rev1-64 ぬくもりを失っても
う~ん、三ヶ日に更新できなかった←汗
仮面の下がわずかに露わになった。
青い目が見えた。レアともプーレとも違う色合いの瞳がまっすぐに俺を捉えている。その青い瞳には見覚えがある。いや、見覚えしかない。忘れるわけがないものだ。
宙には茶色の髪が舞っている。枝毛が増えただのなんだのと、本人は不満げに言っていたことがあった。俺の髪が羨ましいとも言っていたのをよく覚えている。俺としてはあの茶色の髪も好きだったから、そんなに不満げになることかなと思っていた。
わずかにだけど露わになったのはそのくらいだ。
でも、そのくらいの情報でもわかるものはわかる。
目の前にいるのはアルトリアの偽物の死体だと思っていた。
だから斬り捨てられると思っていた。
いや、斬り捨てなきゃいけないと思っていた。
なのに、なんでこんなことになるんだろうか?
どうして手が緩むことになってしまうんだろうか?
「……希望」
目の前にいるのは、希望だった。希望の死体だ。
体つきは違う。
身長だって違う。
年齢も違う。
でも、わかる。
目の前にいるのは、希望本人だった。
希望本人の死体だった。
その死体をアルトリアは使っている。
意味がわからない。
意味を理解できない。
どうしてこうなった?
どうしてこうなっている?
わからない。
なにもわからない。
なにも理解できない。
手は自然と止まっていた。
手が緩むどころの問題じゃない。完全に手が止まっていた。
「ふふふ、どうされました? 旦那様」
くすくすとアルトリアが笑っている。
でも、その声はほとんど頭の中に入ってこない。
いや、アルトリアの声だけじゃない。
頭の中を占めるその人以外のことはどうでもよくなっていく。
「なんで、希望が?」
なんで希望がいるのかがわからなかった。
希望は「ルシフェニア」の手の中にある。
ただ、どういう意味でなのかはわからない。
でも、他の嫁たちが悉く命を狙われたのであれば、希望だって同じはず。つまりは、あいつらの手に落ちた時点で希望は……。
その希望がなんでいまここにいるんだろうか?
それも明らかに若返った状態でだ。
もともと希望は俺と同じ年齢だ。産まれた日も同じだった。だから同じ十六歳になっているはずだった。
でも、その十六歳のはずの希望がなんで若返っている?
仮面からわずかに覗く素顔や体つきは、どう見ても昔の希望のものだ。それこそ「エターナルカイザーオンライン」をプレイし始めた頃の希望のものだった。
どうして十六歳であるはずの希望が、十三歳頃の希望になっているんだろうか。
理解できないことばかりだ。
でも、目の前にいるのはたしかに希望だった。
希望本人がたしかに目の前にいる。
どうしてこうなったんだろう。
どうしてこうなってしまったんだろう。
困惑だけが頭の中にある。
その困惑が動揺を呼ぶ。その動揺が体を止めさせてしまっていた。
「隙だらけですよ、旦那様?」
くすくすと笑うアルトリアの声。アルトリアが剣を振るってくる。まっすぐ抉りこむような突きが放たれる。けれど俺は避けることもできず、右肩に一撃を貰った。
血が舞い、肉が飛んだ。骨は砕けなかったけれど、戦力がいまの一撃でえわずかに低下したことはたしかだ。
右肩は鋭い痛みが走っている。
でも、肩を押さえる気にはなれない。
押さえようとも思わなかった。
俺にできるのは、目の前にいる希望を見つめることだけだった。
「なんで、希望」
「ふふふ、すっかりと私は目に入っておりませんか。妬けてしまいます、ね!」
剣を返すと、アルトリアはすぐに高々に振り上げた。振り上げられた剣をアルトリアは躊躇なく振り下ろしてくる。
突きよりも危険な一撃だった。
突きは殺傷力が高い一撃けれど、特に効果的な部位は頭か心臓を狙うというもの。アルトリアのそれは心臓も頭も狙っていなかった。
たぶん、それもあって俺は避ける気になれなかったんだと思う。
でも、今回の振り下ろしも殺傷力が高い。振り下ろした一撃で人が死ぬことだってある。それに一点集中の突きよりも線での攻撃のため、より被害は増える。
そんな一撃を前にしたからなのか、俺の体は自然と回避行動を取り、アルトリアの剣は空を切った。が、そのままアルトリアは剣を斜め上に振り上げてきた。俗に言う切り返しだった。
でも、その一撃も俺は避けていた。
なぜか避けることができていた。
いや、致命傷になりえる攻撃だけを避けている気がする。
まぁ、肩を抉られた突きも十分に致命的なものではあるけれど、あの一撃で死ぬわけじゃない。右肩は痛みが強すぎてうまく動かせないから、事実上致命的かもしれないが、それでも俺はまだ生きている。生きて動いていた。だから問題はない。いや、問題だと頭が捉えていなかった。
「どうして」
「……旦那様はどうして私を見ないのですか? 見てくださらないのです? 私はこんなにも愛しているのに!」
アルトリアがまた剣を振り上げていく。いくらかムキになっているんだろうか、同じ動きを見せてくれている。さっきの振り下ろしはとても速かった。でも対応ができた。だから今回もできそうな気がしていた。そう思う自分がとにかく不思議だった。
「私を見てください!」
アルトリアの剣が一瞬止まった。力を込め、体重を乗せるための一瞬の隙。その隙を衝くように俺の体は動いていた。アルトリアの左手へと手を振り上げる。力はそんなに入れなかった。ただ速く振り上げた。そうして振り上げた手はアルトリアの左手のふくらみ部分に当たり、アルトリアは剣を手から落としていた。
「なっ!?」
アルトリアの目が見開かれる。
けれど、俺にはどうでもよかった。
(……顔が見たいな)
右手に持っていた魔鋼の刀を左手に持つと、そのままアルトリアの仮面めがけて切り上げた。仮面は上下に割れ、その下からは紛れもない希望の顔があった。驚愕に染まった希望がいた。
「い、いまのは」
アルトリアが驚いている。いや、アルトリアじゃない。希望だ。希望が驚いている。そんな希望を落ち着かせるようにと俺は腕を伸ばし、そっと抱き寄せた。
ぬくもりはない。
心臓の鼓動もない。
それでもたしかに希望だった。
「希望」
万感の思いを込めながら俺は彼女の名前を口にした。




