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Act9-393 悲しみに暮れる暇もなく

遅くなり申し訳ないです←汗

浮遊感があった。


ゴンさんやサラの背中に乗せてもらっているときとは、まるで違う浮遊感があった。

目の前に広がるのは空じゃない。真っ黒な空間だった。それはめのまえだけじゃなく、前後左右上下に広がっている。


あきらかに普通とは違う。その普通とは違う空間の中に俺たちはいた。


ゴンさんの背中にいるのは、俺の他にはプーレとアイリス、そしてカティの体を使っているフェンリルだけ。


いつのまにかタマちゃんの遺体はなくなっていた。同じようにカルディアの遺体もわからない。サラは地面の割れ目に飲み込まれていったし、モーレは仮面ひとつを残して消滅した。


レアは生きているけど、俺を殺したいほどに憎んでいる。


ティアリカは相手の手に落ちたようだけど、無事でいてくれているのかもわからない。それはアルクだって同じだ。


「霊山」に向かう前とは、人数が大きく減ってしまっていた。


「霊山」で俺は大切な人を何人も喪ってしまった。


目の前に広がる空間と同じだ。真っ黒な闇が目の前には広がっている。心の中にぽっかりと穴が空いた気分だった。


「シリウス」


その中でももっとも失いたくなかった存在がいた。その存在を、大切な愛娘を呼んだ。


いつもならすぐに返事をしてくれるあの子の声は聞こえない。


どんなに呼んでもシリウスは答えてくれない。いつもの「わぅ」という声はいつまで経っても聞こえてこなかった。


「……シリウス」


つい少し前までそこにいた愛娘は、もう見えなかった。眼下にいたシリウスはいまやどこにも見えない。


少し前まではいたのに。すぐそばにいてくれたのに。いまはもうシリウスはどこにもいなかった。


「……シリウス」


シリウスはスカイディアとともに、いま俺たちがいる空間とは違う空間に呑み込まれていた。それはまるでブラックホールのようだった。


シリウスはスカイディアを道連れにして、ブラックホールにみずから落ちていった。


俺の知るブラックホールと同じであれば、あの穴の中に落ちていった以上、もう戻っては来られない。


一度入れば素粒子レベルにまで分解されてしまう。脱出は物理的に不可能。ブラックホールに落ちた時点で死は確定となる。


つまりシリウスはもう──。



「……シリウス」

ゴンさんの背中を叩く。いつもよりも弱々しくゴンさんの背中を叩くことしかできなかった。


ゴンさんはなにも言わない。


なにも言わずに真っ黒な空間を進んでいく。


「……「「刻」の終焉」を使うとは、な」


不意にフェンリルが言った。フェンリルは尻尾を弱々しく垂れ下げながら、なんとも言えない顔をしていた。


「……「「刻」の終焉」?」


フェンリルの腕の中にいたプーレが言う。プーレの言葉に答えるためなのか、それとも単純に続きを言っただけなのかはわからない。けれど、フェンリルは説明をしてくれた。


「禁忌の魔法として伝わるものだ。対象を完全に抹殺する魔法であり、同時に使用者の命も失うことになる。いわば自爆魔法というところかな」


「……自爆魔法」


「そこまでしないとならんと思ったのであろうよ。……その弊害を含めても、な」


フェンリルの声がいくらか強張っていた。少しだけ嫌な予感がした。


「フェンリル。まさか」


「……そのまさかだ。「「刻」の終焉」の余波が影響しているようだ。「転移」を操作しきれぬ」


フェンリルは苦々しい表情を浮かべていた。フェンリルがこの表情を浮かべるということは相当にヤバい状況のようだ。


「具体的にどうなる?」


「……全員がバラバラの地点に出るくらいであれば、まだましというところか。下手したら全滅の可能性もある」


はっきりと言い切ったフェンリルの言葉に全員言葉を失った。


「とりあえず、風の竜王以外はひとつに纏まれ。少しはましになるであろう」


フェンリルの言葉に誰も反論はしなかった。俺はアイリスとともにプーレとフェンリルの元へ向かった。その際にプーレは俺の腕の中に戻ってもらった。プーレはどこか安心したような顔をしていた。


「フェンリル殿。なにか見えるぞ!」


ゴンさんの声に顔を上げると、正面に大きな穴が見えた。


シリウスたちを呑み込んだ穴と同じ大きさの穴だった。


「出口だ。皆踏ん張れよ!」


フェンリルが言うと同時に衝撃が走った。腕の中のプーレを強く抱き締めながら、俺はその衝撃を真っ正面から受け止めたんだ。

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