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Act9-416 レン・アルカトラ

昨日は更新できなかったうえに、今日は更新が遅れて申し訳ないです←汗

今回は一言で言えば、闇堕ち&素性を捨てるというところです。

プーレを奪われた。


リヴァイアサン様の姿はもうどこにもない。プーレを抱き抱えたままいなくなってしまった。


「……主様」


アイリスが気遣っているかのように俺を見ていた。そのまなざしにすぐにはなにも見えなかった。


「……なんで」


「え?」


「なんでこんなことになるんだろうね」


時間を掛けて口にしたのは、返答しづらい内容だった。アイリスも返事をしづらいだろうなぁとは思ったけど、一度口にした言葉は次々に俺の口から発せられていった。


「せめて、体だけは守りたかった。守ったところでプーレを生き返らせることはできなくても、その体だけはせめて守ってあげたかったよ」


「……主様」


「ごめんな。アイリスだってこんなことを言われても困るだろうけど、いまだけは言わせてほしい」


アイリスに笑いかけるけど、アイリスは笑ってくれなかった。ただ痛ましそうに俺を見つめていた。


「……いろんなものがこぼれ落ちた。住む場所も職も大切な人たちの命さえも。俺の手からあっさりとこぼれ落ちてしまった」


「……」


「こぼれ落とすつもりはなかった。絶対に守り抜くつもりだった。けれど俺にはそんな力はなかった。あると思っていたはずの力は、それなりにあると思っていた力は、見せかけだった。中途半端ななんの意味もないものだった」


「そんなことはっ!」


「いや、あるさ。なんの意味もなかった。だってこの手にはなにも残っていない。誰の手も握られていない。この手に、この胸にあるのは空虚さだけだ。それ以外にはなにもない。なにひとつとて残っていないんだ」


アイリスが俺の言葉を否定しようとした。いや、慰めようとしてくれたんだろう。


でもいまはどんな言葉を聞いても、この胸になにかが宿ることはない。……()()()()()()()()()()()


「でもさ、アイリス」


「はい」


「それって()()()()()()()()()()()?」


「……え?」


アイリスが固まった。いや、困惑しているという方が正しいかな。俺自身少しだけ困惑している。いま言った一言に俺自身が理解できないでいる。でもその一方で不思議とそれが正しいとも思えていた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?この世にはそんな目に遭わずに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「主様はなにを仰りたいのでしょうか?」


「うん?わからないかな?」


またアイリスに笑いかける。今度は哀れむのではなく、息を飲んで黙りこんでしまった。その表情にあるのは、明らかな恐怖だった。赤い瞳に映る俺は、口元を大きく歪めて笑っていた。でも目にはなんの光も宿ってはいなかった。この胸と同じで、空虚さだけがそこにはあった。


()()()()()()()()、と思ったんだ」


「なにを、でしょうか?」


「決まっているだろう?この──」


()()()()()()()()()()()()()()」俺はもう一度だけ笑った。たぶんこれが最後だろうとも思った。俺が笑うのはきっとこれが最後になると思った。壊しきるそのときまで、俺はもう笑うことはない。この世界のすべてをぶち壊すまで、俺はもう笑うことはない。


「すべて、すべて間違っているんだよ。この世界はすべてが間違えている。だから俺はすべてを壊す。この世界を更地にして、もう一度やり直せばいい。こんなくそったれな世界なんていらない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「主、様」


「……アイリス。()()()()()()()()()()()。その名は捨てる」


「では、なんと」


「……レンでいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。欠けたカレンはもうカレンじゃない。だから俺はレンでいい。()()()()()()()()と名乗ることにする」


アルカトラ。この世界では地獄を意味する言葉。すべてを奪われた俺には相応しい名前であり、これから俺がなすことを思えばやはり相応しい名前だった。


「だからもう俺を主様と呼ぶ必要は──」


もうカレンはいない。


であれば、アイリスとの契約も途切れたということだ。もうアイリスが俺に付き従う理由はない。好きなように生きてくれればいい。そう言ったつもりだったのだけど──。


「では、今後はレン様とお呼びします」


──アイリスは今後も俺に付き従うようだ。誰かがそばにいてくれることは素直に嬉しいのだけど、本当にいいのだろうか。


「……いいのか?俺はこの世界を滅ぼすと言ったんだぞ?」


「構いません。私は、私の魂はあなたに捧げております。だからあなたが行くところが私の行くところです」


アイリスは笑っていた。無理に笑っていることはわかっていた。それでも俺とともにあると言ってくれたことは素直に嬉しかった。


「ありがとう。では、今後おまえは「アイリス」ではなく、「イリア」と名乗れ。「アイリス」だと足がつくからな」


「承知いたしました。レン様」


恭しくアイリス、いや、イリアが頷いた。たったひとりでも、誰かが一緒にいてくれることは唯一の救いと言えた。


「ふむ。では、我はどういう名前にしようかの?」


「フェンリル。おまえも着いてくるのか?」


フェンリルは神獣の一体として生まれた存在だった。そのフェンリルまでもが着いてくるというのは正直驚いた。てっきり着いて来ないものだとばかり思っていた。


「バカを言うでない。カティが目覚めとき、そばにおまえがいなければあの子が悲しむではないか。だからだよ」


「そうか。それでもありがとう」


「礼はいらぬ。それよりもレン。我らはどういう関係になるのだ?」


フェンリルが尋ねた意味が、いまいちわからない。どういう関係と言われても、最後に残った三人ということくらいで、特にこれと言った関係はない。せいぜいイリアが俺の従者という程度のことだった。それ以外の関係はないはずだった。


