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Act9-392 次に産まれ変わったら

えー、昨日は更新できずにごめんなさい。

そして今日は遅れに遅れて申し訳ないです←汗

そのおわびではないですが、今日は増量版です。

シリウス視点となります。サブタイの不穏さは気にしてはいけません←

スカイディアがパパに迫っていた。


フェンリルがゴンさんに指示を出して、ゴンさんは撤退を始めようとした。


でもそこにスカイディアは襲いかかってきた。パパの顔めがけてスカイディアの腕が伸びる。


パパはもう動けない。レアママに胸を貫かれて心臓を握り潰されそうになっていた影響でもう戦えない状態だった。


そんなパパにあの女は襲いかかった。


パパに抗う術はない。


アイリスさんも間に合いそうにはない。


それはきっとスカイディアに攻撃を仕掛けようとしているフェンリルも同じ。


プーレママに至ってはそもそも戦える状態じゃないうえに、目が見えていない。


そうなると動けるのは、どうにかできるのは私だけだった。


『先代』


『……よいのか?』


『いいも悪いもない。私はパパを助けるんだ』


『……わかった。そなたのすべてを見届けよう』


竜王に力を奪われた私には、パパを助ける力はない。


でも先代に協力してもらえばどうにかなる。


いや、どうにかするんだ。私が、私だけがいまパパを助けられるのだから。


「行くよ、転移!」


スカイディアとパパの間に滑り込む形で「転移」をした。スカイディアの腕が私の顔に向かって伸ばされてくる。


「っ、シリウス!?」


パパが慌てていた。けど私が応えるよりも早く、スカイディアの手が私の顔を掴んだ。


「……本当につくづく邪魔をするわね。そんなに死にたいのかしら、シリウスちゃんは?」


スカイディアは私の顔を掴みながら、ゆっくりと力を込めていく。


骨の軋む音が聞こえた。


「シリウス!」


パパの悲鳴じみた声が聞こえる。


でも振り返る余裕はない。できるのはパパの顔に触れることだけ。


でもそれが狙いだった。


「……パパ。いままでありがとう」


「え?」


「魔物でしかなかった私を、娘として愛してくれて本当にありがとう」


「なにを、なにを言っているんだ?パパはシリウスがなにを言おうとしているのかがわからないよ!?」


パパは私に顔を触れられながら叫んでいた。パパの叫び声を聞きつつ、パパの顔のある部分に向かって手を動かしていく。


(ここ、かな?)


振り返れないからよくわからない。でも肌とは違う感触があった。たぶんここだ。


「だからお礼をするね。いままでの分のお礼をいまするね」


「お礼って、なにを──」


パパは理解できないという顔をしていた。


でも無理もない。


だってこれはできるかもわからないこと。仮にできたとしても馴染むかもわからない。


だけど、それでも私はパパをいまのままでいさせたくなかった。

パパを助けたかった。


助けてあげたかった。


だからこそ、私は──。


「指定対象。私の右目をパパの失くなった右目に」


「っ!?シリウス、やめ──!」


「「相転移」」


パパが私を止めようとしていた。


けど、私は止まる気はなかった。パパの制止を振り切って、私の右目をパパの失くなった右目に移植する。同時に気を失いそうなほどの痛みが体に走った。


(……パパはこんな痛みに耐えていたんだ。本当にパパはありえないよね)


