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Act9-401 戦いたくない相手

少し遅れました←汗


ククルさんの号令で冒険者たちが向かってくる。


誰もが俺の命を狙っていた。俺を犯罪者、賞金首としてしか見ていないのは明らかだった。


「くらえ!」


先頭で駆けてきた冒険者が振りかぶっていた剣で斬りかかってきた。本人的には全力の、乾坤一擲の一撃になるのだろうけど、俺には半ば止まっているとしか見えなかった。


スローモーションどころか、コマ送りにしているような、とてものんびりとした剣。


「くらえ」と言われはしたけど、反応に困ってしまう。


紙一重で避ける気にもなれない。


とはいえ、受けるわけにはいかない。


なぜならその軌道は俺どころか、プーレにも直撃するのだから。


たとえ避ける気にもなれない剣であったとしても、プーレを傷つけたくなかった。だから──。


「な、なんだと!?」


──振り下ろされた剣を人差し指と中指で挟んで受け止めることにした。


指を斬られるかなと少し不安だったけど、ほとんど力を込めていなかったみたいで、挟んだだけで剣の勢いはなくなった。


「な、なにをした!?この俺の、「疾風」のクルルカンの一撃をどうやって!?」


「……普通に受け止めただけだけど?」


「な」


「疾風」のクルルカンとやらは、言葉を失っていた。


それはほかの冒険者でも同じようだ。どうやらこの「疾風」さんは、ククルさんのところの冒険者でもそれなりの腕の持ち主のようだ。


……俺がいた頃にはいなかったはずだから、この一年で冒険者となり、頭角を現したってところか。


「とりあえず、うちの嫁に危害を加えないでくれないか?」


俺だけならなにをしても構わないけど、プーレには危害を加えないでほしかった。その見せしめとまでは言わないけど、「疾風」さんの剣を指で挟んだまま、手を捻って折った。


「ば、バカな!?「名剣シューティングスター」を素手で折った!?大枚を叩いて買った逸品なんだぞ!?」


「疾風」さんは愛剣を折られたことを信じられないみたいだけど、俺から言わせてみれば、ただのなまくらでしかない。


「……こんななまくらに大枚を叩くとか、見る目がないね、お兄さん?」


「な、なまくら?俺の「名剣シューティングスター」が」


「十分になまくらだよ。だって折ったところから、粒子が溢れているじゃんか。見た目だけのなまくらを掴まされたんだよ、あんたは」


「疾風」さんのご自慢の愛剣からは、折れた剣からはさらさらと粒子が溢れていた。本当に名剣であるのであれば、折れたら中から粒子が溢れるとかありえない。


そんなものはなまくら以外の何物でもない。


「そ、そんなわけあるか!この剣は「鍛治王ヴァン」の子孫の名工が──」


「だから騙されたんだっつーの。そもそも「鍛治王」に子孫はいねぇ。いや、「鍛治王」は、ティアリカはこんななまくらなんか打たない!」


挟んでいた刀身の一部を握りつぶす。「疾風」さんはそれだけで、腰を抜かしてしまった。


いや、「疾風」さんだけじゃない。ほとんどの冒険者たちが固まっていた。


聞こえていた詠唱はもうない。


誰もが俺を化け物を見るような目で見ているだけだ。……たった一人を除いては。


「……やはりDランク程度じゃこんなものですか」


ククルさんは静かに俺に向かって歩いてきていた。


その目はとても真剣で、いままでククルさんからは感じたことのない殺意が籠っていた。


「……ククルさん」


「私が相手をしましょう。構えなさい、小娘ちゃん」


ククルさんはまっすぐに俺を見つめると、懐からナイフを取り出し、斜めに構えた。


「……主様。プーレさんは私が」


アイリスがそばに立って、プーレを代わりに抱き抱えてくれた。


戦いたくな相手だけど、いまは戦うしかないようだった。


唯一残っている「黒天狼」を取り出し、体を斜めに構えた。


「……行きます」


「来なさい」


ククルさんに一言声を掛けて俺はククルさん目掛けて踏み込んだ。

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