Act9-414 返してください
本日5話目です。
「あなたが「水」の神獣」
まさかの相手だった。
まさか目の前にいたのが、「水」の神獣であるリヴァイアサン様だったなんて。
でもまじまじと眺めてみると、納得できた。
(ガルーダ様にそっくりだ)
リヴァイアサン様は、「火」の神獣であるガルーダ様とよく似ていた。背中に翼はない。特徴的なのは、手足にヒレのようものがあるということ。それ以外の要素はガルーダ様と瓜二つだった。まるで双子だと言われたら、信じてしまいそうなほどにおふたりはよく似ている。
「そうだよ、我が妹よ。君にはずっと邪魔をしてもらっていたからねぇ。ずっと挨拶をしたいなぁと思っていたよ。それがようやく叶ってとても嬉しいよ」
クスクスと口元を歪めながら笑ってはいるけど、その目には狂気の光が宿っていた。
「……やっぱり相当に嫌われていましたかね?」
「嫌う?そんなまさか!くそ生意気で「死にたいのか、おまえ?」と言いたくなるようなメスガキだけど、僕のかわいい、かわいい妹だよ?嫌うわけがないだろう?」
「……そのかわいい妹相手に殺気を放つとかやめてくれません?」
「おや、これは失礼」
ふふふ、と再び笑いだすリヴァイアサン様。笑っているけど、眉間に大きな皺がよっているところを見る限り、相当に苛立っていたようだ。俺のしたことはリヴァイアサン様を散々挑発していたようなものだったから、リヴァイアサン様が怒りを露にするのも無理もない。
途中から殺気立って俺を睨まれていたけど、そうするだけの理由がリヴァイアサン様にはある。
でも理由があったとしても、その理由を受け入れるわけにはいかなかった。
だってリヴァイアサン様に喧嘩を売ったのは、すべてプーレを守るためだった。
プーレを死なせないために俺は半神半人になり、プーレを俺の巫女にしたんだ。
結果的にはプーレを守ることができなかったのだから、売り損だったのかもしれない。
けれど俺は後悔していない。
プーレが安らかに眠れたこと。それがいまの俺の誇りだった。そのことを誇る以外にいまの俺にはなにもなかった。
だからどんなにリヴァイアサン様に殺気立たれても後悔する気は微塵もなかった。
「ふふふ、いい度胸だね、我が妹よ。この僕に喧嘩を売ったことに後悔しないなどと言い放つとは。本当にいい度胸だよねぇ?」
リヴァイアサン様の笑顔がひきつっていく。相当に頭に来ているようだけど、こればかりは否定する気はない。
俺はプーレのためにできる限りのことをしたかった。その代償がこの人に喧嘩を売ることであっても、俺は後悔なんてするつもりはない。
「それよりもプーレを返してください」
「あ?大姉上の話を聞いていなかったのか?君のかわいい愛娘ちゃんの情報を得るためには、プーレリアを諦めろと言われたばかりだろう?」
リヴァイアサン様は明らかに苛立っている。けれどそんなことはどうでもいい。
「俺はプーレもカティも諦める気はない。天秤に掛けられるわけがない。だから返してください」
リヴァイアサン様を見つめながら、手を伸ばした。リヴァイアサン様のこめかみに血管が浮き出るのがはっきりと見えた。
「貴様、死にたいのか、小娘?」
「死ぬ気はありません。だからプーレを返してください」
まっすぐにリヴァイアサン様を見やりながら、プーレを返してもらうように頼んだ。アイリスが「主様、なんてことを!?」と慌てているけど、俺は止まる気はない。欲張りだと言われてもこの気持ちを曲げるつもりもない。
「プーレを返してください、リヴァイアサン様。プーレはあなたのものじゃない。俺の、俺の大切な嫁なんだ」
プーレを取り戻す。ただそれだけを考えて、リヴァイアサン様を見つめていた。
するとリヴァイアサン様は高らかに笑いだされた。笑いながらもその目はとても鋭かった。
「あー、そうか。そうか、そうか。わかった。そんなに貴様は死にたいのだな?」
リヴァイアサン様の口元が大きく歪んだ。同時にその姿が一瞬で消え失せた。そして──。
「では、死ね」
──すぐ後ろからリヴァイアサン様の声が聞こえた。リヴァイアサン様の手刀が首筋にと振り下ろされるのが見えた。
「あ、主様!」
アイリスの必死な声。その声が静かな海岸に響き渡った。
続きは20時になります。




