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rev2-14 初恋奪っちゃった←

 国王様を後ろから抱きしめる。


 どう考えても無礼極まりないことでした。


 それこそ不敬罪として首を刎ねられてもおかしくないほどに。


 そのことに気づいたのは、国王様のお耳が真っ赤になったときでした。


 いや、お耳どころか、顔全体が赤くなられていましたね。


 そんな国王様の姿を見て、私が思ったことはひとつだけでした。


「あ、やべ、死んだわ」


 血の気が引く音って、本当にさぁーって音がするんですね、初めて知りました。


 ……いままで何度か血の気が引いたことがあったような気もしますけど、そのときほど盛大に引いた音を聞いたことはありませんでした。


 よって、私がその後に取った行動はひとつだけでした。


「失礼なことをして申し訳ありませんでした!」


 床に頭をこすりつけて国王様に謝意すること。ただそれだけでした。


 国王様は「え? あ、ええ?」と非常に困惑されていました。なんで困惑しているのかは理解できませんでしたけど。


 でも、必死に謝ったことで国王様は「あー、気にしておらぬから、頭を上げてはくれないかな?」と許してくださいました。……本当に許してくださって助かりました。ええ、本当に。


 ですが、困ったことが同時に発生してしまったのです。


「いくら清掃しているとはいえ、床に女性が頭をこすりつけるものではない。特にそなたのような絶世の美貌を持つ女性は、もっと堂々としてほしいな。いまのうちにそういう風になってくれないと、後々に余が困る」


「あ、そうで──んん?」


 国王様は笑顔で私に手を差し伸べながら、よくわからないことを仰いました。前半はいいのです。まぁ、私が絶世の美貌の持ち主というのはいまいち納得しかねることですが。とはいえ、美少女と呼ばれることは非常に嬉しくありましたね。


 問題なのはその後のことです。いまのうちに堂々とあれるようになってくれないと国王様が困るということです。


 仰っている意味がいまいちわからないのです。


 いや、もしかしたらという妄想が浮かび上がりましたけど、「まさかね」とみずから否定しました。いくらなんでも妄想にすぎるというものです。だからこその否定でした。そう、そのつもりだったのですが。


「いまのうちに公表するのもありだと思うかな、アンジュ殿?」


「えっと、なにがでしょうか?」


「ははは、奥ゆかしいな。そういうところもまたよい」


「……えっと」


「余としては子は何人かいた方がいいと思う。その分世継ぎの候補が増えるからな。むろん長子が世継ぎになるべきだろうが、余を見てわかるとおり、余は別に父の長子というわけではなかった。末弟ではあったのだが、父曰く兄上たちは俗世に染まりすぎて、国主にするには相応しくなかったようだ。兄上とは違い、余が一番俗世に染まっておらず、末の子であるから一番可能性に満ちていたと言うことだった。父の思想は余から見ても理解できるものであるし、長子がすべてを継ぐという古い考え方では、これからの世を統べていくのはどうかと思うのだ。アンジュ殿はどう思う?」


「え? えっと、そういう考え方もありなのではないでしょうか?」


 国王様の仰る意味が本当にわからない。語られている内容はわかるのです。世継ぎとして長子を選ぶというのはどこの国でも同じですから。ですが、中には目の前の国王様のように長子ではない方が国王様になられることもある。そんな経緯があるからこそ、長子だけではなく、総合的に見て最も相応しい方を選ぶという考え方もこれからの世の中ではありだとは思うのです。


 ですが、なぜそれを私に言うのでしょうか? それが一番意味わからなかったです。


「そうか。しかし子はいればいるだけいいものだが、あまりに多すぎると妃が大変だと思う。余はよくわからんが、母が言うには子を産むのは相当に大変らしい。となると妃の他の夫人も必要になる。が、余はできれば妃だけを愛したいのだ。気が多すぎてはかえって王宮を混乱に招くことになる。アンジュ殿はどう思う?」


「そ、そうですね。国王様という立場であれば、他にも夫人がいらした方がいいのではないでしょうか?」


「だが、そうすると妃と夫人との関係がややこしいことにならないかな? ほら、たとえば世継ぎ候補となる子たちをどれだけ産んだとかなんだとかで」


「ま、まぁ、そういうこともあるんじゃないですかね。ですが、そこは妃様の器量次第と申しますか」


「たしかにそうであるな。ところでアンジュ殿は夫が他に女を抱えても思うことはあるかな?」


「……え、えっと。その場になってみないとわからないと申しますか」


「まぁ、そうだな。いきなり言われても想像はできんだろうし。だが、将来的には起こりうることなのだから、いまのうちから考えて欲しいな」


「……はい?」


 国王様からの矢継ぎ早な質問の数々に私は無難な答えだけを返していましたが、最後の一言だけは聞き返すことしかできませんでした。将来的に起こりうることなのだからというのはどういう意味なのでしょうか。いや、わかりますよ? わかるんですけど、なんで妄想が現実に早変わりするのか、まったく意味がわかりません。


 そうして私が混乱のまっただ中にいると、視界の端でレンさんが居づらそうに首筋を搔いているのが見えました。いたたまれないというか、落ち着かない雰囲気で首筋を搔きっぱなしでした。


「……王宮での話だというのに、どうしてだろうな? 我は以前そんな光景をよく見た気がするが」


「奇遇ですね、ルリ様。私も以前そんな光景をどこかで見た記憶がありますよ」


 ルリさんとイリアさんが笑いながらレンさんを見やっていました。そんなおふたりの言葉にレンさんは体を縮ませると俯かれました。「……ちゃうんよ。そういう意図じゃなかったんよ。気づいたらそうなっていただけなんよ」と不思議な言葉遣いで仰っていましたけど、どうやらレンさんには身に覚えがあることだったようです。……あなた、うちのお姉ちゃんという人がありながらなにをやらかしていたんですかと問いただしたい気分でしたね、はい。

「さて、というわけでだ。今日からは我が城で滞在されるとよい」


「……え?」


「なぁに、いずれは住むようになるのだ。いまのうちに王宮暮らしになれるとよかろう」


 ニコニコと笑われながら国王様ははっきりと仰いました。


 そのお言葉に私はもう逃れられない現実を突きつけられていることを改めて理解してしまいました。そう──。


「国王様の初恋奪っちゃった」


 ──とんでもないことをしでかしてしまったという現実を私は改めて理解することになったのでした。

おねショタもたまには悪くはない←

まぁ、なるとは言っていないが←

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