rev1-13 問いかけ
あー、間に合わなかった←orz
ぷかぷかとどこかに浮いていた。
体を動かすのがとっても億劫。それでいてぷかぷかと浮かんでいるのがとても心地いい。
(なにがあったんだっけ?)
ぷかぷかと浮かんでいる理由がよくわからない。なにかしらのことがあったとは思うのに、その理由がよくわからない。
でもわからないならわからないなりでいいかなとは思う。
(いまはこのまま浮かんでいよう)
そう思った矢先のことだった。
「──いい、アンジュ。あなたはこの村で過ごしていてね」
懐かしい声が聞こえてた。
その声の主は母さんだった。私の唯一の家族の遺言だった。
怒るときはめちゃくちゃ怖い人だったけど、普段はとても大人しく優しかった。母さんはいつも笑顔で私をずっと大切にしてくれていた。
でもその母さんはもういない。だって母さんはもう死んでしまったのだから。
──なぜ?
なぜ母さんが死んだのかは私も知らない。
──知らない?
そう、知らない。
正確にはわからない。だって母さんは五年前に旅に出たからだ。
──どこに?
知らない。
だって母さんは言ったから。
「行かなきゃいけないところがあるから」って。
私が「どこにいくの?」と聞いたら、「遠いところに行かないといけないの」と悲しそうな顔をしていた。
「大切な用事があるの。アンジュはここでお父さんと一緒にいてね」
母さんは私の頭を撫でながら言った。お父さんと一緒にとは言っていたけど、私はお父さんのことは知らない。
──なぜ知らない?
お父さんは私が幼い頃に死んでしまった。私が三つにもならないときに、吹雪の霊山に向かってしまったから。
当時私は流行り病に罹ってしまっていて、流行り病を治すために霊山の奥地にある霊水を採りに向かった結果だった。
霊水はどんな怪我も病気も治してくれる。だからお父さんは霊山に向かってしまった。それがお父さんの寿命を縮めてしまった。
お父さんは霊水を採って帰ってきたけど、大怪我を負っていた。
でも霊水があれば治すことはできたそうだけど、お父さんの採ってきた霊水はひとり分しかなかった。
お父さんはその霊水を私のために使ってくれた。でもそのせいでお父さんは亡くなってしまった。そんなお父さんのお墓は、うちの家の庭にある。
村の共同墓地ではなく、家の庭なのはお父さんの遺志を尊重したからだって、母さんは言っていた。
たぶんそれは本当なんだと思う。共同墓地を使わせてもらえなかったわけではなく、本当にお父さんがそう願ったからなんだと思う。
だってコサージュ村の皆さんはいつも私たち親子に優しかった。
お母さんがひとり旅立った後、ひとりっきりになった私の面倒を看てくれた。
僻地にある寒村で、家族でもない子供の面倒を看るなんて普通はできない。
だけど、コサージュ村の皆さんは笑顔で私を育ててくれた。
だから私はコサージュ村の皆さんと、このコサージュ村を愛している。この村のためになることなら、なんでもしようと決めている。冒険者ギルドの職員になったのもその一環だった。
──なぜ?
理由は簡単。コサージュ村にとって、冒険者ギルドというのはなくてはならないものだから。
これといった名産品もなく、その日の糧を得るので精一杯なこの村で冒険者ギルドは唯一の外貨獲得手段できる場所だった。実際コサージュ村の皆さんの中には、冒険者登録をしている人はそれなりにいる。
とはいえ、そのランクはせいぜいEランク。他所から来た冒険者でも高くてもCランクくらいだった。それ以上のランクの人はいない。
だからこの村の住人として、意味もなく死人を出させないために、村の働き手を減らさないために相応の依頼を割り振ること。間違っても死んでしまわないように、安全な依頼を割り振ること。それが私がコサージュ村の皆さんにしてもらった恩返しになると思った。それが私が職員になった理由。
あとは、お母さんがなにかの拍子で帰って来たときに、お婿さんを紹介するためということもあった。
──婿?
職員になれば、もしかしたら素敵な出会いがあるかもしれないという淡い期待もあったから。コサージュ村での同年代の男はなんというか趣味じゃなくて、恋愛関係になれる人はいなかった。
でも職員なら他所から来る冒険者たちと親しくなれるし、その中には理想なお婿さんがいるかもしれないと思った。……実際はそんな淡い期待が叶うわけもなかったのだけども。
──激務だからか?
そう、冒険者ギルドの職員は思っていた以上に激務で、恋愛なんてものに現を抜かしている余裕は欠片もなかった。
先代所長が戦死したことで余計に大変になった。
先代所長は元Bランクの冒険者だったという話は聞いていたけど、その元Bランクの所長が真っ先に戦死してしまったおかげで、なぜか私が所長に抜擢されてしまった。
私よりも経歴が上な職員も戦死していたし、ゲイルさんの奥さんのようなパートさんの中には、数十年という経歴の持ち主もいたけど、非正規の職員ということで真っ先に却下された結果、正規の職員かつ一番の古株だった私が所長に抜擢されてしまった。
そのことで先代所長に何度恨み言をぶつけたのかもわからない。すでにこの世にはいない人に言っても仕方がないことだったけれど、恨み言は次から次へと思い浮かぶ。
その中でも一番の恨み言と言えば、「シエロ」の人たちについてだ。
いまやコサージュ村の冒険者ギルドでは、「シエロ」の人たちが、唯一のCランクとなったあの人たちがこの村における最高戦力になっている。正直胡散臭いあの人たちを頼るのはどうかと思うのだけど、村人と職員の総意なのだから無理もない。
でもだからと言って、私が担当なのはどうかと思う。
──それだけ頼られているというわけだ。
それはどうだろう?
単純に面倒くさいことを押し付けられている気がする。
でもコサージュ村の人たちのためなら仕方がないかなとは思っている。
けれど、ディーネなら喜んで担当になりそうなのだけど、あの子はどうしてか頷いてくれないけど。
──彼女とはどういう関係だ?
関係?
そんなの先輩後輩の仲に決まっている。
あの子は昔から私を「先輩先輩」と言って慕ってくれていた、かわいい後輩だった。そう昔からずっと。それこそ子供の頃からずっと。
──子供の頃から、先輩、か。なるほどな。
聞こえてきた声に答えると、声はなぜか納得したみたいだった。そこであれと思った。
(……私、誰と話しているんだっけ?)
なんで説明なんてしているんだろうと思ったけれど、その疑問は急にぽすんと消えてしまった。
まるで浮かび上がった疑問が大きな泡に包まれて、その泡は音を立てて弾けてしまったみたいだ。
自分でも抽象的だなぁと思うけど、実際そうとしか言い様がないのだからどうしようもない。
──では、次だ。よいな?
うん、問題ない。
──それでは、もう一度母についてだ。
母さんのことを話す。言われた一言で私の頭の中は母さんのことでいっぱいになった。
大好きな母さんのことを思い浮かべながら私は聞こえてくる声に淡々と答えていった。
このあとしばらくしたらもう1話更新します←汗




