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Act1-51 ゴブリン退治~兄の教え~

本日二話目です。

ややグロなので、ご注意を。

 ゴブリンキングが出てきたことで、戦法は変えずにはいられなかった。


 ただやることは変わらない。俺がすべきことは、ゴブリンどもの殲滅。ゴブリンどもを一匹たりとも逃す気はない。


 だが、そのためにはゴブリンキングが邪魔だった。


 ゴブリンどもを殲滅するが一番の目的だが、通常のゴブリンどもを殲滅するのに集中して、一番の大物を逃すわけにはいかない。


 ゴブリンキングが生きている限り、ゴブリンどもはまた数を増やすことになる。


 そうなるまえに、ここでゴブリンキングの息の根を、確実に止めなければならなかった。


 そのためには、ゴブリンどもが邪魔だった。


 あっちを立てれば、こっちが立たない。


 往々にして、どうにもうまくいかない状況になりつつあったが、一番手っ取り早い手段を俺は取ることにした。


 そしてそれはそれまでとさほど変わらないことでもあった。


「行くぞ、シリウス。ちゃんと捕まっておけよ」


 緑色の肉の壁に向かって、駆け抜ける。


 はるか先にいる、ゴブリンキングに向かって、一直線に駆け抜けていく。


 そう、俺が手っ取り早い手段として選んだのは、頭を潰すこと。


 つまりはゴブリンキングめがけて突き進むことだった。


 少数対多勢で戦う場合、もっとも勝率が高いのが、相手の総指揮官を倒すこと。


 要は大将首を取ることだ。


 大将首を取れば、その時点で士気は下がる。


 下手をすれば、それだけで瓦解することだってあり得る。


 あとは瓦解した連中に追撃を仕掛ければいい。


 古代の戦から変わることなく受け継がれる、最大の勝利方法だった。


 しかしそれは相手だってわかっている。


 だからこそ大将の周囲に厳重な警備を敷く。


 大将を討たれれば、それで負けなのだから、当然だった。


 その警備を掻い潜り、いかに首を取るか、真ん中の兄貴である和樹兄に、嫌と言うほど教えられたことだった。


「まずは、全体を見ろ。そしてもっとも層の厚い部分に向かって駆け抜けろ。できるだけ派手に暴れるといい。相手はそこにより戦力を集中して、自分から手薄な部分を作ってくれる。そこへ伏兵での奇襲だ。それでだいたい勝負は決まる」


 和樹兄が戦術を教えてくれるときは、たいてい将棋を指しているときだ。


 昔から、守りを固めていたところに、大駒を打たれる。


 大駒を取ろうと動くと、かえって駒を次々に取られていき、やっとの思いで大駒を取ったときには、王手を打たれる。


 和樹兄と指すと、いつも決まって同じ戦法で負けてしまう。


 ただ戦法は同じでも、やり方はいつも違っているので、いまも昔も対処できないまま負けてしまっていた。


「もっと全体を見られるようになれ、香恋。いまのままじゃ、母さんに似て、できのいい頭が台無しだぞ?」


 一局が終わると、和樹兄はいつも俺の頭を撫でてはそう言っていた。


 兄貴たちの中で、一番真面目で、温厚な人だった。


 毅兄貴はいつまでも経ってもやんちゃで、弘明兄ちゃんは根暗なところがあるうえに、誰よりもスパルタだった。


 その点和樹兄は、いつも俺のことを気に掛けてくれる優しい人だった。


 正直な話、兄貴たちたちの中で俺が一番懐いていたのは、和樹兄だった。

 

 和樹兄がこの場にいたら、俺の戦い方を見て、どう思うだろうか。


 和樹兄の教えてくれた方法で戦う俺を見て、なんて言ってくれるだろうか。

 

 もっとも層の厚い部分に向かって駆け抜ける。


 俺がゴブリンキングであれば、まず伏兵を疑う。


 周囲に隠れている仲間がいないかどうかを確かめる。


 けれど見晴らしのいい草原に、隠れられる場所など存在しない。それでも俺であれば、確認をする。


 ゴブリンキングは周囲を見回している。


 何度も何度も周囲の確認をしている。


 それでも俺がただまっすぐに向かってくるのを信じられないような目で見つめている。


 雄たけびをあげる。


 ゴブリンキングがあげたものほどではないけれど、腹の底から雄たけびをあげた。


 魔鋼のナイフがきらめき、首が飛ぶ。緑色の肉の壁の中で、血が次々に噴き上がっていく。


 止まらない。止まる気はない。ただまっすぐに駆け抜ける。


 大将首を取るまでは、止められない。ゴブリンどもの動きが鈍くなっていた。

 

