表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1337/2054

Act9-356 大好きですよぉ

フラグが発動しそうです←

姉様が遠ざかっていく。


あいにくと背中に目はないからわからないけど、姉様はわりと泣き虫な人だった。


だからきっと泣いている。私がいまからすることを理解し、それでも協力してくれた姉様。本当に姉様には頭が下がります。


『いままでありがとうございました、姉様』


念話でいままでお世話になったことへの感謝を告げる。姉様はなにも仰いません。



でも聞いておられないわけじゃない。

ただ答えられる余裕がないだけ。


『……次にお会いするときまでに、泣き虫さんはご卒業されてくださいね?』


『……誰が泣き虫だ。愚妹が』


『ふふふ、姉様ですよぉ~』


『口が減らぬ奴だ。おまえのような愚妹などもうたくさんだ』


『あららぁ~。私は次も姉様の妹になるつもりでしたよぉ?』


『……なぜだ?』


姉様は本気で問われた。短い一言の中に「私はおまえになにもしてやれていないのに」という想いがあった。姉様がどれほどまでに私のことを想ってくださっているのかがよくわかりました。


(もっも早く伝えてほしかったですねぇ。まぁ、姉様らしいですか)


ふふふ、と笑った。笑える私自身が不思議だった。


でもよくよく考えたら不思議でもなんでもない。だってこれはあたりまえのことですから。


大好きな姉様が、「刻」のドラゴンロードである姉様がおられるのです。


憂いなどない。


憂いなどあるわけがないのです。


私の代わりに姉様が旦那様をお守りしていただけるのです。


ならば憂いなどあるわけがない。


心残りがないと言えば、嘘になります。


ですが、私にはもう迷いなどないのです。


だからこそ、私は「風」となれる。いや、いまこそ「風」となるのです。


でも「風」となる前に伝えておかなければならないことがあります。大好きな姉様に。泣き虫な姉様にと伝えておきたいことがあるのです。


『ふふふ、なぜと問われますか?そんなの決まっているじゃないですか』


『決まっている?』


『ええ。私は姉様が大好きなんです。だから大好きな姉様の妹になりたいのです。妹のままでいたいのです。それはいままでもこれからも。そして次に生まれ変わっても変わりません。変わることはありません』


『……サラ』


姉様が息を呑まれた。いまごろ涙でくしゃくしゃでしょう。


本当に困った姉様です。


本当に困った、大好きな姉様ですよ。


だからこそ私は姉様に後を任せるのです。いや任せられるのです。


だから迷いはない。たとえこの身が──。


『姉様の妹になるまでお待ちしております。でもすぐに追いかけては来ないでください。約束ですよ?』


──数十秒後に砕け散ろうとも。私には迷いはなかった。


『あぁ、約束しよう。我が最愛の妹。来世でもおまえは我が妹だ』


『はい。妹になるために「天国(アルカディア)」でずっとお待ちしております。さようなら、姉様』


『あぁ、さらばだ。我が妹よ』


姉様との念話を切る。


すでにスカイディアの顔が見える距離にまで近づいていた。


スカイディアは目を見開いて感心したような顔をしていた。


「……まさか、風のドラゴンロードでもないのに、その技を使う気とは。でも、できるのかしら?あなたは風のドラゴンロードではない。その技を放つ資格を持たざるものよ?発動して不発してもあなたは」


感心してからスカイディアはそれまで通りの笑みを浮かべた。


その顔にははっきりと無駄なことをと書かれていた。


そう、無駄かもしれない。


たとえこの技を以てしても意味のないことなのかもしれない。


それでも、それでも私はやらねばならぬ!


「それがどうした!私は友の仇を討つ!たとえこの身が砕け散ろうとも、だ!」


スカイディアへと向けて吼えた。その咆哮に掻き消された旦那様の叫び声があった。


その内容は聞こえなかった。


いまからするのが決死の技、いや、確実に私が死ぬ技であることを伝えていなかった。伝えたら絶対に止められる。


だからこそ言わなかった。伝えなかった。この技の結果がどうなろうと私が死ぬということを。


でもその結果、旦那様の道が切り開けるのであればそれでいい。


旗から見たら犬死にだったとしても構わない。


あの人の心に火が宿るならそれでいい。


でもそのことをあの人はわからない。


この想いは最期の最後まで伝わらない。


だからこそあの人は叫んでいる。必死になって私を止めようとしてくれている。


でもその叫びを聞いても私はただ笑っていた。せいいっぱいの笑顔を浮かべて最愛の人を見やった。


(さようなら、旦那様)


心の中でお別れを告げてから、私はそれを放つ。風のドラゴンロードが代々受け継いできたもの。神技ほどではない。


ですが、風のドラゴンロードのみが放つことを許された一撃。


「風」を凌駕し、「嵐」さえも越えた。風という概念が行き着く先。風の神獣であるジズ様だけが行使できる神の風。その力を一時的にその身に宿す一撃。その体をひと振りの刃に、断てぬもののなきひと振りの刃となす一撃。


でもそれが使えるのは風のドラゴンロードのみ。風のドラゴンロード以外が行使すれば、その命を以て償いとする一撃。その名は──。


「無明風滅刃!」


風の力が私を包み込む。この身をひと振りの刃に。旦那様の未来を妨げる邪神を滅ぼす刃として迷うことなくこの身を捧げられた。


スカイディアは目を見開いた。放てるとは思っていなかったのだろう。


驚愕とした目で私を見つめていた。


「サラぁぁぁぁーっ!」


不意に声が届いた。目を向ければ泣きじゃくった旦那様がいる。


そんな旦那様に向けて私はもう一度笑った。これが最後。最後と思ったら自然と口にしていた。


「ふふふ、大好きですよぉ、旦那様」


いつものように呑気な口調で私は旦那様への想いを口にした。

サラさんはフラグを潜り抜けられるかは次回にて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