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rev1-21 いまひとときだけは

四日ぶりになりました、ごめんなさい←汗

今回はアダルティーになっている、といいな←ヲイ

イリアが肩を大きく動かしていた。


普段は服で覆われている肌は汗にまみれ、真っ白なを汗で張り付いている。


(……無茶させたな)


イリアの隣に寝転びながら、隣で意識を手放している彼女をぼんやりと見つめていた。肌にはりついた髪をそっと掻き上げ、指通しのいい白髪の感触にしばらく浸った。


(今日はしないつもりだったのだけど)


本当なら今日はしないつもりだった。


ただ不意打ちでカルディアのことを聞かれた。


それが俺を崩した。


夕飯までは表面上は笑っていられた。


でも寝る時間になったときには、もう抑えることができなかった。


ルリとベティはいつもと同じ部屋を、アンジュにはイリアの部屋を使うように言い、イリアには話があるからと部屋に連れ込んだ。自分でも強引かなと思ったけれど、ルリとベティがアンジュには言い繕ってくれたようだ。


ふたりに連れられてイリアの部屋にアンジュは消えていったのだろう。バタンと扉が閉まる音が聞こえるのと同時に俺はイリアをベッドの上に突き飛ばしていた。その後の事はいまひとつ覚えていない。


だけど、イリアの消耗具合を見る限り、なにをしていたのかなんて考えるまでもないことだった。


「……レン、様?」


髪を弄っていたからか、イリアのまぶたがわずかに開き、カルディアよりも薄い色合いの瞳が俺を捉えた。


「……悪い。起こしたな」


言いながらイリアを抱き締める。腕の中でイリアはおかしそうに笑った。「お気になさらずに」とイリアは笑う。その笑顔は見目は違うはずなのに、カルディアを思い浮かべさせてくれる。


「……無茶させたよな?」


「……少しだけですよ」


無茶させたことをイリアは否定しなかった。自分でも無茶をさせたと思っていたから、イリアが頷くのもあたりまえだ。


「……悪い。本当にごめん」


「……お気になさらずに。たしかに少々情熱的すぎるお誘いでしたけど、私は嫌ではありませんでしたから」


ほんの少し頬を染めてイリアは言った。


(情熱的ってレベルじゃなかっただろうに)


イリアを抱き締めながらベッドの下を、ベッドの下で散乱するイリアの服を見やる。イリアの服はところどころが破れていた。中には引きちぎった痕と、引きちぎられた服の残骸もあった。……イリアが言う情熱的な誘い方を俺がした証だった。


「……殴っていいぞ」


「なぜでしょうか?」


「俺はイリアを抱いていない。抱いたんじゃない。俺はイリアを」


「……私はご寵愛をいただけたとばかり思っておりましたよ?」


「茶化さなくていい」


イリアはわざとらしく笑っていた。でもそれが取り繕ったものだというのはわかる。俺がイリアの立場だったらそういうしかないということは明らかだった。だからイリアが怒らないことが俺には信じがたいことだった。


「……怒っていいんだ。イリアは俺を怒っていいんだ。殴ってもいい。罵声を浴びせてもいい。俺は君に」


「……泣きながらする輩などいませんよ、主様」


イリアは右手でそっと俺の頬を撫でた。頬を撫でてくれる右の手首にはくっきりと俺の手の跡が刻み込まれていた。


いや、右だけじゃない。左の手首にも痛ましい跡が刻み込まれている。俺がしたことだった。俺がしてしまった罪の形だ。


「……ごめん。無理やりあんなことを」


「無理やりではありませんよ。まぁ、たしかに情熱的ではありましたけど、私は決して嫌ではありませんでしたから」


「そんなこと」


「……ほかの誰かに同じことをされたら、私はきっと抵抗したでしょうし、声も上げました。だって嫌ですもの。でも主様であれば嫌ではありませんでした。個人的にはもう少し優しくしてくださったらもっとよかったのですけどね」


ふふふ、とイリアは笑った。笑ってくれている。その笑顔は無理やり浮かべているものではなく、心の底から笑ってくれているものだった。


「……なんで」


「秘密です。いい女には秘密はつきものですもの」


イリアはまた笑っていた。


なにを言えばいいのかはわからない。わからないけど、俺はまた「ごめん」と謝った。イリアは「しょうがない主様ですね」と俺の背中に腕を回すと、顔を近づけると唇を重ねてくれた。


ここに来てからイリアとキスするのは珍しいことじゃなくなっていた。


呼吸もできない吹雪の中で酸素を口付けして送ったこともあるし、抱くときは基本的に口付けをする。そうして口づけをして俺たちの行為は始まる。


だからキスするのは珍しいことじゃない。ありふれたことだった。


でもそのありふれたはずの行為が、いまだけは特別なもののように思えた。


まぶたを閉じるイリアはきれいだった。


いや、イリアはすべてがきれいだった。朱色の頬も、火照り染まった肌も、そして雪のように真っ白な髪も。すべてがすべてきれいだった。


口づけを交わしながらイリアの肩を掴んで組み伏した。同時に背中に回っていたイリアの両腕がきつく絡み付いた。


閉じていたまぶたは開き、濡れるような瞳が俺を見上げている。


「……魅了の魔眼ではありませんから。姉様のと私のはまた別ですから」


心を読まれたのかと一瞬胸が嫌な具合に高鳴った。


だが、イリアは首をゆっくりと振ってから、「いまの主様は読みやすすぎます」と苦笑いしている。


「そんなに読みやすいか?」


「いまは、です。普段はお考えを読めませんが、いまは読めます。傷ついておられていますから」


「……そう、かもな」


傷ついている。


イリアの口にした一言になんて返事をしたらいいのかわからなくなる。


所在なくなった俺にと、イリアは顔を近づけ唇を重ねてくれた。触れあうだけの優しいそれに、涙が溢れた。


「……いまだけは、いまだけは私の体に溺れてください。主様ならきっと大丈夫です。ですからいまだけはなにも考えずに私に溺れてください」


涙が溢れる目元に口づけてくれながら、イリアは笑っていた。やはりなにを言えばわからなかったし、思い付かなかった。


だけどイリアの優しさにささくれた立った心が、少しだけ軽くなるのがわかった。


痛みはある。


悲しみもある。


切なさもある。


でもいまはそれらをしまいこもう。


思い出してしまう悲しい過去を、いまひとときだけは忘れていたい。


イリアのぬくもりだけを感じて、いまひとときだけは忘れていたい。


(ごめんな)


喪ってしまった人たちのことを、大切だった人たちを想いながらも、いまだけはイリアの熱に溺れることを許してほしい。


自分勝手にもほどがあることを思いながらも、俺はイリアを求める。


雪はまだしんしんと降り続けているのか、底冷えするような寒さがある。


でも部屋の中は暖かかった。


熱い息を肺から吐き出しながらも、ただイリアの熱に溺れていった。

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