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Act9-411 神獣からの贈り物

本日2話目です。

海上に出ると、そこは真っ白だった。


トンネルを抜けると~から始まる文豪の書いた小説があるけど、それと同じように俺たちの目の前には一面の銀世界が広がっていた。


「ここがアヴァンシア、か」


「現在地はアヴァンシア王国首都アルトリウスからは遠く離れた辺境の村コサージュ沿岸となります」


「辺境の村」


「「霊山カリオス」から最も近くにある村です。話によれば、冒険者ギルドの出張所があるそうですが」


「ギルドの出張所、か」


「神子様であれば、日銭を稼ぐには問題はないかと」


ホエールの言うとおり、いまならば日銭を稼ぐことはたやすくできる。賞金首がいたら捕らえればいいし、強大な魔物がいれば討伐すればいいだけだ。


いまならばそれくらいのことはたやすくできる。けれど、俺は賞金首として手配されているし、魔力だって登録されているわけで、変装したところですぐに気付かれてしまうだけだった。


「変装しても魔力で気付かれそうだから、ギルドに登録するのは」


「問題はなかろう。いまのおまえの魔力は、もとのおまえの魔力とは別物となっておるのでな」


魔力で気付かれてしまうと思ったのだけど、フェンリル曰く、それはないようだ。というかなぜ別物になっているのやら。特にこれと言って覚えはなかった。そんな俺にフェンリルは呆れたように、でも気遣いつつ続けた。


「……継嗣の右目だ。継嗣の右目を移植したことでおまえの魔力と継嗣の魔力が合わさり、いままでとは別質の魔力となっている」


「シリウスの魔力と?」


「あぁ。継嗣は安定するか不安がっていたが、さすがは親子よな。問題なく安定している。今後その右目はもとのおまえの右目同様に使っていけるぞ」


フェンリルの言葉になんて言えばいいのかわからなかった。


「……そっか。ひとりぼっちになったと思っていたけど、ここにいてくれているんだな、シリウス」


だけど、気付いたら右目に、シリウスがくれた右目を覆っていた。


すっとひとりになったと思っていたけど、そうじゃなかった。まだ家族は「ここ」にいてくれている。


(……これからはずっと、ずっと一緒だからな、シリウス)


いなくなってしまった愛娘を思うと、涙がこぼれた。その涙さえどこか温かく感じられた。本当にあの子がすぐそばにいてくれているように思えてならなかった。俺の代わりに泣いてくれているように思えてならなかった。


「……神子様。接岸いたしますか?」


「うん、頼むよ。しばらくはこのあたりでどうにか過ごしてみる。顔を隠すものはあるから」


魔力の問題はなくなれば、後は変装をするだけだった。具体的には顔を隠し、服装を変えれば俺を「カレン・ズッキー」と同一人物と気付く人はいないはずだ。


幸いなことに顔を隠すためのものはある。エレーン、モーレが遺してくれた仮面があった。目の部分が欠けているけど、ちょうど右目の辺りだった。


「「カレン・ズッキー」は黒目黒髪で黒い服を身に付けているというのは、有名だからね。髪に関してはどうしようもないけれど、目の色が違うのであれば、より結びつけられないとは思う。……若干怪しさは爆発するだろうけど」


新人の冒険者が仮面姿というのは、どう考えても怪しい。俺がマスターならば明らかに怪しがる。冒険者は言うなれば、実力社会だから、怪しくても実力さえあれば不問にされる。だから仮面を着けていても問題はない。


後の問題は服だけだ。いま着ているのは、この世界に着てからずっと着ているつなぎだった。洗濯はきちんとしているけど、洗濯中は寝巻きやら、適当な普段着やらを着ていた。


その寝巻きや普段着はアイテムボックスの中にはあるけど、つなぎほど高性能ではなかった。


「このつなぎは、わりと便利なんだよなぁ」


「ですが、それは主様が主様であることを証明するようなものですし」


「うん。こんなの着ているのは俺くらいだもんね。でもなぁ。このつなぎ、状態異常を回数制限なしで完全無効にしてくれるから」


「……は?」


アイリスの口がぽかんと開いた。見ればフェンリルも開いた口が塞がらないようだった。


「なんか母さんがそうしてくれたんだよね。「シリウスちゃんのついでに」と

「そんな軽い口調で!?」


アイリスがなにやらショックを受けている。うちの母さんのありえなさにいまさらながら衝撃を受けているようだ。


「……孫煩悩なのは知っていたが、親バカでもあったな、あの母神は」


眉間をぐりぐりと擦りながら頭が痛そうにしているフェンリル。フェンリルからしてもうちの母さんの蛮行には衝撃を受けているみたいだ。


「いや、我らはおまえにも頭を痛めているのだぞ、カレン?」


「なんでそんな神器一歩手前な服を当たり前に着ているんですか!?」


フェンリルからは呆れられ、アイリスにはなぜか怒られた。俺のせいじゃないのに。


「……神子様は、わりと規格外なのですね」


しまいにはホエールにも渇いた笑いをされてしまった。解せぬ。


「しかし、そういうご事情でしたら、自分が」


「え?」


「我が主、リヴァイアサン様より「結納の品」と渡された物があります。幸いなことにお召し物ですので、そちらを身に付けられればと思います。むろん、愛妾様とフェンリル様の分もございますので」


「私たちの分も?」


「ふむ。気が利くものだな」


「珍しく上機嫌でしたので」


「……なるほどな」


リヴァイアサン様からの贈り物にフェンリルは鼻息を立てて頷いていた。なんだか気に入らないようではあるけど、変装ができるのであれば、それに越したことはない。


「じゃあいただくよ。出してもらえるかい?」


「承知いたしました」


ホエールが頷くと、頭の辺りからそれなりの大きさの箱がひとつ出てきた。


(……たしか鯨の潮吹きって、頭の上に鼻の穴があるからだったけど、これってもしかしたら)


いきなり箱が出てきたことはまるで手品のようではあるけど、深く考えると問題がありそうなのであえて考えない方がよさそうだった。


「とにかく開けさせてもらうよ」


ため息を吐きつつ、俺はリヴァイアサン様の贈り物が詰まった箱を開けたんだ。

続きは8時になります。

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