「そうではない。これから我らはどういう繋がりを持つのかということだ。家族になるのか、それとも仲間としてあるのかということだよ」


「……それは」


家族と言えたらいいのかもしれない。だけど家族という名は、もう怖くて言えなかった。言えばまた喪うかもしれない。だから家族とは言えなかった。


「……仲間ではダメか?」


「いいや、問題はない。おまえはどうだ、イリア?」


「私もフェンリル様と同じく問題はありません」


「……その割には若干寂しそうだぞ?」


「そんなことはありません」


イリアはきっぱりと否定した。でもフェンリルの言うとおり、若干寂しそうには見えた。


そんなイリアをフェンリルはいまにもからかいそうだった。


(イリアだけ名前を付けたのが気に入らないとかかな?)


フェンリルにはまだ新しい名前は付けていない。フェンリルは意外と寂しがりやのようであるし、名前を付けていないことが気にくわないのかもしれない。


その証拠にフェンリルはイリアの周りを回ってニヤニヤと笑っている。イリアへの嫉妬なのか、イリアをオモチャにしたいだけなのか。いまいちわかりづらい。わかりづらいけど、フェンリルだけまだ名前がないこともたしかだった。


(仕方がない。名前を付けてやるか)


いまのままだとイリアが泣き顔になっても続けそうだった。いや、すでに少しだけ涙ぐんでいるから、泣くまでやりそうだ。


「そこら辺にしておけよ、()()


「む?ルリ?我のことか?」


名前を呼ぶとフェンリル改めルリはぴたりと止まった。


「あぁ、そうだよ。「フェンリル」の「リル」を逆から読んだ」


「むぅ。なにやら適当だな?」


「一応意味はあるぞ?ルリというのは、俺の世界で言うと、紫がかった青を言うんだ。つまりは夜明け空のことだよ」


「ふむ、夜明けの空か。……悪くないな」


にやりとルリは笑った。とても不敵な笑顔に「こいつらしいなぁ」と思ったのは言うまでもない。


「とりあえず、これで全員の名前は決まったな。そろそろ移動しようか」


コサージュの村はすぐそこだ。あれだけ喚き声が上がったというのに、村から人が出てくる様子はなかった。


まだ夜が明けたばかりだからだからかな、と村の敷地に入ると──。


「誰だ、おまえら!?」


──武装した数人の男が、全体的に小汚ない様子の男たちが剣を向けてきた。よく見ると服には真新しい血がべったりとついていた。


「おー、野盗か?」


「さすがは、「聖大陸」ですね。この国でも野盗が現れるのですから」


ルリは興味深げに、イリアはとても嫌そうな反応を示した。


「てめえら、人の話を聞いているのか!?誰だと──」


「うるさい」


先頭に立って、唾を撒き散らしていた男の首をはね飛ばした。


男がどういう存在なのかは知らない。見たまんまの野盗だったのかもしれないし、もしかしたらああ見えて冒険者だったのかもしれない。


だが、そんなことはもうどうでもいい。


いまはただ一歩目の邪魔をするこの連中を血祭りにあげればそれでいい。


首をはね飛ばした男が持っていた剣を奪い取り、残りの連中に切っ先を向けた。


「ギャーギャーと騒ぐな、三下が」


「て、てめえ!よくも副首領を!」


「あ?なんだよ、こいつ、副官なの?じゃあ大したことないな、おまえら」


てっきり下っ端かと思ったら、まさかのNo.2だったようだ。組織の参謀となる存在が真っ先に向かってくる時点で組織としては終わっている。


ぶっちゃければ、組織なんてものは、No.2次第だ。トップがカリスマ性のあるバカだったとしても、No.2が締めれば安泰するものだ。現にうちのギルドがそうだった。……俺にカリスマ性があったどうかは知らんけど。


「ふ、ふざけんな!俺たちは「聖大陸」で名を轟かす、盗賊「ガルルカン」で──」


「ふぅん。知らねえ」


「な──」


騒いでいた連中のひとりを踏み込んでからの袈裟に切り捨てる。


斜めに体がずれてそのまま地面に上半身が落ちていく。周囲に血溜まりが出来上がった。


「バルカンだか、カルカンだか知らねえけど、とりあえず盗賊っていうなら、頭領を捕まえればいいだけだ。他のやつらはいらねぇ。ルリ、イリア、こいつらを潰すぞ」


「承知した」


「承りました」


ルリとイリアがそれぞれに頷く。ふたりの反応を確かめてから俺は残っている連中にと向かっていった。

カレンがいろんなものを失って心が欠けたからレンというのは、わりと個人的にはお気に入りな言い回しなのですけど、どうでしょう←汗

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