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rev1-32 その姿に棘を刺されて

こんばんは。

今回もイリア視点となります。


「……なんだ、おまえらだけなのか」


 それはレン様と別れてからのことだった。


 山頂にあるお社へと続く道の途中で、アンジュを助けに獣道を進まれたレン様と別れて間もなく、私たちは彼女と、プロキオンと出会った。


 プロキオンがいたのは、レン様が向かわれた獣道のある通りの先、ちょうど曲がり角をひとつ越えた、少し開けた場所だった。その開けた場所で彼女はまぶたを閉じて、ひとり佇んでいた。口元を覆面で隠し、降り積もる雪の中で立ち尽くしていたプロキオン。その様子は彼女の見目、特に美しい銀髪のおかげで幻想的に見えた。


「ばぅ。きれーなの」


 立ち尽くしていたプロキオンを見て、ベティちゃんは見とれていたようだった。でもそう言うのもわかるほどに、そのときの彼女はたしかに美しかった。


 たとえ覆面の下が肉のない骨だけの、アンデッドそのものの姿であったとしても、その姿はたしかに美しかった。……まるで本当にシリウスちゃんが、スカイディアを道連れにして時の彼方へと消えたあの子がアンデッドになったようにさえ思えた。


(……本当にシリウスちゃんなのかしら)


 レン様はプロキオンをシリウスちゃん本人だと考えているようでもあった。同時に別人であるとも考えられているみたい。


 それはレン様だけではなく、私とルリ様も同じだった。


 シリウスちゃんとしか思えないのに、シリウスちゃんとはどこか違う。あの子は巧妙に隠してはいたけれど、常に焦っていた。それはプロキオンも同じだけど、プロキオンの焦りとシリウスちゃんの焦りはまるで別物だった。


 シリウスちゃんの焦りは、残り少ない時間の中で、レン様のためにどれだけのことを成せるのかを考えていたから。


 対して、プロキオンのそれは「まま上」と慕う人の関心を得るにはどうすればいいのか、という。「まま上」に愛されたいがゆえに功を焦っているように思えた。


 プロキオンと会ったのはほんの一回だけ。


 でもその一回で彼女の本質はなんとなくわかった。


 同時に彼女の危うさも見て取れた。


 その危うさはシリウスちゃんを彷彿させるものだけど、どこか違う。レン様自身、「シリウスとは少し違う」とはっきりと言われた。シリウスちゃんと誰よりも長く接しておられたレン様が、あの子の「パパ」として接しておられたレン様が「違う」と言われたのだから、プロキオンとシリウスちゃんはおそらく別人なのだろう。


 けれどその一方でレン様は「違うところはあるけれど、あの子はたしかにシリウスでもある」と言われていた。


 まるで言葉遊びのような言い方ではあったけれど、レン様の中ではプロキオンはシリウスちゃんとは違うけれど、シリウスちゃんでもあるという答えが出されたようだった。


 矛盾した答えだけど、きっとそれは正しいのだろうと私は思っていた。


 というのもひとつ仮説があったから。誰にも話してはいない仮説。その仮説が正しければ、レン様の矛盾した答えが正解ということになる。なるけれど、その答えはあまりにも残酷すぎる。


 だから口にはできなかったし、したくなかった。胸のうちに秘めるしかなかった。


 でもその仮説の鍵を握る人物が、プロキオンの背後にはいる。


 その人物の元へと私たちは向かっていた。その道中にプロキオンはいた。まるで番人であるかのうに。


 正直言うと、プロキオンには会いたくなかった。


 それこそできれば、二度と会うこともなければいいとさえ思っていた。


 だが、そのプロキオンは現れた。


 考えてみれば当たり前だ。


 姉様が山頂にいる。


 となれば、その道中でプロキオンがいるのは、ある意味当然のことだった。


 そのプロキオンはレン様がいないことに残念がっているようだった。直接は口にしていなかったけど、心なしか、尻尾が垂れ下がっていた。


 その言動はやはりシリウスちゃんそっくりだった。……そのことが棘のようにちくりと胸に刺さった。


 そう、シリウスちゃんに似ている。その事実は私の胸をわずかに騒がせる。その理由はわからないけれど、あまりいい気分ではなかった。


 もっと言えば少しだけ腹が立った。


 プロキオンがあまりにもシリウスちゃんを想わせることになぜか私は腹を立ててしまっていた。その理由はよくわからない。わからないまま、プロキオンは顎をしゃくるようにしてまるでついてこいと言うようにして踵を返した。


 曰く──。


「まま上が待っている。私はその道案内だ」


 ──彼女の「まま上」が私たちを待っているようだった。おそらくは私たちではなく、レン様を待っているのだろうけれど、あの人は詳細までは伝えなかったようだ。それが余計に私の抱く仮説に真実味を与えてくれた。


 それでもどうにか取り乱すこともなく、ことを荒立てることもなく私はルリ様たちと一緒にプロキオンの後を追いかけた。その際、ベティちゃんはプロキオンに何回か話しかけはしたが、プロキオンが返事をすることはなかった。そんなプロキオンにルリ様は苛立っておいでだったが、どうにか抑え込まれていた。そうして特に問題なく、私たちは山頂への道を進み、そして──。


「ふふふ、久しぶりね」


 ──山頂のお社の前でにこやかに笑う姉様と再会したのだった。

イリアがいろいろと変化していますが、まだ具体的にはなっていません。まぁ、具体的になると修羅場るわけですが←黒笑

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