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rev2-12 すべては民のため

「──さて、皆も揃ったことだから、もう一度名乗ろうか。余はアルトリウス・フォン・アヴァンシアである」


 食堂に戻ってしばらくしてから、レンさんとベティちゃんが一緒に食堂に来られました。


 ベティちゃんはとてもご機嫌そうな様子で、レンさんに抱っこされていました。鼻歌交じりに「おとーさん、おとーさん」とレンさんの顔に頬ずりしています。頬ずりはしていますが、レンさんは相変わらず仮面をつけられているので、頬ずりしても仮面になるのですが、ベティちゃんはそんなことはどうでもいいようで、とても嬉しそうに頬ずりを続けています。とっても羨ましけしからん光景でした。ぜひ、その役目を私に代わっていただきたいですね、半永久的に。


「黙れ、変態」


 レンさんの目はとても鋭かったです。それこそ変質者を見るような、忌むべき者を睨み付けるようなそんな目をされておりましたね。実に失礼でした。


「私は変態ではありません。あくまでも私のこれはベティちゃんがかわいすぎるからです。ええ、ベティちゃんの魅力が私の理性をたやすく限界突破させてしまうほどにかわいすぎるからいけないのです。いわば、私は被害者であって、加害者ではありません。ええ、私は常日頃からベティちゃんの魅力という抗いようのない暴力に晒され続けているのです。その暴力に私は耐え続けているのです。そんな私を変態扱いするのはどうかと思われます。むしろ、被害者たる私に対して謝礼をするべきかと思われます。その謝礼としてベティちゃんの尻尾をもふもふさせてくださいお願いします。なんらお金を払いますので、ご一考のほどよろしくお願い致します」


 そう言って私は土下座を致しました。


 ええ、それこそ見事すぎるほどの土下座を披露しました。そんな私をレンさんはどうしようもないものを見るような、それこそゴミを見るような目を向けてくださいました。いまにも唾を吐かれてもおかしくないほどに、それはそれはとても軽蔑の籠もったまなざしでございました。


「……ふむ」


 そんな私を見て、国王様はなにか考えるような素振りでした。呆れているようにも見えるのですが、どちらかと言えば、若干頬が赤らんでいたように見えましたね。……いったいどういうことなのかはさっぱりとわかりませんが。


 そんなやりとりがあった後、国王様はレンさんとベティちゃんが席に座ると、咳払いをひとつされてから改めて自己紹介をされました。街中では「私」と仰っていたのに、この場では「余」と改められていました。


 街中という不特定多数がいる場よりも、孤児院の食堂内という特定少数がいるからこその改めなんでしょうが、やはり「私」よりも「余」と呼ばれる方が合っています。その一言で思います。ああ、この人はやっぱり国王様なんだなと。


「本来であれば、謁見の間で言葉を交わしたいところだが、ああいう畏まった場はどうにも苦手でな。そもそも謁見の間などで交わす言葉ほど空虚なものもなかろうて」


「どういうことですか?」


「そのままの意味だよ。ああいう場で交わす言葉というものはな、華美ではあるが非常に曖昧であるのだ。この前なんて酷かったぞ? 余に謁見しておいて、自分の要望だけはとことん言うくせして、こちらからの要望は「承知致しました。ですが、いまは少々余裕がありませんので、少しお時間をいただきまして、いくらか余裕ができましたらできる限りのことを」と抜かした商人がおったわ。あれが言ったのは要は「いまは余裕がねえからやらねえ。でも余裕ができたら気が向いたらやってやんよ」ということだ。その場では笑って許してやったが、その後にちょいちょいとオシオキをしてやった」


 笑いながらなんとも言えないことを仰る国王様。謁見した商人さんの言うことも言うことですが、その後に笑って「オシオキ」と言い放った国王様の笑顔の黒いこと。その様を見て、「あ、やっぱりこの人国王様なんだな」と先ほどと同じ事を、別の意味で思いました。


「オシオキの内容は具体的には爪を少々だな」


「内容は言わなくていいです」


「そうか? わりといい声で啼いていたが」


 さらりとひどいことを仰る国王様に私はまたなにも言えなくなりました。同時に背筋がぞくりと振るえそうになりましたね。もっと言えば、爪が非常に疼きました。この人を怒らせちゃいけない。しみじみとそう感じました。


「陛下、あまりアンジュさんをからかうのはどうかと思われますよ?」


 やれやれとため息交じりに国王様の前にお茶を置かれるシスター・アルカ。シスター・アルカに国王様は「やはりダメかな?」と笑っておいででした。


「……えっと、いまのって冗談なんですか?」


「ええ、冗談ですよ。あくまでも私が知る限りはですが。いくらなんでもそんな失礼極まりない商人なんているわけありませんし」


「仮にいたとしたら、さすがに族滅する」


「……それは冗談ですか?」


「わりと本気だな」


 やはりなんとも言えないことを国王様は仰いました。


 本気なのか冗談なのか、さっぱりとわかりません。それとやっぱりこの人は怒らせたらいけないと思います。


「アンジュ様、アルトリウス陛下はさすがに族滅までのことは、よほどのことがない限り致しませんよ。「英傑王」と呼ばれるお方なのです。そんな残酷なことはさすがに」


「まぁ、やるときはやるがね。たとえば国に仇成すと感じれば、余は躊躇はせぬ。なによりも優先すべきは国であり民である。民なくして国はなく、国なくては王は存在せぬ。ゆえに王がもっとも優先するのは民である。その民に毒牙を向けるというのであれば、それは余によっての敵である。敵相手に情けを施す必要はあるまい」


 にやりと口元を妖しく歪めて笑う国王様。でも、その笑みには自身の損得を勘定しようとする卑しさは感じられなかった。心の底から民のためを思っているということがわかりました。


「……アルクが心酔するはずだ」


 ぼそりとレンさんがなにかを呟かれました。なにを言ったのかと尋ねようとしたけれど、それよりも早く国王様が口を開かれました。


「では、今度はそなたたちだな。もう一度名乗って欲しい。あの場では簡略だったから、もう少し詳しく。それとなぜ首都に来たのかも含めてな」


 国王様は笑っておいででした。笑いながらもその目はどこか鋭かった。それは私たちが国王様にとっての敵かどうかを確かめるためなのでしょう。すべては民のため。国王様の仰った言葉の意味を噛み締めながら、私たちはそれぞれに国王様に自己紹介をしていくのでした。

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