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Act9-420 揺れ動く気持ち

今日も遅くなりました←汗

明日もたぶん遅くなりそうです←汗

あと、ちょろっとカップリングっぽい要素が出ますのでご注意をば。

小さな背中だった。


体つきも華奢で、本当に食べているのかと思うくらいに、その体はとても細い。


だけど、その体つきでは想像もできないほどにこの人は強い。


強いけれど、その心はとても繊細かつ脆い。そのことをこの数ヶ月で嫌になるほどに知った。


『──っ!』


夜中、不意に物音が聞こえると、ほほ間違いなくこの人が発したものだ。


汗だくになって跳ね起き、剣を抜く。夜中の物音はその際の音。


あの人は汗だくになって剣を構えると、いつも泣いていた。


それほどの悪夢をこの人は見ている。


毎日というわけではない。


でも夜中に起きていることは多い。


そして夜中に起きられた日は、その後はもう眠れなくなり、ひとり小屋の外に出てしまう。たとえ外が吹雪であっても関係なく外に出て、夜空を眺めている。


吹雪ではない日は止めないけど、吹雪の日は止めている。でも時折外に出られた後に気付くこともある。そのときは慌てて外に出て追いかけることにしていた。


一昨日の夜もそうだった。


パタンと扉が閉まった音が聞こえて、目を覚ますとすでにあの人は寝台にはいなかった。ちょうど吹雪の夜の日だったため、私は慌てて外に出た。


外に出ると、息ができなかった。


小屋の前の広場はすでに雪に埋もれていた。その埋もれた広場の中を人が通った跡が刻み込まれていた。


レン様と叫びながら、徐々に埋まりつつある道を進んでいく。


あまりにも強い吹雪のせいで正面が見えなかった。それでもレン様を追って吹雪の中を進んで行くと、いきなり抱き寄せられた。


『……そこから先はもう崖だぞ?』


振り返るとレン様が私を見つめていた。仮面を外し、素顔を露にしたレン様が私を見つめていた。


『吹雪の日は外に出ないでくださいと言っているではないですか!』


レン様の視線を浴びつつ、レン様の体をどうにか揺らした。


レン様に抱き寄せられたときには、すでに体は凍えかけていた。それでもどうにか凍える体で、レン様に言った。


レン様は申し訳なさそうな顔をしながらも、私を抱き締めてくれた。


レン様の体は暖かった。私と同じように外に出ているというのに、荒れ狂う吹雪に身を晒されているというのに、レン様の体にはぬくもりがあった。


そのぬくもりを与えるためなのか、レン様は私の唇を奪われて、熱い吐息を送ってくれた。


吹雪によって徐々に熱を奪われていくというのに、レン様と触れあい、繋がり合っている部分はとても熱くて、とても心地よく、そしてとても悲しかった。


体の芯どころか、魂さえも凍えさせてしまいそうな吹雪の中で、およそ相応しくない行為を私たちは行っていた。


『そろそろ戻ろうか』



レン様は仮面をつけ直しながら言われた。私はただ静かに頷くと、レン様と一緒に小屋へと戻るとともに湯浴みをさせていただいた。


『……悪い。ずいぶん冷えさせたんだな』


レン様は後ろから抱き締めてくださりながら、申し訳なさそうに謝られた。


「気にしないでください」と振り返ると、また唇を奪われていた。


少し前までのは体の中から暖めるためのものだったけど、そのときのは単純にするための合図だった。


最初は触れ合わせるだけのもの。レン様の目はどこか遠くを眺めておられていた。遠くを眺めながら口の中に異物が入り込む。他人であれば絶対に拒否していた。


でもレン様のは自然と受け入れられた。受け入れようと考えるまでもなく、自然と私はレン様に合わせていた。くぐもった声と咀嚼に似た水音が響いていた。


『……いいか?』


目の前がちかちかとし始めたとき、レン様はそっと体を離されると言った。


するときはいつもこうだ。


でもレン様と私との間に、恋愛感情はない。少なくともレン様には私への想いはない。


それでもレン様が私を求められるのは、私を求めるのではなく、喪ったぬくもりを思い出されてしまったからだ。だからそのぬくもりを忘れるために、これ以上悪夢に魘されないためにあの人は私を抱く。


