rev1-15 降りゆく雪の中で1
えー、更新止まっていました。すみません←汗
藤原啓治さんロスのショックが思ったよりも響いている模様ですね。「二人の白皇」アニメ化決まっているのにどーすんだろう←しみじみ
あとFF7リメイクのティファが思ったよりも狙っていますね。「もうおまいら結婚しろよ」と言いたくなりました。え?プレイしていたのか?買っていないね、とだけ言わせていただきます←ヲイ
あとクラウドが「水の呼吸」とか言い出しそうで怖いなぁと思っていたり←マテ
さて、今回はちょっとしんみりムードです。……途中までは
雪が降っていた。
霊山という名のこの雪山では、珍しいほどに静かな雪だった。
それでも雪は雪だった。雪が降れば自然と気温は下がる。
息を吐けば、部屋の中でも白く染まるほどに。暖炉には火を点けてあるけれど、それでも雪の寒さは堪えてしまう。
「……積もる雪ではないのが、幸いかの?」
窓の外を眺めながらルリ様が言われた。その視線は窓の外の一点のみに注がれていた。それはルリ様と手を繋いでいるベティちゃんも同じだった。
「……ばぅ。かぜ、ひいちゃうの」
ベティちゃんは心配そうに外を見つめている。けれどルリ様はベティちゃんの手を離そうとはしていない。
なんだかんだでルリ様はベティちゃんに甘い。カティちゃんを重ねておられるのだろう。ベティちゃんに接する姿は、カティちゃんへのそれとよく似ている、というのが主様の言だった。
その肝心の主様はいま小屋の中にはいない。主様がいらっしゃるのは小屋の外だった。
小屋の外の広場。その広場の先にある崖の淵に主様はひとり座られていた。
小屋に帰ってから主様は温めた乳酒を一瓶手にして、外に 出られてしまった。その間、主様はなにも仰らなかった。だけど、露になった右目はひどく揺れ動いていた。
揺れ動いた瞳のまま、主様はひとり雪降る外に出られてしまった。
そうして主様が小屋の外に出られてからだいたい一時間ほどは経っていた。
すでに乳酒の中身はないか、すでに冷めきっているはず。
それでも主様は外に出たままで、戻ってはこられない。
「おとーさん。だいじょうぶかな?」
「……どうであろうな。あぁ、もちろん風邪をひくことはないぞ?あれはそういう病気とは無縁の存在となっておるからな」
ルリ様はいくらか慌てて捕捉された。たしかに主様は半神半人となったことで、病気とは無縁になってしまった。私も詳しくはわからないけど、ルリ様が言うには「病に罹る神などおらん」とのこと。
それは半分だけ神である主様とて同じらしい。ただそれはあくまでも体を蝕む病ということ。心を蝕む病は神であっても罹るようだった。
主様のいまのお姿も心を病まれているからこそのものだった。
正確には心をより病んでしまった結果だった。
「……本当に彼女が?」
「……記憶を読む限りでは、な。我もあくまでも仮説程度にしか思っておらなんだが、まさか仮説が現実になるとはな」
ルリ様は小さくため息を吐かれた。仮面の下の素顔がどうなっているのかは想像するしかないけど、なんとなく予想はできた。
「アンジュおねーちゃんを、今度からおばちゃんとよんだほうがいいのかな?」
ベティちゃんはあまりにも一言を告げてくれた。それは完全な不意打ちで、私とルリ様はそれそれに笑ってしまった。当のベティちゃんはなんで笑われたのか理解できないのか、「ばぅ?」と不思議そうに首を傾げるだけなのがまた笑いを誘ってくれる。
「さすがにアンジュ殿も15、6歳であるからなぁ。「おばちゃん」呼びは辛いお思うぞ、ベティ」
「そうなの?イリアおねーちゃん?」
「ふふふ、そうですね。その年齢で「おばちゃん」呼びは傷つくでしょうから、いままで通りのお姉ちゃんでいいと思いますよ?」
「ばぅ~。よくわからないけど、わかったの」
ベティちゃんは納得してはいないようだけど、「おばちゃん」と呼ぶことはダメだと理解してくれた。
本当は年齢もあるが、彼女には自覚がないということが一番の問題なのだけど、ベティちゃんは聡い子だから、ある程度説明してあげれば、そのうち納得してくれるでしょう。
そう、ベティちゃんに関してはいまのところ問題はない。
それ以上に問題があるのは主様自身のこと。主様のお心が一番の問題だった。