 いつの間にかに、目を細めていたようだ。


 ゴブリンどもの動きが止まっていた。


 すでにゴブリンどもの壁の中の中ほどに達していた。


 風円脚を放ち、周囲のゴブリンどもを殲滅していく。


 すでにゴブリンどもの数は、三十を切っていた。


 ゴブリンキングが現れた際には、風円脚で一蹴した時点で、すでに半減していた。


 そこからさらに半減させたからだろうか、ゴブリンどもの抵抗はすでに弱々しいものになっている。


 なかには怯えて逃げ出そうとする個体もいたが、ゴブリンキングが睨み付けて阻止している。


 しかしいつまでも長続きするわけがなかった。


 再度雄たけびをあげた。ゴブリンどもの戦意を折るようにして叫ぶ。


 それでいて決して逃がさないと睨み付ける。


 ゴブリンどもの反応はそれぞれ違ったものだった。


 震えあがる者もいれば、ゴブリンの言葉を叫びながら、狂ったように武器を振り回す奴、失禁して笑いだす個体までいた。すべてのゴブリンがみずからの死を理解していた。


 ただゴブリンキングだけは、必死の表情でなにか指示を出している。


 しかしその指示を聞くゴブリンは一匹もいなかった。


 将棋で言う裸王──王将以外のすべての駒を奪われた状態になっている。


 もっともそうなるまえに、普通は投了するので、裸王になることは本来ありえない。


 しかしゴブリンキングは裸王となった。


 指示を聞く兵はもうおらず、自分の身を守るのは、自分以外にない。


 だが、それさえも敵わない。


 魔鋼のナイフを振るう。刀身に付着した血を払った。


 恐ろしいことに、魔鋼のナイフには、脂が巻いていない。


 刃物というものは、使えば使うほど、刀身に血の中の脂で巻かれてしまう。


 しかし魔鋼のナイフには、血の脂は一切ついていない。きれいな刀身のままだった。


「……とんでもないナイフだよな、本当に」


 ゴブリンキングは震えていた。


 震えながら、手に持っていた大剣を振り上げた。


 同時に踏み込み、振り下ろすのに合わせて、ナイフで切り上げた。


 ゴブリンキングの腕を切り飛ばす。


 ゴブリンキングは喚きながら、腕を抑えていた。


 腕を抑えながら、俺を見つめるそのまなざしは、恐怖の色に染まっていた。


「……おまえに直接恨みがあるわけじゃない。だが、おまえに生きていてもらうと困るんだよ。俺も生きるために必死なんだ。悪いな」


 軽く跳び上がると、ゴブリンキングと目線が合った。


 目だけじゃない。表情までもが恐怖に染まっていた。

 

 恐怖に染まったまま、ゴブリンキングの首は胴体と離れていった。


 ゴブリンキングの巨体が倒れ込む。


 その音で我に返ったゴブリンどもは、信じられないものを見るように俺を見つめていた。


 だが、言葉を交わす気はない。そもそもゴブリンどもの言葉を知らない。


 仮に知っていたとしても、交わす気にはなれなかった。


「残るはおまえたちだけだ」


 着地と同時に風刃脚を次々に放った。


 呆然としていたゴブリンどもでは、避けることはおろか、反応することさえもできなかったようで、ゴブリンどもの死体が増えていく。


 残り数匹となったところで、逃げだされた。が、遅い。


 目を細めて時間を止める。止まった時間の中、ゆっくりと歩き、すれ違いざまに首筋を切りつけていった。


 時間を戻したときには、ゴブリンたちは全滅していた。


「……仕事終了かな」


 五十匹退治するはずだったのが、気づけば百匹超えに加え、ゴブリンキングの「討伐」となってしまった。


「これ、俺以外だったら、やばかったんじゃないか?」


 ゴブリンキングの巨体を背もたれにして、その場に座り込む。


 むせかえるような血の臭いが充満していた。


 辟易としそうになるが、後始末をしないといけなかった。


 血の臭いでほかの魔物に来られたら、面倒だった。


「でも、少しくらいは休んでも」


 いいよなと誰に言うわけでもなく、口にしようとした。そのとき。


「な、なんだ、これ?」


 慌てるような声が聞こえてきた。見れば、二組ほどのクランが平原の入り口に呆然と立っていた。

明日は十六時更新になります。

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