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rev2-19 和やかとは程遠く

 寝起きから国王様に襲撃されるという予想外のイベントが終わると、私は国王様に案内されながら食堂へと向かいました。


 正確には案内というよりも強制的に連れて行かれたと言う方が正しいのでしょうけど。でも、お城の中のことはお城の主である国王様に任せるしかありません。下手にうろちょろしていて、不審者として牢獄行きなんて勘弁願いたかったですし。


 そうして国王様の案内の元、向かった食堂にはすでにレンさんたちがおられました。私と国王様を待ってくださっていたようで、テーブルの上にはすでに朝食が置かれていましたが、誰も食べておられませんでした。ベティちゃんは「おなかすいたの」とレンさんの膝の上でぼやいていましたが。


 そのぼやきに控えていたメイドさん方は微笑ましそうなものを見るような目で、もっと言えば愛でるようにベティちゃんを眺めていましたね。ベティちゃんのかわいさはどの地域でも共通されるもののようです。


「おっと、小さなレディーを待たせてしまったみたいだね。すまないことをした」


 ベティちゃんのぼやきに国王様は申し訳なさそうにお辞儀をされましたが、ベティちゃんは「むぅ」と小さく唸ると、「こくおーさまもちいさいの!」ととんでもないことを仰ってくださいました。その一言にイリアさんは「べ、ベティちゃん、なに言っているんですか!?」と大いに慌てられました。


 いや、慌てられたのはイリアさんだけじゃなく、その場にいた全員がですね。レンさんは固まっていましたし、ルリさんは「……自由奔放にもほどがあるのぉ」と頭を抱えられていました。ベティちゃんを愛でられていたメイドさん方もさすがに動揺を隠せないようで、どなたもあたふたと周囲を見回すほどでした。


「ははは、そうだね。余は子供だから、まだ小さいのだ。だが、ベティよりかはいくらかお兄さんであることは間違いないぞ?」


 しかし当の国王様だけは平然とされていました。それどころか、実に大人な対応をしてくださったのです。実に器が大きかったです。王様と一口に言っても、その性格や器量は人それぞれ。一般人だって性格や器量に関しては人によって変わるのです。王様だって人なのですから、王様ひとりひとりで性格なども変わるのは当然のことでしょう。


 その点、目の前にいる国王様はまだ年少であるというのにも関わらず、その器量はすでに大人顔負け。そんじょそこらの王様とは比べようもないでしょう。……王様という存在がそんじょそこらにいるのかはわかりませんけど。


 とにかく、その場は国王様の器量によって、波風立つことなく終了しました。……ベティちゃんが「こくおーさまはおにいちゃんなの?」と言ってしまい、いろいろと面倒な事になりかけましたが、レンさんがよぉくベティちゃんに言い聞かせたことで事なきを得ました。


 国王様は「別にお兄ちゃんと呼んでくれても構わないのだが」と仰っておいででしたけど、さすがにそうするといろいろと面倒なことになりそうだったので勘弁してほしかったです。レンさんも同じ意見だったようで、「これ以上うちの娘の地位を向上させないでほしい」とお願いしていました。その言葉の意味はいまひとつ理解できませんでしたし、詳しく聞くとなんだか怖くなりそうだったので、あえて尋ねないことにしました。


 そうしてベティちゃんと国王様による想定外のやりとりを経て、無事に朝食は終了しました。


 朝食はソーセージとマフィン、目玉焼きをメインにサラダとフレッシュフルーツジュース、食後にはケーキがスイーツとして出てきましたね。朝からずいぶんと豪華だなぁと思わずにはいられませんでしたね。


 ちなみにベティちゃんはソーセージの代わりにケーキを多めに食べていました。そのソーセージはレンさんが代わりに食べていましたね。しかもベティちゃんによる「あーん」をされながら、です。非常に羨ましかったのは言うまでもないです。


 そうして朝食が無事に終わると、国王様による首都の案内が始まるはず、だったのです。ですが、問題が起こったのです。


「……アンジュ様、その首筋の痕はどうされましたか?」


 朝食後に、イリアさんが私の首筋にある虫刺されを見て、仰った一言が引き金になりました。


「え? これは、朝起きたらすでに」


「へぇ、朝起きたら、ですか。そうですか」


 イリアさんは穏やかな口調でした。そう口調は穏やかでした。でも、その視線はひどく鋭かった。その視線は私の首筋に集中していて、とても落ち着かなかったです。


「……どうかしましたか、イリアさん」


「……いえ、別になんでもないですが?」


 イリアさんは小首を傾げていました。表面上はあまり気にしていないようにも見えますが、その内面がどうなっているのかはわからなかった。


 普段であれば、念話でネチネチと語りかけてこられるのでしょうが、不思議なことに私に念話が語りかけてはこられませんでした。ただ、レンさんはなんともいたたまれそうな顔をされていましたので、おそらくはレンさんに念話で語りかけられていたのでしょう。その内容がどういうものなのかはわからなかったですけど。


「……ルリ殿?」


「なにかな?」


「なぜ、朝から修羅場のような雰囲気になっているのだ?」


「……まぁ、いろいろとあると思ってもらえると助かりますな」


「そう、なのか?」


「ええ」


 いまいちわかっていない国王様となにかしらを察したルリさんの会話が、和やかな朝食の席で行われましたが、なんとも場違いな感じがしましたね。その後、イリアさんの雰囲気はしばらくの間変わることはありませんでした。

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