rev1-20 その光景に
約1週間ぶりとなりました←汗
なかなか更新できず申し訳ないです。
あと誤字訂正いつもありがとうございます。たいへん助かっております。
「それでなんの用事だったんだ、アンジュ?」
乳酒とお風呂で体を温め、レンさんの対面に座ると、レンさんは本題、私が雪が降る中でひとり山道を歩いてきた理由について尋ねてきました。
ちなみに一緒にお風呂に入っていたイリアさんは、現在ご飯を作ってくださっています。ベティちゃんとルリさんはお風呂に入られており、リビングにはレンさんと私しかいません。
昨日までならレンさんとふたりっきりとか、考えたくもない状況でしたが、いまは不思議と居心地は悪くなかった。
ただ居心地は悪くないけど、妙な違和感はありました。
「……えっと」
「どうした?」
理由を尋ねられても言葉に困りました。というのも答えようがないのです。だって私自身なんでここに来たのかがわからなかった。
そう、私がここに来た理由はありません。理由はないけど、気づいたら山道を登っていた。いつもならゲイルさんにお供をお願いしますけど、今日はひとりで山道を登っていた。
危ないかなと山道を登りながら何度も思ったけれど、幸い魔物も雪が降りしきる中では出てくるつもりはなかったのか、魔物に襲われることはなかった。
ただ気になることはありましたけど、レンさんたちの小屋には村の子供たちを始めとして、村の人たちも定期的に通っているので、山道にレンさんたち以外の足跡があったとしてもおかしくはなかった。
「その、ですね。理由がないと言ったらどうされますか?」
「理由がない?」
レンさんは驚き半分あきれ半分という具合で私を見つめていた。
まぁ、無理もないでしょうけど。私がレンさんの立場だったら同じことを思ったでしょうから。
「理由もなしに、山道を登ってきたのか?雪が降っているうえに、もう夕方だっていうのに?」
レンさんは少し怒っているようでした。いままで散々と怒鳴られてきたけど、今日の怒りはいつもとは違っていた。というのもレンさんは私を心配してくれているようです。
「……明日は吹雪ですかね?」
「それは俺がおまえの心配をしたからたか?」
「だっていままで心配なんてしてくれたことないじゃないですか?」
いままでレンさんは私を心配してくれたことなんてなかった。なのにいきなり心配なんてされたら呆気に取られるのも無理もないことでした。
「まぁ、そう言われてしまのうも無理もないか」
レンさんは頭を掻きつつ、やや困っているようでした。
とはいえ、いままでがいままでだったのだから無理もないことです。それはレンさん自身理解していることのようです。
でも余計にわからない。
自覚しているのであれば、なんでもっと優しくしてくれないんでしょうかね、この人は?
普段から少しくらい優しくしてくれてもいいでしょうに。
まぁ、言ったところで意味がないことはわかっていますけどね!
「前々から私のことを目の敵にされていましたからね、レンさんは。そのレンさんがいきなり私の名前を呼んだり、体のケアをさせてくれたり、心配してくれたりするなんて逆に驚きますよ。なにか悪いものでも食べたのかなと」
「……そこまで言うか」
「言いますよ、あたりまえじゃないですか」
「あたりまえとまで言うの?」
「ええ。なにせそれだけのことをされてきましたからね」
「……そうだな」
レンさんがなんだかしおらしくなってしまった。いったいどういうことでしょうか。
普段素っ気ない人がしおらしくなった場合、ここぞと責め立てるというのが通例でしょうけど、不思議とレンさんを責め立てる気にはなれない。下手なことをしたら反撃をくらいそうですからね。
それになんだかレンさんにはレンさんなりの事情があるみたいですし。
ベティちゃんが言っていた「おねえちゃんたち」という言葉を考えると、ベティちゃんがレンさんを「おとーさん」と呼ぶことを考慮した場合、レンさんにはベティちゃん以外に娘さんがいたのかもしれません。
でもその娘さんたちはレンさんのそばにいない。それが意味するのは、ベティちゃんの「おねえちゃんたち」は亡くなられているのかもしれませんね。
加えてレンさんがギルドに駆け込んだときに叫んでいた「カルディア」という名前。雰囲気的に女性の名前でした。
レンさんは「カルディア」という女性に執着していた。それこそ涙ながらにあの狼の獣人の元に駆けつけるほどには。
それらの情報を踏まえると、「カルディア」という女性はベティちゃんの言う「おねえちゃんたち」のひとりということ。レンさんが亡くした娘さんということなのでしょう。
もしかしたら違うかもしれないけど、少なくともレンさんのご家族であったことは間違いないはずです。
(まだお若いでしょうに、娘さんが複数いるとか、どういう人生を歩めばそうなるのやら)
娘さんがいるだけで早すぎるくらいなのに、その娘さんが複数いるというのだから信じられない。
でもベティちゃんが嘘を吐くとも思えない。となるとやはりレンさんは、複数の娘さんたちがいて、その中には「カルディア」という子がいたということに──。
(……あれ?でもレンさんはたしか狼の獣人さんの特徴を聞いたときに、15、6歳って言っていなかったっけ?)
