Act9-402 衝撃の再会
ずいぶんと遅くなりました←
今回はラストに注意です
滑るような剣だった。
刀身と刀身でぶつかり合っても、その刀身は気づいたら消えていた。
刀身を滑るようにして振り抜かれては、追擊を放たれていく。そして追擊を放たれるたびにククルさんのナイフは文字通り研ぎ澄まされていた。
「……刀身で研ぐとか、ありえないことをしますね」
ククルさんは、「黒天狼」の刀身に自身の刀身で滑らせることで、ナイフを研いでいた。
その証拠に火花が常に散っている。
そうして研ぎながらナイフを振り抜くと、そのまま追撃を放ってくる。
それらの行動はゆっくりとであれば、まだできるかもしれない。
だけど、ククルさんの攻撃速度は並大抵のものじゃない。
とんでもなく速かった。それこそさっきの「疾風」さんのコマ送りの剣戟とは比べようもないほどに。
そんな高速の剣戟を涼しい顔でやってくれるのだから、相変わらずありえない人だった。
「これくらいはあなたもできるでしょう?」
「無茶言わないでください」
ナイフとナイフをぶつけ合いながら、お互いに軽口を叩き合う。
けど少なくとも俺には余裕はない。
多少はあるけど、ククルさんの追撃に反応するのがやっとだった。
しかも反応してもやはり同じようにして、ナイフを研がれたうえに、追撃は行うたびに高速化していくのだから堪ったものじゃない。
逆に言えば、それだけククルさんも本気ということなのだけど。
「……そんなに俺を殺したいですか?」
「賞金首を捕まえるのは、冒険者の仕事のひとつですよ。それも史上類を見ないほどの凶悪な者であれば、なおさらね」
ククルさんは笑っていた。
満面の笑みで笑っている。まるで俺を前々から殺したがっていたかのように。俺を殺すことを楽しみにしていたかのように。その凶剣を振るってくる。……あくまでも見た目の上では、だけど。
「ギルドマスター!頑張ってください!」
「あなたなら絶対に勝てます!」
「元Bランク冒険者の実力を見せてください!」
その見た目の上でのやり取りに対して、周囲にいる冒険者たちは気づいていないどころか、見当違いな声援を送っていた。
そんな冒険者たちにククルさんが小さくため息を吐くのが聞こえた。
「……ずいぶんとまぁ質が悪いことで」
「新人や弱い子たちばかりなのでね」
ククルさんのナイフを受け止めながら小声で同情すると、やれやれと肩を竦めたそうにククルさんは、またため息を吐いていた。そんなククルさんにこれからのことを尋ねてみた。むろん小声でだ。
「……それで、どこまでするんですか、この茶番劇を?」
俺とククルさんの戦いは、はっきり言って茶番劇でしかない。
最初は本気で殺しに来たのかと思っていたけど、違和感があった。
なんで古傷のある右腕での攻撃しかしないのかと。
ククルさんが本気で殺しに来ているのであれば、とっくに魔法を使っているはず。
なのにククルさんのしていることは、古傷のある右腕での攻撃ばかり。無傷である左腕は一切使っていなかった。
端から見れば、俺を押し込んでいるようには見えるけど、ククルさんはとんでもない技術を見せつつも、本気で攻撃はしていない。
ただ技術の一端を見せているだけにすぎない。その一端だけでも十分にありえないのが、実にこの人らしいことなのだけども。
「……さすがに気づきますか」
「気づかない方がおかしいでしょう?」
「相変わらず打てば響きますね」
「……どこかのギルドマスター様に、散々しごかれましたのでね?」
「おやおや、口すがないこと」
ククルさんはにこやかに笑いながらも、唇を動かすことなく言った。
「……とりあえず、しばらくは様子見です。わざわざ弱い子たちないし新人しか連れてこなかったのは、強い子たちやあなたを知っている子たちはあなたを擁護しているからです。「カレンさんはそんなことしねえ。あのヘタレがそんな大それたことができるわけがねえだろう」ってね」
「……それ喜んでいいんですか?」
「さて、ね?」
ククルさんは相変わらず笑っていた。作り物の笑顔ではなく、本来の笑顔を見せてくれている。
「……とりあえず、お礼と言伝てを。「信じてくれてありがとうございます。必ずお礼参りに行きますので、首を洗って待っていやがれ」と」
「ふふふ、承知しました」
ククルさんは笑っている。
指名手配されたとしても、まだ味方はいてくれる。たとえわずかな人たちとは言え、その人たちがいてくれるのなら、まだ救いはあった。
「とりあえず、いまのままでお願いします。直に手配した船がこちらに来ますので、そちらで「魔大陸」を脱出して──」
「──「魔大陸」を脱出なんてさせるとお思いで?」
ククルさんが小声で脱出手段のことを話していた、そのときだった。ククルさんの胸元から見覚えのある剣が突き出てきた。
ククルさんの口から血が吐き出された。吐き出された血を浴びながら、ククルさんの背後にいた「彼女」を見て目を見開いた。
「ティア、リカ」
ククルさんの背後には、目が紅く、肌の色が真っ白になったティアリカが、別人のようになったティアリカが、ククルさんの胸を後ろから貫いたティアリカが立っていたんだ。
味方がいると思わせてからの精神ダメージを負う香恋でした←




