Act9-376 鮮血の舞う中の叫び
遅くなりました←汗
タマちゃんの体が冷たくなっていく。
少し前までは話ができていたタマちゃん。人一倍に臆病なくせに、誰よりも優しくて強い人だった。
そのタマちゃんがいま死んだ。
タマちゃんの体はゆっくりと冷たくなっていく。そのぬくもりが腕の中で消えていく。
(……また、なのか?)
また俺は大切な人を失った。
今日だけで何人喪うのだろうか。
カルディア、モーレ、サラと続きレアも喪った。ティアリカは負けてお義兄さんの手に落ちた。ガルムが宿る「黒狼望」は全壊した。そこにダメ押しのようにタマちゃんも加わった。
またひとりいなくなった。
俺の大切な人はまたいなくなっていく。
アルクはまだ生きていると思う。
でもそれだって時間の問題だ。
これ以上誰も喪いたくない。喪わせたくない。
(でもどうすればいい?)
どうしたら誰も喪わずにいられるのか。どうしたらこれ以上悲しまなくなるんだろうか。
(どうしたらもう誰も喪わずにいられるんだろうか?)
体は動く。
頭だって思考を巡らしている。
でも心だけがもう限界だった。
心が悲鳴をあげていた。
もうなにもしたくない。もうこのまま倒れ伏したい。自分の喉笛をかっさばいて死にたかった。
そうすればもうなにも考えられないでいられる。
なにも苦しいこともなく、なにも悲しいこともなく、カルディアやレアたちがいる場所に行ける。
だからこのまま死にたい。
カルディアたちに会いに行きたい。
いや、行くべきだ。
もう俺はなにもしたくない。なにも考えたくない。
まだ残っている「黒天狼」で喉元を突けばいい。
いや、突くべきだ。そうすればもう苦しみは──。
「ふふふ、いいわよ?死んでくれてもね」
クスクスと笑う声が頭上から聞こえた。
見上げれば笑うスカイディアがいた。
スカイディアは穏やかに笑っていた。とても優しそうに笑っている。
その表情だけを見ると、母神様と言えなくもない姿に見えた。
けれど言っていることは、母神というよりも邪神という方が正しい。
そうわかっている。
わかっているのに、俺はゆっくりと「黒天狼」を喉元に突きつけた。
このまま一気に突き破れば、それで死ねる。楽になれる。
俺はなにも考えることなく、喉元を突き破ろうとした。
「ダメなのです!」
不意に聞こえたのは、プーレの叫び声だった。
プーレはアイリスに支えられながら、目が見えないはずなのに俺へと向かって叫んでいた。
「旦那様は諦めないでください!旦那様はみんなの希望なのです!みんなの心を照らしてくれるお日様の様な人なのです!だから諦めちゃダメなのです!」
プーレは泣きながら叫んでいた。泣きながら叫ぶプーレの言葉に返事をしようとした。
でも──。
「……やっぱりおまえは殺さないといけないね、プーレ」
──それよりも早くプーレの背中に、アルトリアが立った。
死んだはずのアルトリアが笑いながら立っていた。そしてその手に持つ金色の剣を迷いなく振るった。プーレが振り返るのとその剣が肉薄するのは同時だった。
「ぷ、プーレぇぇぇ!」
赤い鮮血が舞う中、俺はただプーレの名前を叫んだ。