「……そろそろ乳酒をお持ちしますか」
「……まぁ、飲むかどうかは知らぬが、芯から温めるものは必要だろう」
「そうですね」
雪の降る中で一時間も外にいたら、体はとっくに冷えきっているはず。それでも主様は外に出たままだった。
外に出たまま、まっすぐに崖の先を、コサージュ村を見つめているようだった。
胸がちくりと痛む。その痛みがどういうものなのかは、あえて見ないことにしていた。私が胸が痛む理由について考えるわけにはいかないのだから。
「温めてきます」
「あぁ、ついでに我の分も頼む。もうなくなってしまったのでな」
瓶をふりふりと振るルリ様。少し前に温めたはずなのに、もうすべて飲まれたようだ。
「……あまり飲みすぎると主様に叱られますよ?」
「はん。我の方が年長者なのだ。なぜ年下のあやつに叱られねば」
「カティちゃんにも叱られますよ?」
主様に叱られると言ってもルリ様は、まったく気にされていなかった。
だけど、カティちゃんに叱られると言うと、てきめんだった。
「むぅ」と唸られてから瓶と私を交互にちらちらと見られていた。明らかに飲み足りないとその顔には書かれていた。仮面で隠れているけど、いまのルリ様がそういう顔をしているのは明らかだった。
「……やはり怒られてしまうかのぅ?」
「ええ、それはもう」
「……そうか。そうかぁ」
がくりと肩を落とすルリ様は、本気で残念がっていた。
とはいえ、ここで甘い顔をしてもルリ様のためにはならなかった。
「では、私は──」
「ばぅ。イリアおねーちゃん、ベティもおかわりなの!」
ベティちゃんがカップを差し出した。「はいはい」と頷いてからベティちゃんのカップを受けとると、ルリ様は「ベティだけというのは不公平ではないか?」と言われた。
たしかにルリ様のは断り、ベティちゃんのおかわりは受けるというのは不公平と言えること。だけど、それは今回だけを見ればの話。ルリ様は今日だけで乳酒を甕半分は飲まれていた。まだ乳酒のストックはあるけど、ほんの一時間で甕の半分は飲みすぎだった。ちなみに甕の大きさは一抱えはあるもので、よくその体で飲めるなぁとかえって感心してしまった。
「ルリ様が甕の半分をひとりで飲まれているからですよ」
「いいではないか、たかが甕の半分くらい」
「……そうですねぇ。以前乳酒を甕五つ分買ってきたのを一晩で半分飲み干されたのに比べれば、たかが甕半分ですねぇ?そう、そのときのたかが五分の一ですものねぇ?」
にっこりと笑いかけるとルリ様は静かに顔を背けられた。仮面で覆われていない部分からだらだらと冷や汗が流れている。
「……お酒好きなのも大概にしてくださいね?」
「だって、旨いんじゃもん、酒。辛口は辛口であの独特の喉がかぁーとなるのがたまらんし、甘いのは何杯も重ねられるのがいいし!乳酒は酸っぱいがその酸っぱさがこう、のぅ、わかるじゃろう!?」
ルリ様は必死だった。なにせ私の脚にしがみついて懇願しているし。よく聞くと涙声になっているのがなんとも言えない。
呑んだくれでこういう人のことを言うんだろうなぁと思う。
(神獣様ってまともな人がいないのかしら?)
足元から聞こえる懇願を無視して私は台所へと向かった。乳酒を温めている間もルリ様は必死に懇願していた。
でも私はその懇願を完全に無視して主様の分の瓶とベティちゃんの分のカップ分だけの乳酒を温めた。その間もルリ様は「お願いじゃあ!あと一瓶分だけでいいからぁ!」と懇願されていたけど、不思議なことに私の耳には入って来ることはなかった。
そうして主様とベティちゃんの分を温め終えると、ベティちゃんにややぬるめに温めたカップを渡した。
ベティちゃんは「ばう!ありがとう」と笑顔で受け取ってくれた。思わず口元を押さえてしまうほどにかわいかったのは言うまでもない。
そうしてベティちゃんの分を渡してから、私は小屋の外に出た。雪は相変わらず静かに降っていた。その雪の中で主様はひとり崖の淵に座っていた。
「主様、乳酒をお持ちしました」
「……あぁ、悪いね」
主様は振り返ることなく言った。主様のすぐそばに乳酒を置いてから、私は主様の背中にとそっと抱きついたのだった。
とりあえず、ルリ様が全部持っていきましたね←