ははは、と乾いた笑い声が漏れ出た。笑ってしまうほどに、いや、笑うしかないほどに痛い。


でもこれで恩を少しだけ返せた。まだ返していない恩は多い。けど、私が保つかわからない。


「……ごめんね、パパ。本当は元通りの目にしてあげたいけど、私の右目で我慢してね」


パパの目は真っ黒だった。とてもきれいに澄んだ黒。私の大好きな色のひとつ。


でもいまのパパの目は私の右目と残った左目で別々の色になってしまっている。ちょっとだけ見てみたいとは思う。


でもそんな時間はない。


次の恩返しを早く済ませないといけない。


「バカな子ねぇ。どうせカレンはすぐに死ぬのよ?すぐに死体になる者に目を与えてどうするの?なんの意味も──」


「意味はある。パパはこんなところでは死なないのだから」


「はぁ?言っている意味が──」


スカイディアは私の顔を握り締めながら、右目のあたりを特に力を込めながら言った。


痛みで私を止めようとしているのだろうけど、その程度では私は止まらない。


「……「刻」よ。その力を解き放て」


「っ!まさか、それは!?」


スカイディアが目を見開いた。ここで「それ」を使うとは思っていなかったんだろう。してやったりな気分だった。


「その大いなる力を以て、すべてを呑み込み、そしてともに消えよ」


「やめなさい!いや、やめろ!それを使ったら貴様もただではすまんのだぞ!?」


スカイディアが慌てている。


それはそうだろう。この魔法は、スカイディアが禁忌として葬った魔法。


対象だけではなく、使用者さえももろとも異空間へ呑み込ませる消滅魔法。


それが私の詠唱している魔法である「「刻」の終焉」だった。


「……いいさ。おまえを滅ぼせるなら、私はどうなっても構わない!」


「っ!こ、このぉ!ふざけるなよ、犬っころが!」


スカイディアが叫びながら私の顔を握り締めていく。血管が裂ける音と頭蓋が割れる音が同時に聞こえた。残された左目が血によって塞がれた。


「どうだ、これで──」


「……パパ、ひとつだけお願いがあるの。私からの最後のお願いだよ」


「っ!まだ意識が!?」


スカイディアがふたたび叫んだ。私が生きていることがこの女には信じられないんだろう。


「最後のって、最後のお願いってなんだよ?いいから早くそこをどくんだ!そのままじゃ、そのままじゃ、シリウスが!」


パパは涙声になっていた。


いままで状況を呑み込めないでいたんだろうけど、スカイディアの言動でただならぬものを感じてしまったんだと思う。


余計なことをしてくれる女だよ、本当に。


でもいまはいい。もういいんだ。パパに大切なことを伝えたいからね。


「……本当はもう少し先になるはずだったんだ。でももう時間はないみたいだから」


「わからない。パパは、パパはシリウスがなにを言っているのか、わからない!」


「……嘘。本当はわかっているよね?」


「知らない。そんなのは知らない!」


パパは首を振っていた。何度も何度も首を振っている。


パパはもう気づいている。気づかないわけがない。


右目をあげたのは、私はもう使わないから。


スカイディアの前に出たのは、私にはもう時間がないから。


そしてスカイディアにされるがままになっているのは、もう私は死んでしまうから。そのことをパパがわからないわけがなかった。


「……ごめんね、パパ。私は、シリウスは悪い子だね。パパより先に死んでしまうのだから。とびっきり悪い子だよね」


「意味がわからないよ。なんでシリウスが、シリウスまで死んでしまうんだよ!?シリウスは、シリウスはまだ──」


「……数百年生きたよ。パパにとってはまだ一年だけど、私にとっては数百年だった。本当はもうとっくに限界だった。でもパパのために、ううん、パパとずっと一緒にいたくて頑張った。でもそれももう終わり。私はここで終わるんだ」


この数百年は大変な時間だった。辛いときの方が多かった。


それでも私は生き続けた。パパのために。パパと生き続けるために。私は生きた。


でもそれももう終わりだ。


体がもう限界だった。


神獣になっても、元の私はただのウルフだった。どれだけ格が上がったところでもともとありふれた血筋の出だ。手に入れた力が体に納まらなかった。


ずっと無理をしていた。無理をしてでも力が欲しかった。


その力も奪われてしまった。奪われたことで均衡は崩れた。


私の体はもう限界を超えている。いつ崩壊してもおかしくないほどに壊れてしまっている。


だからもう生きることはできない。


パパの娘としての日々を過ごすことはもうできない。


「……嫌だ。嫌だよ、シリウス!シリウスまでいなくならないでくれ!シリウスまでいなくなったら、パパは、パパはどうすればいいんだ!?」


パパは泣いていた。泣きじゃくるパパを見ていると、こういうところもそっくりなんだなと思う。血の繋がりはないのに、私とパパは本当に似た者親子なんだと思える。


だからこそ次は。次に産まれ変わったら──。


「生きて、パパ」


「え?」


「パパは生きて。私の分まで生きて。そして約束してほしい」


「なにを?」


「……次産まれ変わったら、パパの本当の娘になりたいの。父上と母上には悪いと思うし、ほかのママたちにも悪いと思うけど、次はパパとカルディアママの本当の娘になりたいんだ」