それを私は素直に受け入れていた。


これが恋愛感情なのかはわからない。


ただレン様が喪った人たちの代わりに、この人にぬくもりを与えることができるのは私だけだった。


『肩噛んでいいから』


『……はい』


肩を噛めと言われる理由は声を抑えてほしいから。小屋の中にはベティちゃんがいた。ベティちゃんには聞かせないために、肩を噛んで声を抑えてほしいということだった。


最初はためらっていたけど、いまはもうためらうことなくレン様の肩を噛んだ。それがもうひとつの始まりの合図。

その合図をしてから私はレン様の熱に溺れていった。


姉様が求めていた熱。でもその熱を、姉様に捨てられた私が得るのだから、姉様にとってはひどい皮肉だろう。


でもその熱がいまの私を形取ってもいる。形取っていても空虚ではある。


姉様への優越感などはなく、ただただ虚しいだけ。


でもその寂寥がレン様にとっては慰めになるのであればいい。


たとえレン様にとっては気晴らしにもならないことであっても。


私にできることは、レン様の無聊の日々を少しでも彩らせることだけだから。


その胸にひと欠片でも想いが宿らなかったとしても、私はそれでいい。私にはそうすることしかできない。


それはいまも同じだ。


「……まだ慣れませんか?」


「……うん」


レン様に後ろから抱きつきながら思うのは、彼女のこと。ルリ様に連れられて湯浴みをしに行ったあの子、レン様を揺れ動かさせる女であるアンジュのこと。


「……びっくりするほどに似ていましたからね」


「……うん」


レン様は頷かれるだけ。でもそれは話を聞いていないわけではなく、そうすることしかできないから。アンジュと会うたびにレン様はこうなってしまう。あまりにも「彼女」に似たあの子と触れ合うたびに心が悲鳴をあげてしまう。


レン様のあの子の扱いが雑なのは、あの子に嫌われたいから。間違っても恋仲にはならないように、嫌われるためだけに暴言を投げ掛けている。……それが余計にレン様の心を削ってしまうというのに。それでもレン様はあの子を傷つけるための言葉しか口にできなかった。


「……なぁ、イリア」


「はい?」


「これで嫌われるかな?」


「……どうでしょうか。かえって意地になっている気がしますね」


「そうか」


「……ご命令になられるのであれば、レン様がお望みになるのであれば」


その気になれば、いつでもどうとでもできる。アンジュはその程度の存在だった。そう、その気になれば、帰り道に魔物に襲われてという体にできる。あくまでもレン様がそれをお望みであればの話だけど。


「いや、いい。そうなったあいつと「彼女」を重ねてしまいそうだから」


「……そう、ですね。申し訳ありません」


「いや、イリアはよくやってくれている。いつもすまない」


「お気になさらずに。……私にはこれくらいしかできませんから」


「そんなことは」


「ありますよ。だって主様のためにできることはこれくらいしかありませんから」


私にはなにもできない。ただこの身のすべてを捧げることしかできない。


でもそれがほんのわずかでも主様の慰めになれるのであればそれでいい。


「……イリア」


「はい?」


「また「主様」と言っているよ?」


「ぁ」


つい雰囲気で言ってしまった。この人を主様と。この人はもう主様ではない。ご本人が主様であったことを捨てられたから。


でも捨てられたとしても、そのお心までは変わってはいなかった。


「す、すみません。レン様」


「いや、いい。一昨日もなんだかんだで言っていたしな」


「え?そう、でしたか?」


「……うん、言っていたよ。イリアは夢中になっていたから、その、わかっていなかったと思うけど」


主様はとても言いづらそうにされていた。でもそれでいつ言っていたのかがわかった。


「……す、すみません。その、なんというか、お上手と言いますか」


「え、あ、うん。ありがとう」


主様となんとも言えない会話を交わしていると、不意にドアが開いた。見れば、ベティちゃんが目元を擦りながら枕をもって立っていた。


「……おとーさん」


「どうした、ベティ?」


「だっこ」


「また怖い夢を見たのかい?」


「……ばぅ」


ベティちゃんは灰色の尻尾をくるんと巻き付けながら、レン様を見上げていた。その様子はとてもかわいらしい。


「よぉし、わかった。おいで、ベティ」


「ばぅ」


ベティちゃんはとことことレン様の元へと近づくと、レン様にと手を伸ばした。レン様は伸ばされた手をそっと掴むとベティちゃんを優しく抱き抱えたのです。ベティちゃんは嬉しそうに、そして心地よさそうに笑っている。そのままベティちゃんはまた眠ってしまったそんなベティちゃんをレン様は優しく頭を撫でていく。


「……シリウスがいたら、ヤキモチ妬いたかもな」


「そう、ですね」


「カティ相手にもヤキモチ妬いていたからなぁ」


「そのあたりのことはよく知りませんけど、目に浮かびます」


「……そっか」


「はい」


主様に向かって笑い掛ける。主様もかすかにだけど、笑ってくれた。それがとても嬉しかった。


「……できることなら「彼女」の代わりになれればよかったのですが」


「……いや、イリアはイリアでいてくれていいよ。俺は君を カルディアの代わりにしようなんて考えていないからさ」


「そう、ですね。不躾に申し訳ありません」


「いや、いいよ。気にしないでくれ」


主様はそれだけ言ってベティちゃんの頭を撫でていく。ベティちゃんは寝言で「おとーさん」と主様を呼んでいた。


そして「おかーさん」とも呼んでいた。


ベティちゃんの言う「おかーさん」は私ではない。きっとこの場にカルディアさんがいたら、彼女をこそ「おかーさん」と呼んでいたと思う。私ではベティちゃんの「おかーさん」にはなれないのだから。


「安心して眠ってくださいね、ベティちゃん」


主様の手の上からベティちゃんの頭を撫でる。ベティちゃんはまた嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔が堪らなくかわいくて、そして堪らなく胸を痛ませてくれる。


それでも私は構うことなくベティちゃんを撫でていく。この胸の痛みと悲しみ、そして胸の奥にある気持ちに揺れ動きながら、主様のかわいい末娘の頭を撫で続けた。

レンとイリアはかけ算になりません←

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