Act9-385 怒れる母神
遅くなりました。
プーレに手を掛けようとしていたスカイディア。
俺が腕を伸ばすよりも、スカイディアの手が伸びる方が早かった。
スカイディアはいかにも楽しげに、そう、とても楽しそうにプーレを殺そうとしていた。プーレを殺すつもりで、プーレに手を伸ばしていた。
助けたい。
助けたいのに、助けられない。
(また助けられないのか。また守ることができないのかよ!)
プーレだけは守りたかった。
せめてプーレだけでも守りたかったんだ。
なのにプーレまでも喪ってしまうのか。
涙がこぼれた。
涙が溢れていく。
そんな俺を見てスカイディアの笑みはより深くなっていく。
必死に「プーレぇっ!」と叫んだ。
でもどんなに叫んだところでプーレを助けることはできない。
助けられないまま、ただ迫りくるスカイディアの手を見つめていることしかできなくて。でも必死に手を伸ばしていた、そのときだった。
「──私の怒りと怨みと悲しみとついでに嫉妬まみれのぉぉぉ、おまえぶっ飛ばキーックぅぅぅっ!」
「……え?」
それはまるで流星のようだった。いきなり現れたと思ったら、まさかの一撃を放ってくれた。
スカイディアの横っ腹へと目掛けて突き刺すような、それこそ空を駆ける流星のような飛び蹴りが放たれたんだ。
それ事態は別に問題ではなかった。
その飛び蹴りのおかげで、まさかそんな一撃が放たれるとは思っていなかったようで、スカイディアは横っ腹に飛び蹴りの直撃を受けた。
「なっ!?」と驚いたような声をあげて、スカイディアは水平にぶっ飛んでいった。
俺では間に合わなかった。プーレを助けることはできなかった。
だからその飛び蹴りはプーレを助けてくれた、素晴らしい一撃だった。
そう、その点で言えばなんの問題もない。
問題があるとすれば、だ。
(……そのネーミングはどうよ?)
そう、そのネーミングは本当にどうなんだろうか?
プーレを助けるための一撃だったというのはわかるんだけど、そのネーミングだけはどうかと思うんだよね。
いままでの緊迫とした空気が、一瞬でコメディーチックになってしまったもの。
いや、シリアスな雰囲気だと死人は出やすく、コメディーチックになると死人は出ないというのは、わりとよくあることではある。
でもそれがこうして現実になると、なにも言えなくなってしまうものなんだなぁと思った。
実際、命を狙われていたプーレは、言葉を失いつつ「カティちゃんは元気なのです」と言っていた。
うん、元気だと思う。元気だとは思うけど、おそらくはそれ以上になにも言えないのだと思う。
その当のカティは、いつものように「わふぅ!」と鳴いている。完全にドヤ顔だった。けどとてもカティらしい表情だった。
「──とりあえず、おまえはぶっ飛ばすから覚悟してね!」
水平にぶっ飛んでいったスカイディアにはっきりと宣言したカティ。
そんなカティの言葉を聞いて、スカイディアは体勢を立て直した。
「……いい度胸じゃないの、カティちゃん」
体勢を立て直したスカイディアの表情は、怒りに染まっていた。眉間にしわを寄せたスカイディアがカティを睨みつけていた。
「やれるものならやってごらんなさい、小娘が!」
スカイディアが叫んだ。その声はそれまでになかった怒りを露にしたものだった。
(……ここからが本番ってやつかよ)
のし掛かる現実に俺は、大きなため息を吐いたんだ。
続きは明日となります




