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Act9-358 生きてください!

闇が広がっていた。


深く。とても深く広がる闇だった。


闇の先は当然のことだけど、なにも見えない。


見えるのは大きく口を開けた深い崖のような穴だけ。


その穴の中にサラは呑み込まれていった。


その後を追いかける形で瓦礫が落ちていく。


だけど音は聞こえない。


底にたどり着いた音がいつまで経っても聞こえない。


そんな闇の中にサラは落ちていった。


「また、なのか」


サラもいなくなってしまった。


またひとり喪ってしまった。


大切な人をまた喪ってしまった。


でもサラに関してだけ嘆く資格はない。


だって俺はいまサラを切り捨てたから。


サラを見捨てて、プーレを選んだ。


確実に助けられるプーレを選び、助けられるかわからないサラを見捨てたんだ。


サラを選らべば、プーレを助けることはおろかサラをも喪いかねない。


だからサラを助けることを、サラを止めることは選べなかった。選ぶわけにはいかなかった。


でもどんな理由をつけたところで俺がサラを見殺しにしたことは変わらない。


いや、サラを殺したのは俺だった。俺がサラを死なせてしまった。俺は大切な人を、嫁を殺したんだ。


命を奪ったことがないなんて言えない。


いろんな命を俺は奪ってきた。


そういう意味では、奪った命がまたひとつ増えただけだ。


でもその命が大切な人のものだった。


いままで奪ってきた命だって、そのときのことを思い出すと夜眠れなくなる。


それが大切な人であったら、俺はどうなってしまうのだろう。


(あぁ、だから俺はダメなんだろうな)


すぐに自分のことだ。


サラを殺した罪悪感じゃなく、サラを喪ったことで自分がどうなるのかを考えてしまう。自分の身を守ることばかり考えている。


浅ましい。


なんて浅ましいんだろう。


サラを見殺しにしたくせに自分のことばかり考えるなんて浅ましいにもほどがあった。


「……ちくしょうっ!」


拳を振り上げる。その拳をそのまま俺自身の頬に突き刺した。


カティが「パパ!」と俺を止めようとしている。けれど俺はもう自分を止められない。止める理由がないんだ。


(死んでしまえ!俺なんか死んでしまえ!)


苛立ちを募らせながら、拳を頬に突き刺すように振るっていく。


口の中が切れるけど、知ったことか!


(サラの痛みに比べたら、サラの命に比べたら俺の命なんてはるかに軽い!)


どんなに痛くても。どんなに傷を負おうとサラに比べたら、はるかに軽い!


だから殴れる。このまま自分を殴り殺したい。いや殴り殺してやる。


そうでもしないとサラを殺した罪を償うことができない。

だから俺は自分を殴るしか──。


「ダメなのです!」


──振り上げた拳を、俺の右腕にプーレが抱きついて止めた。


プーレは涙目になりながら、俺を止めていた。止めてくれていた。


「なんで、止めるんだよ?俺なんか生きていても」


「旦那様のバカ!そんなことをしてサラさんは喜ばないのです!サラさんだけじゃない!カルディアさんもエレーンさんも喜びません!」


「でも、でも!なら俺はどうすれば」


「生きてください!旦那様はなにがあっても生きてください!どんなに辛くても死んだらそれで終わりなのです!」


プーレの言葉は厳しかった。


死ぬことを許さない。それどころか生きろと言っている。


もう生きていたくない。


もう見たくない。


誰かが死んでしまうところをもう見たくなかった。


だけど、それでもプーレは生きろと言う。


なんで生きなければならないのか。


どうして生きなければならないのか。


もうわからなかった。


「……でも、俺はもう」


生きていたくないなんかない。


そう言おうとした、そのとき。


「主様、ご無事ですか!?」


アイリスの声が聞こえた。


声の聞こえた方を見やると、そこには胸から血を流してまぶたを閉じたレアを抱き抱えたアイリスが立っていた。

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