──そう、次はパパとカルディアママの本当の娘として産まれてきたい。父上と母上、そしてほかのママたちには本当に悪いと思うけど、パパの隣はカルディアママの居場所だと思う。それが一番自然に見えた。


(……ごめんね、ノゾミママ。ノゾミママを助けられなかったうえに、ノゾミママの気持ちを踏みにじることを言って、本当にごめんなさい)


子供の頃にわずかな間だけ一緒にいられたノゾミママ。ノゾミママのことはいまでも大好きだ。けれど、一番大好きなのは、一番大好きなママは、ノゾミママからカルディアママになっていた。


だからノゾミママとではなく、カルディアママとの娘になりたいと思ってしまった。


「……パパ。ノゾミママにごめんねって伝えておいて。守れなくて、助けてあげられなくてごめんねって」


「……自分で、自分で言え!パパからじゃなく、自分で言え、シリウス!」


パパは俯いていた。俯くパパに声を掛けてあげたいけど、いつまでも話はしていられない。


「……もう時間はないから。元気でね、大好きなパパ」


私は最期の力を振り絞って雄叫びを上げた。雄叫びを上げながらスカイディアを押し込んでいく。パパたちの元から少しでも離れるために。少しでも遠くにスカイディアを押し込んでいく。


「待て、シリウス!」


パパが叫ぶ。けれど私は止まらない。止まらないままスカイディアを押し込んでいく。


「どこにこんな力がっ!?」


スカイディアは慌てている。慌てながらも私の頭蓋を砕いていく。


視界はとうにない。


それでも迷うことなく突き進む。その最中にカティの体を使うフェンリルとその腕の中にいるプーレママとすれ違ったのがわかった。


「あとは頼むね」


「……承知した」


フェンリルとは短いやり取りをした。


プーレママとはなにを言えばいいかわからなかった。


「……またね、シリウスちゃん」


「うん。またね、プーレママ」


けれどプーレママは「またね」と言ってくれた。本当にプーレママは優しい人だった。だから私も「またね」とだけ言った。


そうしてプーレママたちからとも離れた。やがて体が宙に浮いた。重力に体が引かれていくのがわかる。


「やめろ。やめろ。やめろ!貴様は──」


「いまさら死は怖くなどない。だから貴様を道連れにさせてもらうぞ、邪神!」


「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ!」


スカイディアが壊れたように叫ぶ中、私の顔を掴む手が不意に放れた。見上げるとゴンさんの体が光に包まれていく。フェンリルが転移を使ってくれたようだった。


これでパパたちは逃げられる。


安心して死ねる。


「シリウス!」


不意に声が聞こえた。


ゴンさんの背中からいまにも飛び降りようとするパパがいた。


そんなパパをアイリスさんが羽交い締めにして止めていた。


アイリスさんにありがとうとお礼を口ずさんでから私はパパに最期の言葉を、聞こえないだろうけど、最期の言葉を口にした。


「さようなら。大好きだよ、パパ」


できる限りの笑顔を作ってパパを見やる。パパが涙ぐみながら「シリウス!」と叫んだ。そんなパパを眺めながら私は最後の詠唱をした。


「さぁ、行こう。「刻」の果てへ」


その詠唱とともに私とスカイディアを真っ黒な穴が、私とスカイディアを呑み込む真っ黒な穴が現れた。


その穴の中に私とスカイディアは呑み込まれていく。それと同時にゴンさんの体が光の中に消えていく。泣きじゃくるパパの姿もまた消えていく。


そんなパパに向かって私はもう一度「さようなら」を言った。


今生の別れを告げるとパパたちはいなくなった。そして私とスカイディアもまた世界から消えてなくなった。


怖くはない。後悔もない。ただ誇らしさはある。


大好きなパパを守れたことに私は誇りを抱きながら、邪神とともに世界から消えてなくなったんだ。

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