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rev2-15 ようこそ

「──さぁ、ここが我が城だ」


 国王様が立ち止まられたのは、白亜と言っていいほどに美しいお城の前でした。


 あの後、私たちは孤児院を出て、国王様の案内の元お城へと向かったのです。お城に向かいながらも国王様はずっと私に話しかけてくださいました。……内容があまりにもアレでしたが。少し抜粋すると──。


「アンジュ殿は結婚するのであれば、どの季節がいいと思う? 雪解けの春を待つのもいい。短い夏の日々に挙げるのもよい。慌ただしい秋はどうかとは思うが、それはそれでいいのかもしれぬ。厳しい冬に民たちの希望を与えるためにいまというのもありだが、そなたとしてはどれがいいのかな?」


「アンジュ殿はところで好き嫌いはあるかな? 余は恥ずかしながら、そこそこ嫌いなものが多いのだ。国主として好き嫌いがあるというのはどうかとは思うのだが、まだ幼少の身であるので、いまは許して欲しい。しかし将来の妻の手料理であれば、どんなものであっても食べ尽くすと約束しよう」


「アンジュ殿は子を産むのであれば、男児と女児はどのくらい欲しい? シスター・アルカに教えて貰ったのだが、最初は女児がいいということなのだそうだ。なんでも女児は育てるのが大変だが、成長すれば家事を手伝ってくれることもあり、後々に楽になるから女児から産まれるのが望ましいということらしい。だからといって、男児からというのが嫌というわけではない。世継ぎとしては男児こそが相応しい。とはいえ、女王という存在を認めないと言っているわけではない。なにせ蛇王殿は見目麗しい女性であるのだ。あの方のような娘を持てれば、それこそ世継ぎとして育てるのもありだとは思う。ゆえに女児だろうと男児だろうと世継ぎとして優秀なる者を選ぶべきだと余は思うのだ。アンジュ殿はそのあたりどう思う?」


 ──というところでした。


 正直私に言ってどうするのと言いたいことや発言に困るようなことを言ってくださいましたね。


 いや、意図はわかるんですよ?


 国王様の中では、私が国王様の妃になることがもう決定事項となっているということは。


 でも、思うんですよね。


「私の意見、入ってなくない?」


 そう、一番の問題がそれです。


 他にも問題があると言えばありますよ? 

 

 王族という高貴なる血筋の方と私のようなどこの産まれかも知れない下賤な血筋の方が結ばれるというのはさすがにまずい気がします。


 まずい気がするんですが、ルリさんが「……高貴な血筋と言ったら、逆になるのだが。まぁよいか」となにやら小声で呟かれていましたが、なにを仰られたのかはよく聞こえませんでした。


 とにかく、私と国王様とでは釣り合わないのです。


 だというのにも関わらず、国王様は私をどうしても妃に迎えたいようですね。


 ……もう頭痛しかしない状況なのですが、国王様に言っても聞いてはくださらないというのは明らかなので、どうしようもないのです。


 こうなれば徹底的に情けないところを見せて、幻想をぶち壊すべきでしょうかと思い始めた頃、お城にたどり着いてしまったのですよ。


 遠目から見てもお城はきれいでしたが、間近に見るとよりきれいに見えましたね。


「きれいですねぇ」


「そうであろう? とはいえ、余はそれを受け継いだだけだ。もともとこの城は始祖王アルトリウスが建てた。始祖王は雪国でもあるこの国に相応しい色として白亜にしたそうだ。だがそれと同時にある願いを込めたそうだ」


「願い、ですか?」


「ああ。「決して誓いを違えることなく」という願いをだ」


「誓い?」


「うむ。すべては民のために。みずからのためではなく、この国に住まうすべての民のために生きる。その願いを違えないために。その願いを穢さないように。この城は白亜となったのだ。一点の穢れも曇りもないように、な」


 国王様は目をすっと細められながら、白亜の城を眺めていた。眩いものを見ているかのように。中天にある太陽を見つめるように。国王様はご自身の居城を眺めておいででした。……まるで自分には相応しくないと言うかのように城を見やる視線には、どこか陰があるように思えてならなかった。


「へーいーかぁぁぁぁぁ!」


 国王様が城を眺めていられると、その城の方から大きな声が聞こえてきました。視線を向けるとお髭も髪も真っ白な男性が全力疾走してくるのが見えました。


「む、見つかってしまったか。まぁ、こんな近くにまで来たら見つかるか」


 やれやれと肩を竦められる国王様からは、陰は消えていました。面倒くさそうに、でもどこか楽しげにその男性を見やっておいででした。


「さぁ、アンジュ殿たちも行こうか。余の客人として我が城セリアンに招こう。では改めて」


 国王様は大ぶりに腕を振りながら深々とお辞儀をしました。


「我が都「アルトリウス」へようこそ。国主たる余が、このアルトリウス・フォン・アヴァンシアがあなた方を歓迎しよう」


 国王様はにこやかに笑われながら私たちにと手を差し伸べられたのでした。こうして私たちは首都「アルトリウス」に滞在することになったのでした。

血筋的には自身の方がはるかに高貴なわけですが、そのことを知らないアンジュでした←

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