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Act1-53 白昼夢~伝言~

PV30000突破しました!

いつもありがとうございます。

今回は、ガールズラブタグが本領発揮していますので、苦手なひとはご注意をおなしゃっす


『さようなら、カレンちゃん』


 いまでも忘れられない、最期に見せてくれた、「彼女」の笑顔を、俺は忘れられないでいる。


 その笑顔を再び目にしている。幻じゃない。夢でもない。現実として、俺は「彼女」の笑顔を、モーレの笑顔を目にしていた。


「モーレ、なのか?」


 恐る恐ると、声を掛ける。モーレは真っ白な、ワンピースを身に着けて、笑っていた。


 少し離れた場所で佇んでいる。


 一歩踏み出すと、もう止まらなかった。気づいたときには、モーレを抱き締めていた。


「モーレ。モーレっ」


 涙がこぼれる。止めようと思っても、止まらない。ただただ溢れ続けていく。


 拭うこともせずに、腕の中に失った友人のぬくもりを感じていく。


「ふふふ、泣き虫さんになっちゃったみたいだね、カレンちゃんは」


 くすくすと腕の中でモーレが笑う。笑いながら、背中に腕を回してくれる。


 モーレの小さな手に背中を撫でられる。


 くすぐったかった。けれど、とても心地いい。されるがまま、モーレを抱き締めていく。


「私って、意外と愛されていたんだねぇ。こうしてハグハグしてもらっているもん。アルトリアちゃんもここまではしてもらっていないから、私の勝ちかな」


 勝ち誇るかのようにモーレが、にやりと口角を上げる。とてもモーレらしい仕草だった。


「勝ちって、別に、俺とアルトリアはそういう関係じゃないし」


「ふぅん? それにしては、アルトリアちゃんを抱いて、恋人になっちゃえ~みたいなことを考えていなかったかな?」


 下から見上げられる。


 背丈はいくらか俺の方が高いからか、自然と上目遣いをされてしまう。


 アルトリアの上目遣いにも弱いけど、モーレの上目遣いにも俺は弱いようだ。


 顔が赤くなるのを感じつつ、つい顔を逸らしてしまう。


「顔を逸らすってことは、図星かな? むぅ、お姉さんの魅力でメロメロにしてあげられたと思っていたんだけどなぁ。やっぱり乳か」


 頬を膨らませながら、モーレが自身の胸元を見やる。


 すとーんとしている。俺同様に、胸元はすとーんとしていた。


 なんだか無性に物悲しくなってしまうが、それはそれだ。だが、誤解は解いておくべきだった。


「そ、そんなことないよ。別に胸なんて、ただの脂肪の塊であって」


「でも、その脂肪の塊を押し付けられて、いつも喜んでいるよね?」


 じとーという擬音が聞こえてきそうなほどの視線を向けられた。


 なんだろう、この奥さんに浮気がバレた旦那みたいな状況は。


 まぁ、俺の場合は浮気なんてしていない。


 そもそもモーレとは友達だし、アルトリアとだって恋人ではない。


 なのだけど、なぜだろう、この妙な息苦しさは。異様なほどのプレッシャーを感じる。


「よ、喜んでねえし」


「顔を逸らさない」


「……ハイ」


 うん、なんだ、この尻に敷かれ感は。


 嫁に頭が上がらない旦那の図じゃないか。まぁ、俺は結婚していないけどさ。


「まぁ、いいよ。意外とむっつりだったっていうのは、十分理解できましたから」


「む、むっつりじゃないし!」


「誰もカレンちゃんとは言っていないよ?」


 墓穴を掘る、というのはこういうことなんだろうなと、しみじみと思った。


「も、モーレの意地悪」


「そうだよ、お姉さんは、とっても意地悪なんだよ? そんな意地悪なお姉さんを、夢中にさせたのが、女の子なのに、イケメンな子だけどさ」


「む、夢中って別に、俺とモーレは」


「そうだね。私とカレンちゃんは、友達にしかなれなかった。ううん、友達どまりで終わっちゃったね。私がもっと早く自分の気持ちに気付いていれば、カレンちゃんをたっぷりと誘惑できたんだけどなぁ」


 残念と唇を尖らせるモーレ。


 とても不満げだけど、それがどこまで本気なのかがわからなかった。


 そもそもこうしてモーレと出会っていること自体が、本当のことなのかがわからない。


 もしかしたら、本当に夢や幻だったのかもしれない。それはいまでもわからない。


「ゆ、誘惑って、冗談は」


「冗談じゃないよ?」


 モーレが笑顔を消し、真剣な表情を浮かべる。


 いきなりの変化に、慌ててしまう。


 そんな俺を見つめながら、モーレが顔を近づけて来る。


 え、と思ったときには、唇に柔らかなものが触れた。


 ほんの一瞬だったけれど、たしかに触れていた。


「も、モーレ?」


「……私の好きは、こういう意味の好きだったんだよ? 知っていた?」


 目を少し細めて、モーレは笑った。


 その笑顔はそれまでの笑顔とは違い、大人っぽい笑顔だった。


 大人の女性が浮かべる、落ち着いた表情に、どくんと胸が高鳴っていく。


「ファーストキス、二度も貰っちゃった。ごめんね、いきなりしちゃってさ」


 申し訳なさそうにモーレは、表情を曇らせる。そんな顔を見たかったわけじゃない。


 だけど、モーレにそういう表情を浮かべさせているのは、ほかならぬ俺自身だった。


「モーレ、俺は」


 モーレの指が唇に触れた。


 それ以上は言わなくていい。言外でそう言われているのはあきらかだった。


 なにか言うべきだと思う。


 けれど、それをモーレは望んでいないというのが、わかってしまう。わかってしまった。


 だから、なにも言うことができなくなった。


「ありがとうね。ファーストキスをくれて、嬉しかったよ。できれば、私が生きているうちにしてほしかったけれど、私が生きているうちは、カレンちゃんはしてくれなかっただろうから、仕方がないよね」