普通に考えたら、15、6歳なんて娘さんの年齢としては問題ない。
けれど、レンさんは雰囲気的に十代のはず。十代のレンさんの娘さんというには、年齢が高すぎる。むしろ──。
「奥さん、とか?」
「……なんの話だ?」
「え?あ、す、すいません!ちょっと考え事を、あははは」
つい口に出していたようで、レンさんが怪訝そうな顔をしていました。ごまかそうにもレンさんはごまかせそうにはない。いえ、ごまかすことはできるでしょうが、いまほどレンさんに詳しく話を聞くチャンスはない。
(もしかしたら私が今日ここに来たのは、レンさんから話を聞くためなのかな?)
自分でも理由はわからなかった。でももし、レンさんの話を聞くためだったとすれば、いまほどふさわしい状況はほかになかった。
「あの、レンさん」
「あん?」
「その、カルディアさんって、レンさんの娘さんでしょうか?」
「……カルディアが娘?」
「ええ。あの狼の獣人さんに向かって「カルディア」と叫ばれていましたし。ベティちゃんが「おねえちゃんたち」と言っていましたから、娘さんのひとりなのかなぁ、と」
「……違うよ。カルディアは娘じゃなくて、俺の妻だよ」
「妻ってこと、奥さんということで?」
「まぁ、正確には嫁扱いしていたというだけで、婚姻してはいなかったけど、な」
レンさんは遠くをじっと見つめていました。仮面で顔がほぼ隠れているため、いまどんな表情を浮かべられているのかはわからない。
でもわずかに覗く右目は悲しみの色に染まっていた。
「もしかして、カルディアさんは」
「お待たせいたしました」
思い至った一言を口にしようとした、そのとき。イリアさんが台所から湯気を立てるバンマーの肉鍋を持ってこられました。
バンマーの肉鍋はここら一帯での定番の家庭料理であり、ご家庭ごとに味付けが異なるものです。イリアさんが作られたそれは、ややスープの色が黒っぽい。でも食欲をそそる香ばしい匂いがしていました。
「ばぅばぅ!ごはんなの!」
「これ、ベティ。ちゃんと髪を拭かんと風邪を引くぞ」
イリアさんが台所から戻られてすぐにベティちゃんとイリアさんがお風呂を上がられたようです。ただベティちゃんは髪を拭いていないようで、ルリさんがタオルを持って追いかけていました。ほかほかのベティちゃんも実にかわいらしいです。
「……話はまた今度な」
それだけ言うと、レンさんは髪をちゃんと拭いていないベティちゃんの元へと向かい、ルリさんからタオルを受けとるとベティちゃんの髪を拭いてあげています。
そんなレンさんとベティちゃんを見やるルリさんとイリアさんはとても穏やかに笑っていました。それこそ本当の家族のようにです。
(カルディアさんがいたら、また別の光景だったんですかね?)
よくわからないけど、カルディアさんがいたらまた別の光景だったんだろうなぁとなぜか思ってしまった。
「さぁ、ご飯にしよう」
ベティちゃんの髪を拭いたレンさんの言葉を皮切りにその日の夕食は始まったのでした。
続きはできるだけ早く更新したいです。




