなたかと勘違いされているのでは? 少なくとも自分はあなたと会ったことはありませんが?」


「そうですか? では、そのようにしておきましょうか。ふふふ」


 それまでの笑顔とはまるで違う、どこか妖しさを含ませた笑みを浮かべられるモルガンさん。ただののんびりとしたお姉さんではないことは、その笑顔だけではっきりとわかりました。


「ちなみにだが、彼女もギルドマスターの称号を得た数少ないひとりだよ」


 国王様が言われた一言に私は固まりました。やはりただののんびりとしたお姉さんではなかったようです。でも、レンさんたちは特に驚くこともなく、モルガンさんを見つめていました。それはモルガンさんも同じでしたが、彼女は「ふふふ」と笑うと踵を返されました。


「立ち話もなんですから、私の執務室までご案内しますね。そしてようこそ我が冒険者ギルドへ。歓迎致しますね」


 両腕を広げながらモルガンさんは歓迎の意を示してくれました。が、先ほどの妖しい笑みを見た後だと、なにかしらの罠が潜んでいるのではないかと思えてなりません。それでも歓迎されているのだから、中に入らずにはいられない。


 私は意を決して、モルガンさんの居城とも言える首都の冒険者ギルドにと踏み入ったのでした。

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