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Act9-Ex-1 覇道を往く

本日より特別編となりますが、また少し遅れました←汗

明日はいつも通りにあげたいものです←

──数ヵ月前、「竜の王国」にて──。


「──逃げられてしまったか」


上空にいたゴンの体はなくなっていた。


突如として現れた穴の中に吸い込まれていった。ゴンの背中にいたあやつらと一緒に。


「逃がしたの間違いではないか?」


ラースがヴァンデルクの切っ先を向けてきた。ラースとしてはあやつらを逃がす気はなかったようだが、結果的には逃がすことになった。


その苛立ちがあるからなのからやけに辛辣だった。


とはいえ、八つ当たりをされるのは堪ったものではない。


「八つ当たりはよせ。あやつらを逃がしたのは、貴様が遊びすぎたせいであろう?」


「遊んでなど」


「遊んでおったろうに。おまえであればあのような小娘どもなぞ一瞬で首を落とせたであろう?それをしなかった時点で遊んでおったということじゃ」


ラースは言葉に詰まった。それでも遊んではいないというのはたやすいが、言い返せる気がしないのであろう。


「……貴様は本当に妾には口では勝てぬな。喧嘩では勝てるくせにのぅ?」


「口でおまえに勝てるわけがないだろう、「軍神」」


「ほっほっほ、久しぶりに呼ばれたのぅ」


ずいぶんと久しぶりにその名を呼ばれたものだ。いまを生きる者たちは、妾と「軍神」とを結びつけるものは誰もいない。


もっともそれは妾だけではないのだが。


「とにかく、妾は遊んではおらぬ。妾が直接的な戦闘を苦手としていることは、貴様とてわかっておるだろうに?」


「……わかっている。だが、それでもやりようはあったはずだ」


「そう言われてものぅ。妾とてできることとできないことがある。それに妾を責めるのであれば、妾を巻き込んたレヴィアにも責はあろうよ。のぅ?」


いままでずっと黙り込んでいるレヴィアを見やる。レヴィアは空をずっと眺めたまま、妾たちに背中を向けていた。


「レヴィア。デウスはこう言っているが、おまえはどう思っている?」


ラースは妾よりいくらか柔らかな口調でレヴィアに問いかけた。が、レヴィアはなにも言わない。じっと空を眺め続けている。


「聞いているのか、レヴィア?」


「……聞いているよ」


レヴィアはぶっきらぼうな言い方をしていた。普段の貞淑そうな口調よりもいまの口調こそがレヴィアには相応しい。


「ほっほっほ、やはり貴様はそちらの野蛮な口調こそが相応しいぞ、「六魔」よ」


「……うるせぇよ」


レヴィアはただそれだけを言った。それ以上のことは言うつもりはないようだった。


「ふふふ、レヴィアを責めるものではないわ、ラース」


不意に声が聞こえた。同時に大きく割れる音もまた。声と音が聞こえた方を見やると、真っ黒な空間が口を開けていた。その中から肩で息を呼吸するスカイディアが現れた。


「ご無事でしたか」


「ふふふ、この私が犬ッコロの自爆攻撃程度でどうにかなると思っているの?」


「そのわりには、息を切らせておるのぅ?」


喉の奥を鳴らすようにして笑うと、スカイディアは「黙れ、混ざり者」と言い捨てた。


「……久しぶりに言われたのぅ、それも」


「「覚醒者」だからと言って、()()()()()()()()()()()()()()()()。図に乗るなよ」


スカイディアは鋭く睨み付けてきた。図に乗るつもりはないが、まぁ、言いたいだけ言わせておこうかのぅ。


「それは申し訳ないことをした。すまんのぅ」


「貴様、私に対してそのような口の利き方をするなど」


「口の利き方程度で怒り狂う者など、みずから小物だと言っておるようなものであろう?」


「貴様っ!」


スカイディアの目がまた鋭くなった。


(やれやれみずから小物だと言っているようなものではないか)


この程度の者を敬う気はない。だが、いまはそうするべきかのぅ。面倒なことではあるのだが。


「はいはい。申し訳ありませんのぅ」


「貴様ぁっ!」


スカイディアが叫んだ。髪が逆立ち始めるが、いまはどうでもいい。それよりも気になることがあった。


「それよりも母神よ。よいのかのぅ?」


「なにがだ!?」


()()()()()()()()()()?」


「っ!?」


スカイディアが慌てて辺りを見回すが、あったはずのふたつの死体がなくなっていた。


死体のひとつは、どうとでもなるからよいとしても、残るふたつの死体がなくなっていた。


残るふたつの死体、すなわちタマモとカルディアの死体が忽然と消えていた。


此度の戦いにおいて重要なふたつの死体がなくなっていた。その犯人は考えるまでもない。


「ドラームスめ!」


そう、犯人はドラームスだろう。


スカイディアの目的において、あのふたりの死体はとても重要な意味を持つ。その死体がふたつとも忽然となくなっているのは、どう考えてもドラームスの仕業だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()、あの人は!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


苛立たしそうにスカイディアは爪を噛んでいた。爪を噛みながらも纏う魔力によって岩が溶解していた。いや、岩だけではない。周辺にある自然物や人工物を含めたすべてがどろどろに溶けていく。まるでその圧力にひれ伏したかのように。みずからの形状を放棄することで、許しを得るかのようにすべてが融解していった。


(ここまで我を忘れる姿を見るのは初めてよのぅ)


だからこそわかる。


これはただの小物である、と。


嫉妬によって狂いに狂った哀れな小物である、と。


だが、小物であっても、その力は本物だった。


妾たちが束になっても敵わない。それほどの実力の差があるのだ。


「……まぁ、いいわ。こちらもあの子を苦しめる()()()は手に入れたのだし」


それまでの苛立ちはどこに消えたのか、スカイディアは手に持つ()()を見て笑っていた。その手にあるものを見てレヴィアは、表情を歪めていたが、なにも言わない。それがレヴィアの覚悟なのだから。


(……本当にあなたはいい女すぎるんだよ、()()()()())


どこまでも一途に想い、そして尽くし続ける。たとえ彼女の一番にはなれなかったとしても、それでも構わないと。それがみずからの愛の形なのだと語るかのように、レヴィア姉はすべてを懸ける。その姿は愚かであってもどこまでも美しかった。その見目同様にそのあり方もまた美しい。悲しいほどに美しかった。


(だからこそ私は私のするべきことを成さねばならない。この人の覚悟を汚すことがないように)


それがまた胸を痛ませる。でもこればかりは仕方がないことだった。


(これもまた私の、いや、()()()()()()なのだから)


贖罪のためにあえて汚名を。それが私たちのあり方。それはこれからも変わることはない。


「さぁ、行くわよ」


スカイディアの声に頷きながら、私たちは覇道のための一歩を踏み出した。

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