 モーレは口角を上げて笑っているけれど、その笑顔は一目でわかるくらいに悲しみに満ちたものだ。


 なにを言えばいいのか、なんて言ってあげればいいのか、俺にはなにひとつわからなかった。


「……なにも言わないでね。私の人生はもう終わっているんだ。いまこうしているのだって、スカイストさまのご慈悲なんだもの。でなければ、私は君の前に現れることはできなかった。けどね、ずっと見ていたよ。カレンちゃんが私だったものを抱きかかえながら、必死に戦ってくれていたところを。元の世界に帰るために、必死になっていたところを。私はずっと、ずっと見ていた」


 ずっと見ていた。モーレがずっと俺を見ていてくれた。


 それだけのことが、なぜか嬉しかった。


「だからこそ、気がかりができてしまった。ねぇ、カレンちゃん。カレンちゃんは、いま本当に正気なのかな?」


「え?」


 言われた意味がよくわからない。


 正気もなにも、俺は狂ったわけじゃない。


 なのになんで正気かなんて言われるのか、モーレがなにを言いたいのか、よくわからない。


「いまのカレンちゃんは、どこかぶれているもの。私がいなくなったせいかな、って最初は思っていた。けれど、それだけだとは思えないくらいに、いまのカレンちゃんはぶれているよ。自分の気持ちを貫き通せとは言わないよ。でも、いまのカレンちゃんは、どこか普段のカレンちゃんらしくない気がしてならないんだ。ねぇ、本当にカレンちゃんは、諦めちゃうの? 元の世界に帰って、家族と友達に会いたいんじゃなかったの?」


 なにも言えなかった。たしかに最近の俺は、ぶれている。


 というか、妙に弱気になってしまっている。


 順調な売りあげが出ているはずなのに、妙な不安に突き動かされていた。


 いったい、いつからそうなったのか、よくわからなかった。


 ただ、たしかに俺らしくない。いつもの俺であれば、初期の売り上げだけで、こんなに不安になることはないはずだった。


 けれど俺は不安になった。攻めることを忘れて、保守的な考えになりつつあった。


 机上の空論と実践の違いと言えば、それだけなのかもしれない。


 でも、なにかが違うような気がしてならなかった。


「……まぁ、全部私の嫉妬から来る考えっていうだけかもしれないけどね」


 モーレが体を離した。同時に、モーレの背中に白い翼が現れた。


 翼がはためき、純白の羽根が宙に舞う。


 きれいだった。


 見惚れてしまうほどに、きれいな光景だった。ただモーレは小さくため息を吐いた。


「そろそろ時間みたい。私がカレンちゃんを独り占めしているのを見て、スカイストさまが怒っているみたい」


 くすくすとモーレがおかしそうに笑うが、言われた意味がよくわからない。


「母神さまが?」


 なんでこの世界の母神さまが、モーレと一緒にいるだけで、怒り出すのか。


 俺は母神さまに会ったことはない。なのに、なんで怒るんだろうか。


 それとも俺は母神さまとどこかで会っているのだろうか。


「なぁ、なんで母神さまは」


「ん~。それはスカイストさまから聞いた方が速いと思うよ?」


「それって、もしかして」


「あ、スカイストさまは、こちらには来られないよ。ただ伝言は預かっているけどね」


「伝言?」


 てっきり母神さまが降臨されると思ったのだけど、早とちりしてしまった。


 そんな俺にモーレは母神さまからの、伝言を口にしてくれた。


 そもそもなんで伝言があるのかと思ったけれど、話の腰を折る気はなかったので、黙って聞くことにした。


「「「六神獣」に会いなさい。それですべてがわかる」って言われていたよ」


「「六神獣」? それにすべて? すべてって」


 伝言の中身は、はたして伝言と言えるのだろうかという内容だった。


 メッセージ性はあるけれど、その意味がまるでわからない。


 そもそも「六神獣」ってなんのことなのか、この時点の俺にはまるでわからないことだった。


「ふふふ、そこは自分で確かめてね」


 モーレは意地悪そうに笑うと、地面を軽く蹴った。


 モーレの背中の翼がはためき、空へと向かって上昇していく。


 それはおとぎ話に出て来る天使のような姿だった。


「また会おうね、カレンちゃん。いつまでも大好きだよ」


 笑いながら、モーレが光に包まれていく。


 眩しさにまともにモーレを見ることができず、まぶたを閉じた。


「ギルドマスター? どうなされましたか?」


 声が聞こえた。まぶたを開きながら、声の聞こえた方を見ると、俺をからかっていた女性冒険者が不思議そうに首を傾げていた。


 それだけじゃなく、セピア色に染まっていた世界に、色が戻っていた。


「ギルドマスター?」


「……なんでもありません。少し疲れたようです。首都まで護衛をお願いできますか?」


「あ、はい、もちろんです。御身は我々が守りますので、ご安心を」


 恭しく女性冒険者が頭を下げた。ほかの冒険者たちもそれぞれに頭を下げてくれた。


 ありがとうとお礼を言いながら、先頭を歩く。


 冒険者たちが慌てる声が聞こえる。だけど俺は振り返ることなく、歩き続けた。


「……夢だったのか?」


 よくわからない。わからないけれど、モーレとまた出会えた。


 それだけははっきりとわかった。心が少しだけ軽くなったのを感じながら、俺は冒険者たちと一緒に首都へと戻った。

聖杯戦争ならぬ、正妻戦争勃発←笑

カレンは、やっぱり尻に敷かれるタイプなんでしょうね←しみじみ

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