Act9-359 悲劇は続く
非常に遅くなりました←汗
今回はアイリス視点となります。
あと今日は1話更新になります←汗
ひどい有り様だった。
叔父様が所有している館の中庭、になるはずのそこはひどい有り様だった。
もともとそうだったのではないのだろうけど、ひとつの舞台になっているそこの中央には大きな裂け目があった。
ここからではわからないけど、瓦礫が裂け目に呑み込まれても底にたどり着く音が聞こえないことからして、かなりの深さのようだった。
それこそ、この星の底にまで続いているのじゃないかと思うくらいに深い裂け目。もはや穴という規模ではないそれは、裂け目としか言えないものだった。
そんな裂け目を前にして主様は見上げるほどの巨体の狼の背に乗られていた。その腕の中にはプーレさんがいる。
いや、プーレさんしかいなかった。
サラさんはいない。
風のドラゴンロード様はおられるけど、サラさんの姿がない。
そもそも聖上がいるのに、シリウスちゃんの妹であるカティちゃんの姿さえもない。
まぁ、私はカティちゃんには会ったことはないのだけど。
姉様の力で異空間に閉じ込められていたときに何度か目にしたことはあるけど、会ったことはなかった。
そのカティちゃんが、この「霊山」に来た理由であるカティちゃんの姿さえもない。
いったいなにがあったのか。
いや、だいたいの状況はわかる。
主様はひどく傷ついたように憔悴しきられていた。
その時点で主様の身になにかがあったということはわかる。
そしてサラさんやカティちゃんがいないことを考えると、導き出される答えはひとつだけだ。
「……サラさんとカティちゃんは」
おそらく喪われてしまったのだろう。
嫁のひとりである方と愛娘のひとりを喪ってしまったら、主様とて憔悴されてしまうのも当然でしょう。
なんて声を掛けてさしあげればいいのかわからない。
わからないまま、どうにかおふたりのことを口にすると、主様を背中に乗せている巨狼がなぜか首を傾げた。
「……わふぅ?パパ、あの人誰なの?私のことを知っているけど?」
「パパ?」
主様をパパ呼びする巨狼。
見た目とは裏腹に声が甘ったるいというか、子供っぽいというか。
「……えっと、もしかしてあなたがカティちゃん、なのかしら?」
「わふぅ?そうだよ?お姉さん、誰なの?」
不思議そうに首を傾げる巨狼ことカティちゃん。私が知っているカティちゃんよりもはるかに大きな姿に言葉を失った。
「え、えっとアイリスと言います。主様、カティちゃんのパパの従者になったの」
「従者?従者っていうとエレーンママと同じ、あ」
カティちゃんは明らかに「しまった」というように顔をしかめてしまった。
エレーン。
その名には聞き覚えがあった。
たしか「蝿の王国」であのギルドマスターを抱えていた天使の名前がエレーンだったはずだ。
あれ以来見かけてはいなかったけど、もしかしたら参戦していたのかもしれない。
けどそのエレーンの姿はなかった。
(もしかしたらエレーンをも?)
実に考えられることだった。
聖上が相手であれば、いくら天使とはいえ、消滅は必至でしょう。
ただの天使であればまだいいけど、その天使は主様の嫁のひとりだったはず。
その嫁を喪った。
たしかに主様が憔悴されてしまうのも当然でしょう。
そして私の腕の中には主様の憔悴をより加速させてしまう存在がいた。
「……アイリス。その腕の中にはいるのは?」
主様は光を失いつつある瞳を、ぞっとしそうなほどに冷たく暗い瞳を向けられていた。その瞳を見ていると思わず悲鳴を上げそうになった。
だけどどうにか恐怖を抑え込んで告げた。
「……蛇王様のご遺体です。シリウスちゃんに託されました」
「レアママ、が?」
カティちゃんはいま気づいたのか。いや、あえて見ないようにしていたのか、目を大きく見開き、体を震わせていた。
「嘘、なのです」
主様はなにも仰らなかった。その主様の代わりのようにプーレさんは体を震わせて言った。
「レア様が死なれるわけがありません!レア様は最強なのです!だから死なれるわけがないのです!」
プーレさんはいまにも主様の腕の中から抜け出しそうなほどに狼狽えていた。
蛇王様とは姉妹のような間柄だったという話だったから、その言葉は当然だった。
けど嘘だと言うことはできなかった。蛇王様はもう死なれているのだから。
「……誰だ?誰がレアを」
主様は蛇王様を手に掛けた下手人を尋ねられた。叔父様、竜王ラースであることは伝えられる。だがその竜王ラースはもう生きては──。
「私だよ、カレン殿」
──不意にコツコツと靴の鳴る音が聞こえてきた。それも私の背後からだった。慌てて距離を取り、振り返った。
「やぁ、カレン殿。なかなかいい表情になったではないか」
にこやかに笑う竜王ラースが、ボロボロになったシリウスちゃんを引きずった竜王ラースが闇の中から現れた。




